その後……
数年後、結婚したわたくしは都を離れていました。人造生命をつくる為の理論を完成させ、一冊の本を上梓しています。
シェケル公爵からうけた傷は痕になりましたが、学友達が協力してお薬をつくってくれたおかげで、今はあまり目立ちません。貴婦人は腕をさらすものではありませんから、傷痕を見るのはラナーンさんだけで、ラナーンさんが気にしないのならわたくしはそれでいいのです。
ラナーンさんは結婚後、騎士を引退し、もともとわたくしの化粧領だったこの地で、慣れない領主仕事に精を出しています。宮廷を出た王女が領地を賜るのは法に触れるのですが、ラナーンさんの頑張りで賜った土地なのでいいのだと、陛下はにこにこしていました。
彼の義理の家族や、彼がきょうだいのように思っていた子達も、こちらへ移り住んでいます。
陛下はまだお元気で、わたくしがつくったお人形を相手に将棋を指して、毎日楽しんでいるそうです。このところ、近隣諸国との外交も安定していて、戦は起こっていません。
例の騒動の首謀者だった妹達は百日間の禁固の後、婚家を追い出され、反省して、もう二度とイノヴァシオンに迷惑をかけないと医学の神に誓い、巡礼者に交じって各国を放浪しているそうです。
シェケル公爵家もおとりつぶしとなり、公爵はむち打ちの後に国外追放となりました。客死したと風の便りにきいています。
妹のクラヴさんは、公爵令嬢ではなくなったものの、ガラス加工の腕を買われ、宮廷に雇われています。ハヴェルの話に拠ると、門衛のひとりとそろそろ結婚するそうです。
ハヴェルは今も、わたくしの家によく来ています。
本来フロイントは、王女の結婚に伴って任を解かれ、陛下の決めた相手と結婚するのですが、ハヴェルは結婚してからもわたくしの家に入り浸り、子どもと一緒にご飯を食べてはお昼寝しています。
たまに剣の練習もしているようですが、元気な子ども達よりもずっと体力があるハヴェルは、そういう時だけ、子ども達が疲れて寝てしまっても剣を振り続けています。
そうそう、ハヴェルはその剣の腕と勇敢な人柄から、是非にと望まれて、わたくしのお兄さまと結婚しました。彼女は王太子妃で、わたくしのお義姉さまなのです。
わたくしとラナーンさんの間には、まだ子どもはできていません。ですが、きっと、可愛い男の子と女の子が生まれるでしょう。
子どもや孫達には、桃色がかった赤い髪の女の子が生まれたらウルティオー・インティカームと名付けるように、と伝えるつもりです。少なくとも、ティオと呼べる名前にするようにと。