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籠の中の鳥は耳聡い

 義母の部屋を出た後、微かに残る頬の赤みをそのままに歩いていると周りから微かに笑い声が聞こえてくる。


 そちらをチラッと見ると妹と使用人が少し離れたところでこちらを見ながら笑っている。


 この後はしなくてはならないことがあったので、無視して歩いていこうとすると目の前の道を妹が塞いだ。



「何やらアラン殿下とお近づきになったみたいですけど、どうせすぐに離れていくでしょうね。殿下はずっと引きこもっていたから知らないかもしれないけど、少し調べればお姉さまの悪評なんかすぐに聞こえますもの」



 そう言って彼女はクスクスと笑う。



「それは別にかまわないわ。特に気に入られようとは思っていないもの。それより、貴方もそんな下らない噂に火をくべてないで、ダンスの練習をしたほうが賢明よ。またお父様の不興を買いたくないでしょう?」


  

 妹が私の悪評を実際以上に飾り立てているのは知っている。だが、彼女はそれよりも自分の身を守ることを優先した方がいいのではないかといつも思う。彼女は実母とは仲が良いし、父の問題さえなんとかなれば比較的楽に過ごせるだろう。


 しかし、その少々助言を含めた言葉は伝わらなかったようだ。彼女はこちらを強く睨みつけると舌打ちして去っていく。


 私はそれを見てため息を吐くと、用事を済ませるため屋敷の外へと向かった。





◆◆◆◆◆





 屋敷の外に出て倉庫の方へ向かうと、週に二度ほど商品を納めに来る当家の御用商人が荷物を運び込むよう部下に指示出ししているのが見えた。


 そして、その商人は私に気づくと笑みを浮かべて近づいてくる。



「ご機嫌麗しゅう、クレア様。頬が少し赤いようですが大丈夫ですかな?」



「貴方もお元気そうね。これは気にしないでいいから、早速本題に入りましょうか」



「相変わらずせっかちな人ですな。まあいいでしょう、私もその方が助かりますので」



 彼とは定期的に情報の交換をしている。とはいっても普通の情報交換とは少し趣が異なる。


 というのも、私達の間では役割がそれぞれ分かれている。


 情報を外から持ってくる彼と、それを繋ぎ合わせ推測を立てる私。そのようにしてお互いに利のある関係を形作っているのだった。




 以前、私が情報を手に入れようとしたとき、外には自由に出られず、なおかつ伝手も無いことから八方塞がりの状態だった。


 当然、父から金銭など貰っておらず情報の対価となるものを持っていない。それ故、最初に商人にそれをお願いした時は、貴族の令嬢のわがままに渋々付きあう程度の大した情報しか貰えなかった。


 だが、一度交易品価格の今後の推論を色々な情報から見立てた時、見事にそれが的中したのだ。

 

 それから、徐々に情報が増え、私の信頼も積み重なり、今ではお互いに理のある関係が築けている。

 

 

 そして、今日も納品に合わせて情報交換を行っていた。



「なるほど、しばらく東の麦の価格を注視することにします。いつも通り有意義な時間でした。ですが、本当にクレア様の頭の中は摩訶不思議ですな。最初から知っているのではと思わされる時すらあります」



 身の安全が左右されるとなれば大概の人はできるようになると思うが、我が家のいざこざを彼に伝える気はないので曖昧にほほ笑んでおく。



「自分ではよくわからないわね。それと、仕入れて欲しい情報があるのだけれど」



「なんでしょう?上客の頼みですから、できる限りのことは致しますが」


 

 アラン殿下の情報を直接集めるのは少々危険なので、『マルコ』、『工事の完成』、『下層に出入りしている』といったように記憶している情報を一通り教えた上で、『アール』という男の情報を集めて欲しいことを伝えた。

 

 

「なかなか、変わった注文ですな。ですが、クレア様にはだいぶ儲けさせて頂いていますし、なんとかしましょう。そういったことが得意な知り合いの伝手はありますので」



「ありがとう。今後ともよろしく頼むわ」



「はい、こちらこそ。正直なところクレア様がいなければこの家の仕事は割に合いませんので」



 まあそうかもしれない。理屈も無く強い態度で値切る父に何度も商人が変わっていることを知っている。この彼も昔は今ほど裕福ではなく、やむにやまれず仕事を受けたという様子だったし。




 そして、彼は商品の納品を終え、私に挨拶をすると帰っていった。




 とりあえず情報を集めよう。


 現在の情報だけではアラン殿下がどんな思惑を持って私に近づき、恩を売ったのかは不明だ。


 だが、結局やることは変わらない。そこに悪意があれば排除し、そうでないならば放置、ただそれだけだ。




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