2-1「出立」A
魔法学校から卒業し、友達のケイを訪ねたルミ。
そのころ、ケイは魔導書になっていた。
その後魔導書になってしまったケイと再会したルミは、彼との旅を決意する。
そうして準備を進めにケイの店に来た彼女だったが、また例の空間を開いてしまい...
アルマ2:サーベルス 蒼天の魔女と雷霆の書 第二話
「踏み出せば一歩」 ここに開幕。
2-1 出立
案の定、ルミが出した魔導書は、私の店のすべてを吸い込んでいった。割れ物も薬品もいっぱいあるし、だいぶまずいんだが覆水盆に返らず。もう手遅れである。
イライザも吸い込まれ、はてルミはと思えば、なんと魔導書をつかんで開いている。もう使いこなしちゃったのかよ、というかまだ二回目でしょ...。
「なんかできた」
とルミは微笑む。
『なんかできた、じゃねーよ...』
少しの驚きと、同時にルミならそうなるか、といういつもの安心感。彼女はいつだってやると決めたことはやる人だったし、道具とかもすぐ使いこなす人だ。と思ったがあの魔動洗濯機械、詠唱間違えて壊したのルミだったな。
あれ、なぜか彼女の私を握る手が強くなった気がする。
「うるさ。表の川に投げ捨てるよ。」
『おいヤメロ?それは。』
しかしあれの思い出はすこーしだけ深い。
「なにか特別な理由でも?」
地下工房に降りてそこも吸い尽くしたルミは、ぱたんと私を閉じて言った。
『うーん、あれが特殊だからかなあ。』
魔動機械というのは魔方陣と魔導基幹が仕組まれた機械だ。魔導基幹はそれ専用の魔導書のようなもの、魔方陣は知っての通り干渉の位置的目印だ。
『二代目は既製品だから簡単に直せたんだけど、一代目は一回目の修理で俺がカスタマイズしちゃってたからさ...。』
というのも、一代目が初めて壊れたとき、魔導基幹部分を抜いていたのである。
本来魔動機械は詠唱をしなくても、スイッチなど物理的衝撃で基幹が動き、魔方陣の上に干渉を発生させられるよう作られている。しかし一代目が初めて壊れたとき、その壊れた部分が基幹部分だったのだ。普通なら買いなおしだ。
そこで考えたのが基幹無しにしてしまうこと。魔方陣は流用して基幹の代わりにルミのお手持ちの魔導書を使ってもらう。で基幹に仕組まれてる術式を詠唱にするんだが...
「だが?」
ルミが引き出そうとしてきた。彼女、私な魔導書をもう一度開いて読んでいやがる。
...うーん、こう思考を全て読まれてる(物理)のは変な気分だ。
『詠唱に使う”言の葉”と魔動基幹の術式に使われるルーンって、体系化された時代も経緯も仕組みも、まったく別物じゃん?』
「五百年後?だっけ、古代の。」
そう。古代魔導文明が二千年前に最盛を見せ、その終盤にルーンはできた。その後空白の旧世紀に入り、千年もの空白時代を経て、現代にいたるのだ。
『ルーン形態の魔方陣をフラグメントに認識させるためにさ、いろいろ実験とかやってみちゃったりしてさ。』
「でもあれって、ルーンと魔方陣は完全にセットでしょ?」
『そう。御察しの通り無理だったんだけどね...。素直に魔方陣を組みなおしたよ。』
まあ考えても見れば絶対に無理な話である。
「水だけじゃなくて空気も混ぜたらきれいになるかと思ったんだけどなあ~。」
『わざとかよ!!。』
そら破裂するわけだ。
私の知らない詠唱をして彼女は魔導書を開いた。そうして彼女は私を床に置き、その中へと飛び込む。するとするっと空間が縮まったように、洗面台の排水管に流れてゆく水のように、彼女は本の中へと入り込んでいったのだ。
まっ黒のあの空間に彼女はすっと足を付けた。イライザは、どこだ?と思ったら私のベッドの上で寝ている。いつも通りだ。
『今のは?』
「中にいるときさ、ここが古代魔法の類だって言ったでしょ?」
そう言ったルミはどこからともなく本を出した。
『ちょっと待ってくれ。』
意識を集中させる。そうすると視界が...開ける。仮の体だ。立ち上がって伸びをすると、そっちね、と理解した彼女が歩いてきた。
『それで、その本は?』
「あなたの部屋にあった〈完全解説!古代魔導文明と古代魔法の全て!(第四版)〉」
そいつか。
〈完全解説!古代魔導文明と古代魔法の全て!(第四版)〉は、だいぶマイナーだがれっきとした魔法学の学者のサークルが作った古代魔法研究の解説書である。〈完全解説!古代魔導文明と古代魔法の全て!(第四版)〉というその名前の通り、古代魔導文明や古代魔法のあれこれについて完璧なまでの解説がなされている。ゆえにとんでもなく分厚い。
まあその実はご老体学者たちがノリで作った同人誌的な何かだ。第四版とか書いてあるが、知り合いのじいさん研究者とそのお仲間さんが、十数冊作った内の四冊目を譲ってもらっただけなのだ。
「ケイ?」
そもそも、古代魔法の研究なんて大学でも端っこの端に追いやられてる貧乏学科なことが多い。ただでさえ今は生物学や機械工学なんかが流行りで、それにあやかれた魔動工学がのさばって、本来の
「ケイ!??」
魔法学が廃れているのだ。ましてやフラグメントで再現できる基礎魔法学は生き残れても、アルマダが再現不可能な今、どうしても不可能な古代魔法に何の価値がある
「ケイ!!!」
のかと聞かれたら、無いと答えざるをえなくなってしまう。しかしだ、今の魔法学や魔動工学の根底に流るるは古代魔導文明の血、そこを理解せずして実用的な部分にのみ目が行く阿呆は愚か者である。根本を理解せずして既にある技術に甘え、研究をやめれば、すなわちその学問に衰退あるのみ。
「ケーーーイーーー!!!!」
『はいケイです何でしょう。』
驚いて気が抜けて背後霊状態に戻ってしまった。
「説明が長い。本なら本でもっと読みやすい本になりなさいよ。」
...返す言葉もございません。
「でね、ためしに空間干渉系の研究のところの、ゲートって言うとアナザーレイヤーのゲートの話になっちゃうから...、”導管”って言うべきかな。それを開くのを試みてみたの。」
...ルミ、いつの間にそんな調べてたんだ...。さすがと言うかなんというか。
「すごいな。」
そう返す。
「ふふーんもっと褒めてくれてもいいんですよ~?」
「ところで時にルミさん、どこかの誰かさんがむやみやたらに吸い込むもので、ここら一帯私の店の品やらなんやらが散乱しているのですが...。」
ルミは固まる。
「...はて、誰の事でしょう...?」
「ルから始まってミで終わる青い髪の美少女の事なんですが...」
「美少女?美少女!?」
はぁ。てかそういう反応されるともったいねーよ色々。
「その美少女がお願いするんだけどー、片づけてくれなーい?」
...やかましいわ。てかもうそろ少女の範囲外なんじゃね。
「は?私はいつでもうらわかき美少女ですー。」
結局、二人で片づけましたとさ。
その日は、とりあえずの散乱した品物をまとめるのと、家具類の整理やらなんやらで終わってしまった。私は全く眠くならなかったが、ルミは違う。彼女には早めに寝てもらった。
...ところで、気づいたことがある。彼女的にはこの空間に住んでしまおう、とか考えているのだろうが、少しまずいのではないか。同棲じゃね?いきなり同棲じゃね?寝てるよルミそこで。俺そこの自分のベットで寝るわけだけどさ、壁ないじゃん!壁ないですよ壁?てかそもそも俺寝れるかわからんべ。
とりあえず床に入ってみて考えようと思う。考えても見れば、そもそも彼女が私のことを考えていないときには意識がなくなっていたはず。しかし今は継続している。どういうことだろう。思い当たる節と言うか、仮説はあるが確証はない。
...とか考えたりなんかしてるが、寝れねえ、まったく寝れねえ。意識が薄れると彼女の背後霊状態だし、意識を保てば寝れねえしすぐそこにルミいるし。てかすぐそこでルミが寝て。なにこれ。
まったく睡眠に集中できない。いや本になってるから要らないって話?そうでもない?
そうしてもぞもぞしていると、枕もとの辺でまるまっていたイライザが布団に潜りこんできた。なでなで~。ごめんなうるさかったよな。
私はイライザをさすったりさすらなかったりしながら、まったく眠れない夜を過ごしたのであった。
「ぴよぴよぴよー」と鳥のさえずりは聞こえない。腹が減った。多分朝である。重い腰を上げて少し歩く。ルミはまだ寝て...ベッドから落ちてそのまま寝続けている。
キッチンの魔動加熱台やら魔動窯やら、フライパンなんかの調理器具も食材も、瓶に入れてた水さえも、なにもかもすべて吸い込まれたおかげでまともな朝食を作ることができた。玉ねぎのスープとトースト程度ではあるが。
私の家には複数人がけの机はなかったので、ルミの家の机を使った。二人机に対面で座り、静かに朝食をとっている。イライザはと言えばまだ寝ている様子だ。
静かだ。私もルミも口を開かない。どっちも同じことを考えているのだ。この状況について。
...普通に同棲じゃねえかこれおい!!ただの新婚夫婦と飼い猫の核家族世帯だよ!!まるでういういしい新婚カップルじゃねえか。ダメでしょこれ!!おい
「っるっさいわねー。このオニオンスープあなたの魔導書の上にぶちまけるよ。」
「やめろー?それは。料理人としても魔導書としてもやめてほしいなーそれはー。」
ルミは寝起きは機嫌が斜めるらしい。人には見せない一面、ね...。そんなルミもかわいいよ。
ゆっくり書き進めてこうと思っています
小説執筆は初心者ですので生暖かい目で文章下手をあざ笑ってもらえれば
宜しくお願いします