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私は尻軽女でした・・・(猛省中)

飲茶歓迎会の翌日、ハノーヴァー王国と李国との間に不可侵条約が無事に締結された。


これで昔のように戦争の心配をしなくて済むようになる。


リタは戦争孤児だったので特に感慨深いようだ。彼女の目が潤んでいたのが印象的だった。


条約が締結されると李国王とヨウランはすぐに帰途についた。


別れ際に李国王は再度ケントとリアムに謝罪して、固い握手を交わしていた。言葉が通じなくても信頼関係が芽生えた。今後、双方が努力して平和が続くといいなと思う。


私たちはヨウランと仲良くなり、是非李国に遊びに来て欲しいと誘われた。


李国王が友好国として様々な交流を促進したいと言っていたとヨウランは嬉しそうだ。


彼女は飲茶の点心がとても気に入ったらしい。


「文化交流の一環として是非お料理の交流をしましょう! 李国にも美味しい食べ物が沢山あります」


そう言って目を輝かせていた。


たった二日の滞在だったけど、両国にとって得られたものは大きかったと思う。


みんなで李国王ら代表団の帰国を見送った後、ケントもリアムも肩の力が抜けたようだ。


この条約のために二人とも頑張っていたからね。


おめでとう。お疲れ様でした。


心の中で呟いて、私もほっと安堵の溜息を吐いた。


**


その夜、私はリアムの腕の中で彼のぬくもりを味わっていた。


条約調印が無事に終わり、次は新公爵としてお披露目の舞踏会、そしてリタとパウロの結婚式が予定されている。


でも、一番大変な条約締結という山を越えることができて、ようやくくつろげる気分になった。


リアムは私の髪を弄りながら、時折私の頭に口づけを落とす。


「色々あったけど、大きな仕事が終わって良かったね」


私が言うと彼も満足気に頷いた。


「ああ、ミラのおかげだよ。飲茶は大成功だった。やっぱり理屈じゃなくて美味しいものは人の気持ちを動かすものだな。ありがとう」


甘い眼差しで私の頬を指で撫でた。


「少しでもリアムの役に立てたら嬉しいよ。ヨウランとも仲良くなれたし……。いつか本当に一緒に李国に行けたらいいね!」

「ああ、そうだな」


そう言いながら、リアムの笑顔にはどこか翳があるように感じてしまった。


「……リアム、何かあった?」


リアムは何かを言いかけて口をつぐんだ。


「リアム、何か気になることがあるなら、ちゃんと言って。そうじゃないと私は分からないよ」


彼は諦めたように溜息をついた。


「俺の器が小さいだけなんだ。すまない。ミラが人気者すぎて。寂しいというか、嫉妬してしまうというか……。君には俺だけを見ていて欲しいんだ」

「え!? リアムだけを見ているよ! 私が好きなのはリアムだけだよ!」


私は慌てて言い募った。彼を嫉妬させるようなことがあった?


リアムの憂いを含んだ表情を見て、私は突然不安に襲われた。


「……ミラがみんなに愛されるのは当然だと分かっているんだが。君に恋する男の視線を感じるとやはり不安を覚えてしまう。特にそいつが若くて……魅力的な男だったりするとな」


「……は!? えっと、なんの話をしているの?」

「君はまったく何も気がついていないんだな」


リアムは苦笑するが、何の話をしているのか本当にさっぱり分からない。


「君はリカルドの視線に気づいていないのかい?」

「リカルド!? は? 何のこと?」


突然リカルドの名前が出てきて私はますます混乱した。一体何の話?


「リカルドは君に恋しているよ。それはもう……焦がれていると言ってもいいくらいに」

「え!? いや、それはないよ。だって、そんなことあるはずない……よね?」


リカルドが私を? あり得ない!


脳髄反射的にそう思った後、徐々に過去の記憶を辿っていくと……アレ?と思うことが脳裏に甦ってきた。


考え込む私を見て、リアムの眉間に皺が寄った。


「ほら! 思い当たる節があるだろう?」


「……ん。いや、あれは、そんな」

「何があったのか言ってごらん」


口調は優しいが決して笑っていないリアムの目つきを見て、私は色々と後悔した。


「……えっと、あの、多分私の自意識過剰で、リカルドに他意はなかったと思うんだけど……」

「それは俺が判断する。言ってごらん」


リアムに引く気はなさそうだ。


「あの……馬車がアンナを轢きそうになったでしょ? 事故で私がショックを受けて泣きそうになった時に、リカルドが抱きしめて落ち着かせてくれました」

「ほぅ……」


リアムの眉間の皺が増えた。うっ……辛い。


「あと、ワイナリーでアレクサンドラたちに遭遇した後、私が泣いてしまって……。その時にリカルドが私の髪に口づけしました」

「へぇ……」


リアムの頬がピクピクと引きつっている。


今考えると……確かに私は軽率だった。リアムが怒っても仕方がない。


「あの、ごめんなさい。私が考えなしで、軽率でした。……油断してた。……ごめん」


リアムは私の両手首を握って、私をベッドに押しつけた。


「……どんな風に抱きしめられたの?」


そう言いながらリアムは私の首筋に吸いついた。チリッと痛みが走る。


「抱きしめられて嬉しかった? どきどきした?」


リアムの瞳は翳っていて再度自分の迂闊さを後悔した。彼にこんな目をさせてしまうなんて……。


私は泣きたくなった。


「どきどきするわけないじゃない! わ、わたしはリアム以外の男性を性的な目で見たりしないもん! 私が欲情するのはリアムだけだよ!」


必死に訴えるとリアムが思わずという感じで、ぶほっと噴き出した。


リアムが笑ってくれた?!


ちょっと嬉しくなるが、リアムはすぐに真面目な表情に戻って私に問いかけた。


「もし俺が他の女性を抱きしめたり、髪の毛に口づけたらどう思う?」


リアムが他の女性を抱きしめるところを想像した。


誰か他の女性ひとの髪に口づけるところを想像した。


……嫌だ。胸が苦しい。


そうだ。他の女性にそんなことをして欲しくない。嫉妬というドロドロした感情を思い出した。


私はそれと同じことをしてしまったんだ……。


自己嫌悪と罪悪感に押しつぶされそうだった。


私は起き上がって、ベッドの上で土下座をした。


「リアム、ごめん。謝ってすむことじゃない。本当に自覚が足りなかった。ごめんなさい。二度と……二度とリアムにそんな思いをさせないように気をつける」

「気をつけるってどうするの?」


リアムの声が冷たく響く。


……どうしたら?


「……それで十分か分からないけど、男性に対して油断しないようにする。距離をちゃんと取るよう気をつける。その……リアム以外の人に抱きしめられるとか二度と起こらないようにするから。他に思い浮かばないけど、喋らないとかそういうのは……やっぱり難しいと思う……」


必死に訴えるけど、リアムの表情は硬く強張ったままだ。


どうしよう? リアムに呆れられて嫌われちゃったら……もう生きていけない。


べそをかきたくなったけど、グッと目に力を入れて涙が出ないように堪えた。


自分が悪いのに泣き落としみたいになるのは嫌だ。


するとリアムの表情が柔らかく崩れた。


「……ごめん。嘘だよ。怒ってない」


優しく言われて、私の気が抜けた。抜けた途端に涙がボロボロと零れ落ちた。


「え!? み、みら……?」


今度はリアムが慌てる番だ。


「ご、ごめんなさい……ごめん……嫌いにならないで……お願い」


ひっくひっくしゃくり上げながら、謝り続ける私をリアムは強くかき抱いた。


「脅し過ぎたな……。すまない。いいんだ。これから気をつけてくれれば……俺の気持ちは変わらない。愛してるから」


彼の心地よい低音の声を聞きながら、私はリアムの胸にしがみついた。

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