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いつも側にいてくれたね  作者: 摘美花-ツグミカ-
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幼少期の出来事 **???**


高田夏芽と双子の兄弟・湯川直生(兄)と湯川遥生(弟)


3人は初夏の同じ日に、同じ病院で生まれ、家も隣同士。


家族同士も仲が良く、何をするのも一緒だった。




小学校入学前の春、高田家と湯川家は山と川に囲まれた自然豊かなキャンプ場へ遊びに来ていた。


食べるよりも遊ぶことに夢中な子供たち3人は誰からともなく駆け出し、鬼ごっこを始めた。


お母さんたちが遠くまで行ってはダメよ、と注意しているのに適当な相づちで答えて、大人たちの目の届かない所まで駆けて行ったんだ。


かけ足の早い遥生がジャンケンで負けて最初の鬼。


鬼のターゲットは少しおっとりしている夏芽と決まっていた。


そして鬼の役目が夏芽に変わると、直生は夏芽が捕まえやすいように手加減して走る。


それを見て遥生は


「直生、手加減したらつまらないよ」


と、いつも直生に文句を言う。


夏芽が鬼になった時、この日はめずらしく遥生は直生のとなりに並んで止まった。


そして夏芽がどっちにタッチするのかを面白がって2人で賭けた。


「いつも僕が夏芽から鬼を貰うからきっといつも通り僕にタッチしてくるよ」


直生がそう言うと、負けずに遥生も


「俺は夏芽に捕まったことなんてないから、初めて俺を鬼にするために俺にタッチする」


止まっている2人に向かって夏芽が全速力で向かってくる。


さあ、どっちを鬼にする? 夏芽。





夏芽は鬼にする方を決めてタッチしようと走りながら手を伸ばした。


自分を選んでもらえなかったことが悔しかったんだ。


夏芽の伸ばした手をギュッと掴んで自分の方に引っ張った。


思い切り夏芽の手を引っ張ったものだから、夏芽はバランスを崩して並んで立っていた2人に体当たりする格好になった。


「「危ないっ!!」」


「わぁ、ごめーーん」


夏芽が謝ったのと同時にドスッと2人の体を夏芽が押した。


ぶつかった瞬間、3人の体は崖の下に落下したんだ。


『わぁぁぁぁっ』


『うわぁぁぁっ』


『きゃぁぁぁぁ』



崖から落ちている時、夏芽を守らなきゃって。


自分の体が下になれば夏芽は痛くないかなって。


そんなことを考えて夏芽を抱えて崖の下まで転がり落ちたんだ。




どれくらいの時間が過ぎたのだろう。


気が付いた時、隣に夏芽が倒れていた。


「夏芽! 夏芽! 起きて、大丈夫? 夏芽!」


夏芽に一生懸命声を掛けた。


お願いだから目を覚まして。


夏芽の隣に横たわっている自分の体の下からは真っ黒い液体がたくさん流れ出ている。



「えっ? これは・・・?」



何故か並んで横たわっている3人を上から眺めていた。


これは一体どう言うことなの。


夏芽の隣にいる自分の体をどうして上から見ることができるの?


ケガもしていなくてこうして立っているのに。


ほら、ちゃんと両足で立ってるでしょ。


下を向き自分の足を見る。


自分の伸ばした手を見る。


その手で顔を、頭を、おなかを触ってみる。


何もかもが透明で、何もかもが無かった。


この状況が理解できず横たわっている3人の体を呆然と眺めていた。


自分の体と夏芽の体だけ全然動いていないことに気が付いて、イヤな予感がしたんだ。




『あなたはここで5年の生涯を閉じました。私と一緒に参りましょう』


どこからか聞こえてきた声。


周りを見渡しても誰もいない。


『あなたの魂を天国に連れて行かなければなりません。この世に未練を残さないため最後に一つ、願い事があれば叶えましょう』


目に見えないその人は優しい声で語りかけてきた。


「もしかして死んじゃったの? 夏芽は、夏芽は生きてるの?」


『夏芽さんは生きています。ですが夏芽さんはあなたの死に向き合えず一生涯後悔して過ごします。それは癒されることはなく、16歳で自ら死を選択するのです』


夏芽は自分のせいだと思い込んで自殺するって?


これは事故だよ。


夏芽のせいじゃないんだよ。


罪の意識から自殺をするなんて、そんなのだめだよ。


夏芽は生きて。


「最後にどんな望みでも叶えてくれるの?」


『はい。どのような望みでも』


「じゃあ、生き返らせて。3人が生きていたら夏芽が自殺しようなんて思わないでしょ。だから生き返らせて」


『はい、承知しました。その望みは一番重い希望となります。そのため次にお話しする約束を受け入れるのなら、あなたの命は助けましょう』


「約束って、何?」


『夏芽さんの運命は16歳になった年までです。夏芽さんが亡くなる予定のその瞬間にあなたの命は消えてなくなります。それは夏芽さんが死を選んでも、死を選ばず生きることを選んだとしてもです』


「それは16歳の何月何日? いつなの?」


『それはお教えできません。夏芽さん自らが死を選ぶその時は16歳。それ以外はお答えできませんが、その瞬間にこの世からあなたの体は消えてなくなります。それでも望みを叶えたいですか?』


自分が消えることなんてどうってことないんだ。


夏芽さえ生きてくれたら。


夏芽さえ幸せになってくれたら。


それだけでいいんだ。


「うん、分かった。その条件で生き返りたい」




あと10年。


自分が消える瞬間に夏芽に笑っていてもらうために。


自分にできることは何でもしよう・・・。



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