王女さまは倹約家
たしかに、投げ渡された冠は、わたくしが身に着けているのと同じものです。ただ、随分古臭く、宝石も幾つかなくなっていました。
わたくしはティオの隣に腰掛け、彼女の顔をまじまじと見詰めました。ハヴェルが向かいに座り、同じようにティオを眺めています。「うーん、姫さまに似てるといえなくもないけど」
「わ、わたくしはこんな色の髪じゃございません」
「でも、髪の色を姫さまと同じ淡い金にして、肌をもっとずっと白くしたら、似てると思うよ。ティオちゃん、オフェレット・ケセフ連合のひと達みたいに色黒だから、姫さまに似てないように見えるだけじゃない?」
ハヴェルのいう程ではありませんが、たしかにティオは浅黒いです。
ティオはハヴェルを睨み、不機嫌そうにいいました。
「似てても嬉しくないんだけど」
「なっ!?」
「とにかく、結婚反対されてもキレないで。愛人にでもしたらいいじゃない。それをいいにきただけ」
「無礼ですわ!」
思わず声が高くなりました。「わたくしが結婚を反対されるなんてありえません!」
イノヴァシオン王国には、王家の女児に関して幾つかの決まりがあります。
功績のある者のみ王女になる。大きな功績をあげると、化粧領を賜ることができる。
そして、王家との絶縁を誓えば、いかなる婚姻も邪魔をされない。
わたくしは数多居る王家の女児のひとりであり、わたくしひとりがぬけたところで陛下は痛くも痒くもありません。
お姉さまも妹も大勢居るので、例えばわたくしが、貴族とのつながりを強化する為にお嫁に出されようとしていても、王家とは縁を切りますと宣言して出て行けば誰も追ってきません。お姉さまか妹の誰かがかわりに結婚するだけです。
そうやって説明をしたのに、ティオはふんと鼻を鳴らします。
「誓いなんて破れるじゃない」
「なっ!? 誓いは医学の神にする神聖なものであり、破れば処罰がありますのよ!」
「王女って贅沢な暮らしができるんでしょ。それを捨てたくなかったんじゃないの」
ぐぬぬ……!
ハヴェルが笑いながらいいます。
「でもでもお、姫さまは結構けちんぼだし、我慢もできるから、つましい生活でも文句いわないと思うよお」
「けちんぼは余計ですわ!」
「だってえ、いつも揚げ菓子をひと袋しか買わないじゃなあい」
「お小遣いは有限ですのよっ! 研究費がかかるのにお菓子に全部つかえませんわっ!」
ハヴェルはわたくしを指さします。この子ときたら!
「ほらあ、贅沢とかしないひとだよお、ティオちゃん」
「だったら」ティオは冷たくわたくしを睨んでいます。「宗教的にゆるされなかったんじゃない。子どもができてるから、女同士ってことはないだろうけど……結婚するなんて考えられない人種だったとか」
「ジンシュ?」
「イノヴァシオン王国以外の人間だったんじゃないのってこと」
「それもありえませんわ。一番上のお姉さまはカニーサ王に嫁ぎましたし、わたくしのおばあさまはアガラー民ですし」
大体、誰と結婚しても自由だと法律で決まっているのです。勿論、優秀な技術者は異国へ行ってしまわないように、異国人と結婚した場合はそのお相手もイノヴァシオンの国民として扱うなど、そういった決まりをつくって流出をくいとめています。
ティオは鼻を鳴らし、わたくしの手から古臭い冠をもぎとると、立ち上がってあずまやを出ました。「とにかく、あんたはばかなこと考えないで、真面目に王女しててよ。じゃあね」
ふっとその姿が掻き消えました。
わたくしとハヴェルは顔を見合わせます。