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傷一つ無い噂

 夕食を終えた頃、父が王宮から帰って来た。


 挨拶をしようと玄関に繋がる階段へ行った時に、父の姿が階下に見えた。


 顔が少し赤い。もしかしたらお酒を飲んできたのかもしれない。


 

 そう思っていると、彼は私が近づいているのに気づいたらしい上機嫌に声を張り上げた。



「クレア!こっちへ来い」



 何があったかは分からないが、不機嫌でいられるよりはずっといい。


 そして、父の目の前に行くと肩を何度か叩かれる。



「お前は本当によくやった。久方ぶりに陛下と直接お話をしてな、労いの言葉をかけて頂けたのだ」


 

 父はその光景を思い出しているのだろう。余韻に浸るような顔をしていた。


 そして、すぐに笑顔になるともう一度私の肩を叩く。



「今後は外出もある程度許可する。必要なら金も多少は使って良い。ただ、ウォルター侯爵家の血が流れる者として恥じぬように行動することだけは忘れるな」


 

 今日の出来事が相当嬉しかったのだろう。父は足早に歩き出すと、ワインのボトルを出すように使用人に伝え自室に向かっていった。


 外出許可はありがたい。今までは情報だけ集まって実際に見るということがほとんど無かったし。

 

 ただ、正直見たいところは貴族街の外だ。金も多少は使って良いというお墨付きも得たし、目立たないような服装等もろもろを手に入れる必要がある。


 私は部屋に戻り、家の者にはわからず、商人にはそれとなく伝わるような書き方で発注書を掻くとそれを家令に渡しに行った。





◆◆◆◆◆




 それから三日が経ち商人が来る日となった。


 あの翌日以降、父はいつも通りの時間まで寝ているようになっていたので、家族が一同に会する機会が減っており、そのおかげかまだ私の外出許可は義母と妹にはバレていないようだった。


 準備が整うまで引きこもって絡まれないようにしていたがどうやら杞憂に終わったらしい。


 

 そして、窓から外を見ていると見慣れた馬車が倉庫に向かうのが見えたためそちらへ向かった。



 




「ご機嫌麗しゅう、クレア様。本日は頼まれた品をお持ちいたしました」



「さすがに早いわね。ありがとう」



「いえいえ、これくらいの物なら簡単ですよ。それと、例の情報についても仕入れることができました」



 少し驚く。あれからすぐ動いたにしても流石に早すぎる。それほど彼の伝手とやらが広いのだろうか。


 私の表情を見て彼は察したのだろう、訂正の言葉を入れてきた。



「実は、そのアールという男は下層と中層ではなかなかの有名人だそうでそれほど苦労せずに情報が手に入れられましたよ」



 なるほど、それなら納得がいく。だが、アラン殿下がそれほどまでに精力的に活動しているとは思っていなかった。



「とりあえず、話を聞かせて貰えるかしら」



「はい。そのアールという男はかなり以前から色々なところに顔を出しているようで、工事現場、どぶ攫い、孤児院での配給の手伝い、あげくは一人暮らしの老人の買い物なんかまでしているとのこと。また、性格も気さくで明るいらしくかなりの人望を集めていることもわかりました。正に絵にかいたような善人といった人物でしょうな」



「…………それはすごいわね」



「ええ。私も調べているうちに感心してしまいましたよ。若者も捨てたもんじゃないですな」



「そうかもしれないわね」



 私は話をなんでもない風に聞くふりをした。



 正直、話だけ聞けばとても素晴らしい人に思える。だが、その人物がこの国の第二王子というのを知っているとどこかきな臭くも思えてしまう。


 これは、今一度見極める必要があるかもしれない。外出許可は出ているし、必要な道具も揃えた。


 曖昧なまま放っておくには少々大物過ぎる人物であることもあり、私は自分の目で直接見に行くことを決めた。


 

「その人がどれくらいの時間にどこにいるかわかるかしら?」 



「毎日決まった場所というほどではないようですが、それなりに決まった行動パターンがあるようです。後でまとめたものを渡す準備はできておりますのでご安心ください」



「そつの無い仕事でとても嬉しいわ」



「いえいえ。商人として顧客の求める先の先を読むのは当然でございますよ」



「なるほどね。最初の頃に比べて貴方は本当に進歩しているのね」



「まあこれでもクレア様の思考の巡りには追いつけておりませんからな。精進させて頂きます。では、本題に移ると致しましょうか」



「そうね。次は私が何かをお返ししなくちゃいけないし、早速始めましょう」



 やはり、お互いに利のある関係はとても楽だ。普段のように考えの裏を読み続けなくていいので、唯一気を張らずに付き合えるものといってもいいだろう。


 私はその感覚に若干の居心地の良さを感じつつ、次の日の予定を頭の中で組みながらいつも通り彼との情報交換を行っていった。

 

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