2-1「出立」B
○
「それで、まずは何処に向かうの?」
ルミが聞く。
私とルミ、イライザが丸い机を囲んで座る。これからの身の振り方について考えているのだ。というか見た目完全に家族会議である。イライザが人に化けているせいで、絵面が完全に娘と妻に責められるおやじーなのだ。ちょっと圧が...。
とはいえ昨晩は立て込んでいてよく考える余裕もなく、なんだかんだ成り行きでこうなってしまったが、住むところや私とルミの関係なんかも、問題は山積みである。
「テラ・パシフィカ。」
私は答えた。
「ザツァ自治連邦の首都、国家都市テラ・パシフィカ...。」
ルミは何か考えているようだ。
高原の町テラ・パシフィカ、それは、ザツァの大森林を囲む三つの都市国家、ジェルドバ、アルバンガルド、キルクルスをはじめ、周辺の村落を含めたザツァ地域を治める連邦国家の首都である。ザツァ自治連邦のその実は、連邦国家というより都市国家どうしの相互通行通商と、技術交流や衝突の回避のためのただの会議のようなものなのだが、諸外国に認められるために国家の体をなさねばならなかったのだ。特に最近アルバンガルドが西の帝国に媚びを売っているようで、四国の結束に穴が開きつつあるらしい。その点、他の三国の結びつきが強まった、ということもあるのだが。
「で、理由があるんでしょ?高原に行くのは。」
「そう。アズベルに会いたいんだ。付き合ってもらえるかな?」
「アズベル?」
「うーん、お友達と言うかなんというか、そんな感じ。」
本来であれば、学会の知り合いをたどってジェルドバへ向かうのが得策だ。だけどもその前に、アズベルを旅に誘いたいのだ。
「なにせ魔導書だものだから、足がないもんで。」
「しかたないわねー。」
「オナシャス。スマセン。」
しばらくの沈黙の後、ルミが口を開いた。
「でさ、これからの身の振り方なんだけどさ、ケイ、ここに住んでもいいかな?」
そう言われるとわかってはいたが、なんだかきな臭いぞ。
「まあイライザもいるし、いいけど...。」
「いいのー!!」
なんだかルミ嬉しそうじゃないか。さてはルミ、快適な室温と旅の途中でも使える彼女の割と高級めなベッド、私の作る三食ご飯付き生活に期待しているな。
「ちなみに三食洗濯掃除その他もろもろはケイ持ちでお願い!」
「をい」
やっぱりそうじゃないか。
「いいのかー?それは俺と同棲を意味するんだけども。」
「すでに同棲以上の関係でしょ。いまさら何言ってるの。」
「おい?それはだいぶ語弊があるというかなんというか。」
「だったら何よ、あの微妙に値が張る寝心地のいいベッドがあるっていうのに、宿屋のカチコチ布団で寝ろって言うんですか!」
「毎晩落ちてんじゃねーか!」
「...っ。」
脹れてる、ルミ。
「そうだお金、」
ふいに思い出した。
「お金?」
ルミは首をかしげる。
「来て」
私は彼女を連れて、私の店の物や家具が置いてあるスペースに向かった。私のタンスの三段目の奥、金庫が入っている。
「かぎ、かぎかぎ、どこだっけ。あった。ここにあるから。」
数年間分の貯金、私の全財産だ。宿を借りなくてもいいとなれば、一、二年くらいは旅ができる。
「どうも俺物理的に寝れないらしいくてさ、その間仕事するから、街で売ってそれで稼ごう。」
「...うん。」
「ルミの魔導書になった今、ルミにも教えておかないとね。」
例の空間から出て、彼女は諸々を処理しに歩く。日はいつの間にか高く登り、十時くらいだろうか。軌道列車の朝の便はもう出ただろうから、次は夕方だ。まだ時間はたっぷりある。ルミが荷物も何もかも全部私の中に吸い込んだおかげで、荷造りなんかの手間が省けたのは少しありがたかった。
私はと言えば、例の空間内の片付けやらなんやかんや。集中はなかなか持たないし、そうしていてもルミが聞く事見たこと全部頭に流れ込んでくるので、気になってすぐ背後霊状態に戻ってしまう。なかなか大変だ。あんまり義体が起き上がったり倒れたりするものだから、イライザに心配をだいぶかけてしまったようだ。
「あらルミちゃんじゃない。」
ルミの大家のおばあさんの声だ。
「こんにちは、大家さん。」
「今朝ドアが開いていたものだから、なにかと思って見てみたら、家具とかすべてなかったから、そういうことなのね。今までありがとね。さびしくなるわ。」
「...本当にありがとうございました、大家さん。」
「ところで、ケイ?君でしょ、どうなの彼とは最近?」
おい?大家さん?
「ちょっといろいろありまして」
「いろいろ?今はどういう関係なの?、彼とは。」
「同棲以上の関係...?」
おいルミ???
「まあ!!そうだったの!。だからだったのねルミちゃん適齢期なのにお勉強ばっかりで大丈夫かと心配してたけどそうだったの!」
大家さん!???
「...本当によかったわ!それならぜひ結婚式は私も呼んでね」
大家さん!!!?
「あはは、そうします~。」
ルミ?!!????
軌道列車の発車時刻まであと数十分。ルミは乗車券売り場に並んでいる。平日と言うこともあって、そこまで混んでいる様子はない。
テラ・パシフィカまで三十マイル程。いくつかの町に停まって行く軌道列車は、鉄の軌条を四十千メートル単位時間もの速度で走る。高原の町まで五時間ほどで着いてしまうのだ。ところで、最近はメートルが主流になってきた。使いやすいんだが、いまだ地図や町の看板はマイルやヤード表記だったから、微妙に計算が煩わしい。メートルで言えば高原までは四十五千メートルくらいだろうか。そう思うと停車時間がとても長い。それもそうか、一日二回しか来ない列車だものな。
「ねえケイ、乗車券って私一人分でいいのかな。」
ルミはもう列の三番目くらいまで進んでいた。不安そうな顔をして、小声でつぶやくように聞いてくる。確かに人前で普通にしゃべりかけたら、架空の友達とおしゃべりする変人お姉さんだもんな。
「いまどうせ、『架空の友達とおしゃべりする変人美少女』って思ったでしょ、ケイ。」
『そんなこと...ないよ?』
確かに思ったが変人美少女じゃなくて変人お姉さんだ。
まって、ルミ俺を読んでんじゃん。
「ふーん、そんなこと言っちゃうんだー。」
とつぶやいたルミは私をふんずけようとした。
『...待って待って、俺が悪かった、悪かったからってば。』
そんなことをしているうちに、彼女の番が回ってきた。
『ルミ、悪いんだけど俺の分も乗車券を買っておいてほしくて。試したいことがあってさ。』
「オーケイ」
シューと蒸気が噴き出る音がする。扉が閉まったようだ。出力の関係でやはり力学的な力は蒸気機関が用いられるのだ。軌道列車の開発界隈ではホットエアエンジンが少し前火力に対しての効率がいいという話で、魔動基幹が少なくて済むと言って流行りだったらしいのだが、どうも機関自体の肥大化で最近は下火らしい。プシュー、シューッと音が鳴り重なり、列車はガクんと最初揺れ、そのままルミはイスに押し付けられた。
「わー、軌道列車なんていつぶりだろう。ねえ見てケイ!この椅子ふかふかだよ!!」
『最近は内装もしっかり凝るようになったんだね。』
聞くところに拠れば、年に一度くらいで改修をやっているらしい。最近はキルクルスやテラ・パシフィカとジェルドバの相互交通がとても多いから、儲かっているんだろうな。
二つの二人掛けの座席に挟まれ、四角いテーブルが壁に据え付けられている。ルミは私をそこに広げ、「それで、試したいことっていうのは?」
ガタンゴトンという音が加速に従いその周期を短くし、列車の行進を告げる。
『っていうのもさ、昨日あの本...
と話しかけたその時、ルミにかけられた声が私を阻んだ。
「同席、いいですか?」
ゆっくり書き進めてこうと思っています
小説執筆は初心者ですので生暖かい目で文章下手をあざ笑ってもらえればと
宜しくお願いします
魔法にどうにかSF的に、科学的っぽいいかにもな理由づけをしようと設定を最初したんですが、どこまで出そうかって感じで、
むつかしいっすね物語というか世界観を作るのって。