ほらー、だからいわんこっちゃない。(ショートショート)(旧作復活版、朗読向け)
※オカン・ダヨ様が2022/02/23に朗読してくださりました。
そして、申し訳ありません。
2022/02/23 誤字脱字等ございましたので、言い回し等一部修正致しました。
朗読の時と少し表現が変わってしまっています。ご理解の程何卒宜しくお願い申し上げます。
「貴方、そんなに私の料理がまずいっていうの?」
清々しく目覚めの良い朝。優しい日の光が、窓を通して入ってくる。
美しい小鳥のさえずりが外から流れ、ウインナーと私が一口かじったトーストが皿の上に置かれている。
一見すると、どこにでもあるのどかな風景のようであるが、今現在、とんでもない問題を抱えていた。
私の妻が朝食に出してくれたトースト。兎に角これがとてつもなくまずいという問題だ。
それはもう、トーストに劇薬でも塗られているのではないかという程のまずさだ。どうやったらこんなにまずいものができるのかと疑問になってくる。
「貴方が沈黙するということは、肯定ということね――。分かったわ。それだったら私達、離婚するしかなさそうね」
唐突に私の妻から切り出された死刑宣告。まだ残っていた若干の眠気を、一発で吹き飛ばすほどの強烈な核爆弾攻撃。
そのあまりの威力に言葉を失ってしまい、色々なものが走馬灯のように私の頭の中を駆け巡っていく。
その中で私は――妻との出会いを思い出していた。
◆◆◆◆
私が妻と出会ったのは、本当に偶然だった。
現在の会社に転職の面接を受けに行った時のことだ。その面接会場からの帰り道のこと。スマホを持っていたにも関わらず、彼女が非常に神妙な面持ちで、右往左往していたことを覚えている。
彼女を不憫に思い、大丈夫ですかと尋ねたところ、大丈夫じゃないという回答が返ってきたので、彼女と一緒に目的地を探したのは良い思い出だ。
それからしばらくして、彼女からお礼と称して何度か食事に誘われた。私も彼女からの誘いが嬉しく、つい何度も何度も食事に行った。本当に楽しい日々だったと思う。
十回くらい二人で食事をした頃、私は彼女に告白し、私達は付き合うようになった。
彼女と付き合うようになって分かったことだが、どうやら彼女は似たものを区別することが苦手なようだった。
例えばブロッコリーとカリフラワー。両者の色は全く違うが、姿形はほとんど同じだ。妻に何度教えても、ブロッコリーとカリフラワーを間違えてしまう。
しばらく矯正させようと考えていたが、これも彼女の特徴であると思うと愛しくなり、私はそのままの彼女を受け入れることにした。
それからデートを重ねていくうちに、私達の愛はより一層深まり、めでたく結婚する運びとなった。
結婚後の私達二人の生活は、まさに順風満帆であったと言っても過言ではない。毎日愛する妻がいるという状況は、本当に幸せなことであった。
勿論、彼女が時々ブロッコリーとカリフラワーを間違えてしまうところには笑ってしまったが。
◆◆◆◆
そして現在、仲睦まじく毎日を過ごしていた私達に、結婚生活史上最大の危機が訪れている。
妻は静かにではあるが、明らかに憤慨した様子で、私の方に非難の視線を向けている。彼女の背後には、うっすら鬼のような仮面が浮かんでいるように見えた。
一方私はというと、過去の記憶を思い出したことで少し冷静になった。
さすがに離婚は突飛過ぎる。取り合えず状況を整理したい。一旦、興奮している妻を落ち着かせる必要がありそうだ。
「離婚とかの話をする前に、まずは話し合おう。まず一番おかしいのは、このトーストに塗ってあるものだと思うんだ。これは何だい? 一体何を塗ったんだい?」
「――リンよ」
「え? 何だって?」
聞き間違いでなければ、妻は今、リンといった気がする。
リンの中でも黄リンは第三類危険物であり、非常に毒性が強い物質であるが……。
「マーガリンよ。まさか、化粧品売り場に売っているなんて思わなかったから、ついつい沢山買っちゃって――」
私は彼女の台詞を完全に聞き終える前に、台所の洗面台に駆け込んで行った。
――おお、妻よ。残念ながら私達は離婚するしかないようだ。
ご意見、ご感想、評価等々何卒宜しくお願い申し上げます。
※こちら結末の状況が分かった方は、感想欄にてぜひご回答をお願い申し上げます。
なお、この状況、私は『ホラー』だと思っております。
即ち、この小説は『ホラー』だからいわんこっちゃないということです。