隣国の国王夫妻をお迎えしました
*こんばんは!二話連続で投稿します。この後もう一話更新しますね。読んで下さってありがとうございます(*^-^*)!
ケントとミシェルの歓迎会が無事に(?)終わり、今度は隣国である李国との不可侵条約調印式。ホント毎日がせわしない。
李国の国王夫妻は条約締結の場であるウィンザー城に直接やってくる。我が国が信用できるかどうかを見極めたいのかもしれない。
彼らの到着は調印式の前日、つまり今日だ。
私たちは李国から国王自らが率いてくる代表団を出迎えるために、再び城のエントランスに整列していた。
今日はケントとミシェルがメインで迎える立場なので、二人を中心とした配置になっている。
我が国のものとは明らかに造りが違う何両もの豪奢な馬車が、城のエントランスに入ってきた。
鮮やかな赤と黄色の旗を掲げた馬車の周囲を、屈強な兵士を乗せた馬が取り囲んでいる。
中でもひときわ立派な身なりをした兵士が馬から降り、異国の言葉で何かを高らかに宣言した。
それに合わせるかのように従者が一斉に馬車の扉を開けると、中からゾロゾロと異国の人々が登場し、私たちは拝礼しながら彼らを出迎えた。
ケントとミシェルだけは頭をあげたまま堂々と彼らを迎え入れる。対等な立場だからね。
国名や調理器具としてせいろを使っていることからも予想できたが、李国は前世で言うアジア系文化圏に属している。うん、イメージとしては中国だ。
当たり前だが、黒い髪に黒い目のアジア系の容姿をしている。
あぁ、懐かしいな。馴染み深すぎて、既に友達のような感覚を覚えた。
鮮やかな緋色の着物を纏う人々の中心に、裾が広がりゆったりした濃い黄色の衣装を着る人物がいた。
恐らく彼が李国王だろう。
彼の隣には小柄でとても愛らしい女性が寄り添っている。奥様、つまり王妃様かな?
彼女は薄い黄色の服装だ。少し着物と似ているが、胸のすぐ下の切り返しからゆったりとした美しい裳が何層にも渡ってヒラヒラと揺れている。薄黄色の衣装の上に長いストレートの黒髪が艶々と覆いかぶさる。
鮮烈な色のコントラストがあまりに美しくて、つい見惚れてしまった。
予想通り、黄色い着物の男性が李国王だった。ケントと握手をしながら通訳を介して言葉を交わしている。
国王は隣の王妃に対しては優しい労わるような眼差しを向けているが、私たちの方を伺う時は猜疑心というか、緊張を隠しきれていない。明らかに不信感が漂っている……ように見える。
代表団が全員揃ったのを見計らって、ケントが歓迎の挨拶を述べた。
言葉が完全に違うため複数の通訳が同行している。
通訳の言葉を聞きながら相手側の国王がうんうんと頷く。
そして、今度は彼が李国語で返礼のスピーチを行った。
「我々を迎え入れてくれて、ありがとうございます。今回の条約締結により両国の絆が強まり、恒久的な平和を実現できることを期待しています」
通訳の言葉を聞いて、私たちも重々しく頭を下げた。
今日は休憩を取ってもらった後、両国の首脳(つまり国王)が条約の内容について最終的な話し合いを行う予定だ。リアムも補佐として出席する。
既に事務官レベルでは何度もやり取りをして条約の内容を詰めているので、これはあくまで形式的な首脳会談になるはずだと聞いている。
その間、私はミシェルと一緒に隣国の王妃を接待することになった。
ミシェルと相談してベスにも参加してもらうことにした。ベスも乗り気だったしね!
李国の王妃の名前は悠然というそうだ。
「ヨウランと呼んでね」
通訳を通して屈託ない笑顔を見せる。
少女のような透明感に溢れる面差しに私もミシェルもハートをズキューンと打ち抜かれた。
ミシェルが小声で「……マジ天使」と呟いたのが聞こえた。
ヨウランの黒曜石のようにキラキラした瞳は好奇心で一杯だ。
「これは何ですか?」
沢山の質問が降ってくる。
「実は外国に来るのは初めてなんです。だから、とても楽しみにしていました」
恥ずかしそうに言うヨウランの愛くるしさに、私とミシェルは手を取り合って悶絶したのであった。
「ハノーヴァーの皆さんの言葉を勉強して、いつか通訳なしでお話しできるようになりたいです」
というヨウランは大変いじらしい……。
ちなみに私たちが住んでいるこの国はハノーヴァー王国という。ホント今更だけどね! てへっ。
「私たちも李国の言葉を勉強します!」
思わずユニゾンでハモッてしまった私とミシェル。
その勢いにその場に居た全員が顔を見合わせて噴き出した。
「あらあら……楽しそうね」
その時ベスが穏やかな笑みをたたえて登場した。背後には当然のようにセバスチャンが控えている。
いつ見てもベスはエレガントだ。ミシェルもベスが大好きで、今日も崇敬の眼差しを向けている。
ヨウランは問いかけるようにベスを見つめた。
「初めまして」
お辞儀をした後、ベスはヨウランに向かって外国語で話しかけた。
ヨウランと通訳がビックリした様子で顔を見合わせる。
明らかに李国の言葉を流暢に話すベスは、ヨウランと楽しげに会話を始めた。
私とミシェルは呆気に取られたままだ。
しばらくするとベスは私たちの方を向いて頭を下げた。
「……ごめんなさい。差し出がましい真似をしました」
「いえいえいえいえ! どうか気になさらないで下さい! 李国語が堪能でいらっしゃるなんてすごいですね!」
「昔勉強していたの」
ベスは恥ずかしそうに俯いた。
その後も私たちは和気藹々とお茶を飲み、城や庭を案内した。
何を見ても楽しそうにはしゃぐヨウランはとても素直で可愛らしい。国王からも溺愛されているのだろうと容易に想像できた。
そろそろ首脳会談が終わる頃かしら?
うまくいっているといいなぁ。
しかし、会談が行われている会場に近づくと、中から怒号のような喧噪が聞こえてきた。
な、なにごと!?
驚きと不安でミシェルと顔を見合わせる。
その時、唐突に会場の扉が開いて、黄色の着物を翻した国王が真っ赤な顔で憤然と飛び出してきた。
お付きの人達が何かを喚きながら急いで彼の後を追いかける。
ヨウランと通訳もそんな国王の様子を見て血相を変え、慌てて私たちに会釈した後、国王の後を追って走り出した。




