入学式の朝 **夏芽**
初めての制服を着て、私は急いでお隣りへ行く。
「直生、準備できた? 早く学校へ行こう!」
「ちょっと夏芽待って。まだ制服に着替えてないよ。リビングで待ってて」
「はーい! 早くしてね、直生」
私は「お邪魔しまーす」と言いながらいつも湯川家に上がり込み、リビングで直生を待った。
遠い学校に入学した遥生はすでに登校した後でこの時間にはもう家にはいない。
遥生の制服姿を見たかったな。
どんな制服なんだろう。
そんなことを考えながらリビングの先にある扉を見た。
小さい頃からこの家に遊びに来ているのにあの扉の先には一度も入ったことが無い。
前に誰の部屋なのか聞いたら、
『誰の部屋でもないよ。今は物置になっているから入らないでね』
って直生に言われたんだ。
「あら、夏芽ちゃん早いのね」
後ろから直生のお母さんに声を掛けられたから、見ていた扉から目線をおばさんに向ける。
「あっ、おばさん。おはようございます。 今日の入学式は直生と先に行っててもいいですか? 早くクラス分けを見たくて」
「もちろんよ。私は夏芽ちゃんのお母さんと一緒に行くわ」
遥生の入学式は私たちよりも一日早くて、昨日だった。
「おばさん、遥生の入学式はどうでした? 遥生、同じ中学校の友達がいなくて一人ぼっちだから大丈夫かな」
「遥生は大丈夫よ。昨日は部活見学するって言って学校に遅くまで残っていたみたいよ」
「そうなんだ。遥生は何部に入るんだろう」
おばさんと遥生の話をしていたら制服に着替えた直生がリビングに入って来た。
「わぁ、直生のブレザー姿かっこいいね。なんか高校生みたい」
「あははっ、僕たちは今日から高校生だよ。夏芽の制服も似合ってる。中身はまだ中学生だけどね」
「しっ、失礼な! 私だってもう立派な高校生ですぅ」
直生の言う冗談はいつも優しい。
これが遥生だったらもっと酷い言われようだったろうな。
『夏芽は制服に負けてるよな。ブレザーが歩いてるぞ! チビだな、相変わらず。はははっ・・・』
思わず遥生が言いそうなことを考えて笑ってしまった。
「夏芽、なに笑ってんの? ほら、学校へ行くよ」
直生に笑い顔を見られて、ちょっと恥ずかしかった。