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リタ ~ 結婚式

*本日二度目の投稿です!残すところあと一話。最終話は今夜投稿予定です。

*リタ視点です。



明日、いよいよパウロとの結婚式を迎える。


興奮しているせいか寝つけなかった私は、ベッドの中で何度も寝返りを打ちながらパウロが戻ってきた夜のことを思い出していた。


*****


難民キャンプでの生活で深く眠ることは難しい。常に眠りは浅く何か異変が起こった時にはすぐに対応できるようでなくてはならない。


その夜、誰かが難民キャンプに近づいてきた。


ザッザッザッという足音が聞こえる。音を隠すつもりがない様子に強盗ではないとは思ったが、それでも警戒心は最大限に高まった。


そっと寝台から降りて手早く身支度を整え、銃を持って音が出ないようにドアを開ける。


建物の外で様子を伺っている気配がして、月の光に照らされる人影が見えた。


「動くなっ!!!」


大声で威嚇して、銃を構える。


「っ……ま、まて! 待ってくれ! リタ! 俺だ。パウロだ!」


そう言って両手を上にあげる人影を見ながら、私は息をのんだ。


パウロ!?


まさか!? 信じられない。


でも……この声は?


私は微かな月の光を頼りに目をこらして、その人間の顔を見つめた。


以前より痩せた。髪も短くなっている。でも、その声と顔は確かにずっと恋焦がれたパウロのものだった。


「パウロ……?」

「リタ! 会いたかった。こんな時間にすまない。ただ、一刻も早く会いたくて……。驚かせて悪かった」


まだ夜明けまでには時間がある。難民キャンプで暮らす人々の数は少なくなったとはいえ、彼らの安眠を妨げたくはなかった。


「シーっ」と唇に指を当てて、とりあえず自室にパウロを連れていく。


私の部屋に入って、ぎこちなく椅子に腰かけるパウロ。


小さな灯り越しにパウロを見つめると、新緑の瞳がパッと輝いた。


嫌だな……どうして、それだけで顔が熱くなるんだろう。


「リタ。夜中に突然現れてすまない。ただ、一刻も早くお前に会いたかったんだ……。でもお前はそうでもなかったみたいだな……。悪かった」

「そんなことない!!!」


思わず声を荒げてしまった。


パウロは目をパチクリさせた後、ぷっと噴き出した。


「そうか? お前の活躍ぶりは国王陛下からも聞いてたよ。陛下とリアム様からキャンプに来る許可をもらったんでつい嬉しくて時間を考えずに飛び出してしまった。ずっと……ずっと会いたかったんだ」


優しい甘やかすような口調で言われて私はもう我慢できなかった。パウロの胸に飛び込んで無我夢中で彼にしがみついた。涙はとっくに止まらなくなっていた。


「あ……会いたかった。寂しかったよ……」


号泣する私の頭をパウロは何も言わずに愛おしそうに撫で続けたっけ。


翌朝、泣き過ぎてパンパンに腫れた私の頬をパウロはそっと指でなぞって、強く私を抱きしめた。


「もう離さない」


初めて買ったワンピを着てみせると、パウロは呆気に取られて口をポカンと開いた。


「……他の男には見せたくないな」


なんて言われると、私も照れるじゃないか!


その後難民キャンプは解散し、私とパウロは二人で各地を旅しながら調査を行った。


こんなに幸せでいいのだろうか?と何度も自分の腿をつねるくらい楽しい時間だった。


恐ろしいのは、一緒に過ごす時間が長くなればなるほど幸福度が増していくということだ。


そして、明日の結婚式はいわばその幸福がピークに達するという象徴で、私はパニックになりそうだった。


いいのかな?


私みたいなのが普通の女の子の幸せを求めて?


過去に後ろ暗いことがあるような女がパウロの隣にいていいのかな?


部屋の奥まったところに置かれたトルソーには、ミラやアンナが協力してワンピチームが製作した私のウェディングドレスが掛けられている。


羽根のような薄緑のオーガンジーを贅沢に使った優美なウェディングドレスだ。喉元や肩口は繊細なレースに覆われて、ふんわりとしたドレープが層のように足元を華やかに飾る。


こんな素敵なドレスを作ってもらえる日が来るとは思わなかった。


……こんな幸せでいいのかな?


「当り前じゃない! 誰でも幸せになる権利がある! ましてや、リタは誰よりも苦労して人のために働いてきたんだよ!」


チラッと漏らした不安を笑顔一つで吹き飛ばしたミラのことを考えた。


ミラ。


私はミラについていくよ。そうすればもっと多くの人を助けることができるんじゃないかと思う。


そうしたら、自分が幸せになっても大丈夫だって許せるような気がするんだ。


ミラのことを考えたら気持ちが落ち着いたようだ。私はようやくトロトロの心地よい眠りに落ちていった。


*****


結婚式当日は雲一つない晴天だった。


私たちは城の庭を使わせてもらって、ガーデンウェディングをすることにした。


庭の中心には美しい大木があり、枝に白い布をカーテンのように飾り付けて結婚式用の祭壇を設置した。若葉が眩しい季節なので緑と白のコントラストが美しい。


司祭様も教会から駆け付けてくれた。飾りつけられた木の前には参列者用の椅子が並ぶ。


エマとアンナが中心になって準備してくれたと聞いた。私も二人の結婚式には気合を入れて頑張ろう。


城の庭は愉し気に談笑する人々で溢れかえっている。


その中に国王夫妻や太皇太后といった高貴な人々だけでなく、難民キャンプで一緒に過ごした仲間も混じっていて、いつか身分差が障害にならない世界になるんじゃないかと期待したくなる。


トビー、アーサー、ハリーの事務官トリオの姿も見える。わざわざ新領地から戻って来てくれたのか。有難いな。


アバーテ男爵夫妻とローマン夫妻は何故か意気投合したようで、みんな笑顔で楽しそうに語り合っている。縁って不思議だね。


**


無事に式が終わり、城の庭では引き続き結婚披露パーティが行われ、軽快な吹奏楽の演奏が鳴り響いている。


そんな中、なんと余興にとミシェル王妃のバイオリンとケント国王のチェロに加えて、リアムがピアノを演奏してくれるらしい。中庭に面したサロンを開放してそこにあるピアノにリアムが腰かけた。


更に驚いたことにミラもリアムの隣にちょこんと腰かけている。


ミラ!? あんた楽器は何も演奏できないって……。


彼女を知る者たちは密かに戦慄しながらミラを見守っていた。


ミラは明らかに緊張して指を鍵盤に当てて、人差し指で音の確認をしているようだ。


四人の演奏は素晴らしく、招待客は惜しみない拍手喝采を送った。


ミラは人差し指だけの演奏だったけど、それでも楽しそうだった。


彼女の様子を可愛くて堪らないという表情で見つめているリアム。


あの溺愛ぶりは一生変わらないわね、と溜息をついた。


リカルドには酷だけど。


リカルドは王都の近衛騎士団への異動を希望し、今日も結婚式には出席せず城の警備担当を希望したと聞いた。


新領地でのチームワークを思い出すと寂しいが……。仕方がないか。



そんな中、初々しいアンナとアルベールの様子は心温まるものだった。


アンナはアルベールに好意を持っていたが、当初彼からの告白を断ったという。


「ミラ様を傷つけた私にアルベール様の隣に立つ資格はありません」


アンナは静かに語っていたが、アルベールはそれでも諦めずにアンナを口説いているらしい。女性に執着するアルベールというのも何か意外だが、恋は人を変えるものだなと感心した。


アルベールは、今日は招待客として参列しているが美しく装ったアンナの隣にピッタリとくっついて離れようとしない。若い男が近づくと持前の威厳を使って牽制しているが、心配しなくてもアンナはあんたしか見てないよ!と言ってあげたくなる。


ミラが二人の恋路を気にしていたからきっと喜ぶだろうと考えたら、ふと頬が緩んだ。


来年にはエマとテッドも結婚する予定だし、それぞれのカップルに子供でもできたら賑やかになるに違いない。


『子供』という考えが自然に浮かんだ自分に驚いた。自分が家庭を持つなんて以前は想像もしなかったから。


……パウロはきっといい父親になるだろうな。


そう思ったら、思わず顔が熱くなった。


ああ、まだ結婚式が終わったばかりなのに何を考えているんだ!?


火照っている頬を手で扇いでいると、招待客に飲まされたのだろう、顔を赤くしたパウロが現れた。さっきまでピシッとしていた礼服は既に乱れている。


あ~ぁ、式ではいつもと違って凛々しいと見惚れていたのにな。


そんな風に呆れる私をパウロは眩しそうに見つめた。


「リタ。綺麗だ。……俺を選んでくれてありがとう。俺は世界一幸せ者だ」


感極まったようなパウロの真っ直ぐな言葉に思わず涙が溢れてしまった。


「り、りた!? どうした? 大丈夫か? どこか痛いのか?」


心配そうなパウロの言葉にぷるぷると首を横に振った。


「……違う。嬉しいんだ」


私は大きく笑ってパウロの首に手を回して抱きついた。


パウロは目を白黒させていたが、嬉しそうに私を受け止めると力強く抱きしめる。


周囲の客らから自然と大きな拍手が沸き起こった。

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