リカルド ~ アルベールとの会話
*本日三話目の投稿です!
*リカルド視点です。
舞踏会は成功裏に終わり、会場警備の騎士は任務から解放された。
自室に戻っていく途中、俺の足は重かった。
もう……以前のようには接してもらえないんだな。
改めて実感すると、切なくて息が苦しくなった。
気がつくとこんなに彼女に恋焦がれていた。
ただ、見ているだけで良かったのに……。
いつからか欲が出てくるのを止めることができなくなった。
はぁっと深く溜息をつくと、後ろから肩を叩かれた。
「おい! しけた顔してんな」
振り向くとアルベール騎士団長がニッと笑っている。
「団長……」
思わず情けない声が出た。
「……リカルド。俺の部屋で飲もう」
そのまま引きずられるようにアルベールの部屋に連れていかれた。
彼の部屋は住人の人柄をそのまま反映したような落ち着いた居心地の良い部屋だった。男の一人暮らしの割に綺麗に片付いている。
「ここで待ってろ」
そう言ってアルベールはどこかに出かけて行ったが、戻ってきた時にはビールとワインだけでなく、色々な軽食も一緒に持って帰ってきた。
「厨房でもらってきた」
ニッと笑うアルベールはいつもと雰囲気が少し違う。
普段は穏やかだが団長としての威厳があり、若手の騎士が気軽に話しかけられるような雰囲気ではない。
何かあったのだろうか?と気になった。
「まぁ、飲め」
そう言って二つのグラスにビールを注ぐと、一つは俺に押しつけて、もう一つのグラスを一気に飲み干した。
俺もビールを一気に口に流し込んだ。
やはり飲みたい気分だった。
その後は二人で黙々と酒を飲み続ける。
「それで何があった?」
アルベールに聞かれて、正直に全て話したのは酔っていたからかもしれない。
俺の話を聞いた後アルベールは静かに言った。
「……お前の気持ちは分かっていた。リアム様もご存知だ」
「そうか……それでミラ様に一線を引かれたのかな……」
「そうかもしれないな……」
アルベールが小さな声で呟いた。
「俺は……一生ミラ様への想いを捨て去ることはできないと思う」
俺は慟哭のように呻いた。
アルベールは困った表情を浮かべたが、俺の肩に手を置くと真剣な声音で尋ねた。
「お前は近衛騎士団に興味はないか?」
「……近衛騎士団? 王都の?」
「そうだ。紹介状を書いてやる。お前の腕なら問題ない。お前はミラ様と距離を置いた方がいい。ミラ様の近くにいると想いが募るばかりだろう? 一度距離を置いて、自分の気持ちを整理してみろ」
王都に……?
それは良い考えかもしれないなと思った。ミラの近くにいるといつ自分の気持ちが暴走するか分からない。
でも……もう彼女の姿を垣間見ることもできないと想像すると、胸が締めつけられるように苦しい。
理性と欲望が脳内で激しい戦闘を繰り広げた。
しばらく黙って飲みながら、俺は目の前のアルベールという男を見つめた。彼もいつになく大量の酒を消費している。
珍しいな。常に冷静な団長がこんな風にやけ酒のように飲むなんて……。
「団長、何かあったんですか?」
俺の問いに、アルベールは自嘲するように苦笑した。
「ああ、俺も……失恋したからな」
という言葉に、酔っていた俺も驚いた。
「……誰に!?」
「お前も気づいていたんじゃないか?」
最近アルベールの近くにいる女性といったらアンナしか思いつかない。
俺は最初アンナを疑っていたが、今では良い仲間だと思っている。それに彼女がアルベールに恋していることは恐らく団長以外の全員が気づいていただろう。
「……アンナですか?」
尋ねるとアルベールは黙って頷く。
俺は驚いた。アンナがアルベールに片思いしているんじゃなかったのか?
「アンナに振られたんですか?」
アルベールは下を向いたままもう一度頷いた。
「彼女は団長のことが好きだと思っていたんですけど」
そう言うとアルベールは苦笑いして首を横に振った。
「こんなおじさんで……調子に乗っていたな。アンナは気を遣って『こんな私なんかでは釣り合いません』とか言ってくれたが」
それは彼女が遠慮しているだけじゃないか?
「団長、それで彼女のことを諦めるんですか?」
俺は無性に腹が立った。
「……仕方ないじゃないか。俺は振られたんだから」
「俺だったら、少しでも可能性があったら絶対に諦めない。何度でも何度でも振り向いてもらえるまで告白する。……俺だって、本当は諦めたくなんかない! 団長はずるい。結局みっともない姿を見せたくないだけじゃないですか? 俺からしたら羨ましい話ですよ! 可能性はあるんだから!」
腹が立ちすぎて、不覚にも涙が出てきた。
「リカルド……」
くそっ! くそっ! くそっ!
僅かでもチャンスがあったら……0.00001パーセントでも可能性があったら! 絶対にこの気持ちを諦めたりしないのに!
なんでゼロパーセントなんだ!?
やるせない思いにもう一杯ワインを喉に流し込んだ。
それを見たアルベールはしばらく考え込んだ後、独り言のように呟いた。
「そうだな……。一度で諦める必要はないのか。こんなおじさんにしつこくされたら彼女の迷惑になるんじゃないかと心配だったんだが……」
「アンナは遠慮しているだけです! 彼女が団長に惹かれていることはみんな気づいてましたよ」
「……そうか?」
自信がなさそうな団長。この人は何でもできるのに恋愛関係だけは本当に疎いんだな、とおかしくなった。
「団長……俺は近衛騎士団に行きますよ」
そう告げると団長は辛そうに顔を歪めた。
「そうか……俺たちにとってはお前を失うのは痛手だがな」
「ザマ―ミロですよ」
「そうだな。最高の紹介状を書いてやる」
アルベールはそう言って、俺のグラスにワインを注いだ。
*いつか番外編としてリカルドのスピンオフを書きたいなと思っています。近衛騎士団に転職したリカルドにも幸せになって欲しいので。




