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ベスの秘密を知りました

*本日二話目です!宜しくお願いします。

『何を食べようかな?』と美味しそうなお料理を眺めていると、後ろから「ミラ」と声をかけられた。


慌てて振り向くとベスがニコニコと手を振っている。


周囲の貴族たちが恐れおののいているのが分かる。貴族モードのベスのオーラはすごい。


セバスチャンが彼女に小声で伝える。


「奥様、わざわざご自身でいらっしゃらなくても、私が取り分けて席にお持ちしますから……」


しかし、ベスは不満そうだ。


「だって! こんなご馳走! 自分で見たかったのよ。見たことがないお料理が沢山あるの。彩りも鮮やかだし……。見ているだけで幸せな気持ちになるわ!」


「ありがとうございます! 料理長に伝えます。とても喜びます!」


私が頭を下げると、ベスは優しい眼差しを向けてくれる。


太皇太后でいらっしゃるんだよなと思い出したら、今まで通りの口調だと失礼だということに今更ながら気がついた。


「陛下……た、大変申し訳ありません。気安くお話してしまい、ご無礼を……」

「いいのよ。今までみたいにベスって呼んでちょうだい。私たち、友達でしょ?」


片目をつぶりながら笑ってくれる。


そんな風に言ってもらえると感謝の気持ちで胸が熱くなった。


私たちは並んでどのお料理を取り分けるか吟味し始めた。料理に関するベスの質問に分かる範囲で答えていく。


セバスチャンは諦めたらしいが、ベスの1メートルほど後ろに控えて周囲に睨みをきかせている。


でも、セバスチャンがいなくてもベスの周囲には容易に近づけないだろう。周囲の貴族たちの目には敬意と同時に畏怖の念が強く表れている。


ベスは隠居したと言っていたけど、それでもこれだけ王宮で影響力を持っているのは凄いと思った。


「王家の盟約ってなんですか?」


二人で席に座って食事をしながら、私は尋ねた。


ベスは少し遠い目をして昔に思いを馳せているようだった。


「私の両親はこの国の国王と正妃だったの。父は当代一の魔術師と呼ばれた人で周囲からとても恐れられていた。でも、彼は外国の王家から嫁いできた母を心から愛して、他に側室は持たなかった。私は二人の一粒種で、とても大切に育てられたわ。というより、ものすごく過保護だったの」


ベスは懐かしさと同時にどこか切なさも混じった表情で語りだした。


「私は従兄弟と恋に落ちたの。初恋の人は父の弟の息子だった。いとこ同士の結婚は認められているから、その点で問題はなかったんだけど……。父がまた心配性を発症してね」


彼女は少し溜息をついた。


「もし、夫が側室を持って私がないがしろにされたらどうする? 王宮から追い出されたらどうする? 強い貴族の後ろ盾があるわけでもない。自分が死んだ後、私の立場が弱くなったらどうしよう?と不安になったのよね」


なるほど。血筋は最高だけれど、後ろ盾になるような貴族がいなかったということか。


「父は最初、私が女王として即位して夫が王配になることを考えたの。でも、私は自分が女王の器ではないと分かっていた。それに比べて、夫は素晴らしい国王の資質を持っていたから、どうしても彼を国王にして欲しいとお父さまにねだったわ。私はそれまであまりおねだりをしたことがなかったから……最初で最後のおねだりね」


ベスは悪戯っぽく笑った。


「父は私の言うことを聞いてくれたけど、代わりに主だった貴族たちに『王家の盟約』という魔法での約束を強要したの。本当に親バカね」

「『王家の盟約』っていうのは魔法なんですね?」


私の問いにベスは頷いた。


「私に対して未来永劫忠誠を誓うことを求める魔法の盟約だった。もし、それが破られたら災厄という災厄がその家に降りかかり、家系が断絶するくらいの不幸が訪れるだろうという呪いね」

「え!? そんな魔法あるんですか?」


聞いたことない。


「……分からないわ。使ったことがないから」


ベスはクスッと笑った。


「父はハッタリで貴族たちを脅したのかもしれない。当代一の魔術師だったから人が知らない魔法を知っていたのかもしれない。でも、父を恐れていた多くの貴族は今でもそれが本当だと信じているようね」


確かに……。アバークロンビー侯爵の反応を見ていると、完全に信じているようだった。


「私はそんな脅しを使うことは嫌だったの。だから、今まで一度も口にだしたことがなかったわ。今回が初めてね。でもちょっと後悔しているの。もっと早くアバークロンビーに使うんだったわ。あの二人が増長していたのは知っていたんだけど、ケントにとっては曲がりなりにも母親だし対立したくなかったの」


ずっと使わなかった『王家の盟約』という切り札を私たちのために使ってくれたんだ。


「……あ、ありがとうございます」


心からの感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


「いいのよ。ミラは特別だから」


優しい眼差しで言ってもらえると嬉しくて体がほわほわと温かくなった。


ベスはある意味、王宮で最強のカードを握っていたわけだが、彼女がその力を利用することはなかった。公明正大な人だから。


それに、そんな脅しなんて必要ないくらい尊敬されていたんだろう。


前王妃のような人間は例外だったに違いない。


また、国王となったダンナ様とも心から尊敬しあい、愛し合える関係を築くことができたそうだ。


それから、もう一つ気になる点があった。


「ベス、あの、ワイナリーのオーナーって……。もしかして、ワイナリーが私にとても協力的だったのはベスの……」


言いかけると彼女はニッコリ笑って、私の唇に人差し指をつけた。


そして黙って首を横に振った。


『言わないで…』ってことなのかな?


でも、それが答えになっていると思う。ルイが私と一緒に来てくれたのも、ビールの生産でとても協力的だったのも、全部ワイナリーのオーナーであるベスが裏で助けてくれていたんだ。


「そういえばね。ケントだけは私があのワイナリーのオーナーだって知っていたの」


ベスがしみじみと語りだした。


「突然ね、ずっと音信不通にしていた孫のケントから連絡が来たのよ。『自分の大切な友人がワイナリーを見学したいと言っているけど、よろしいですか?』って。ケントがわざわざ連絡するくらい大切な友人ってどんな人だろう?って好奇心を抑えられなくてね。本当にミラに会えてよかったわ」


そうか……。あの日ベスは偶然ワイナリーにいたわけじゃなかったんだ。


「ケントとはずっと連絡を取っていなかった。自分から離れていったのに、あの子に近づくなんて勝手なことだと思っていたから。だから、ケントから連絡が来た時はとても……とても嬉しかった。すぐに返事を書いてね。その後、頻繁に連絡を取るようになったのよ。ケントはケントで私が彼を避けていると思っていたみたい。誤解が解けて、また交流できるようになったのはとても嬉しいことだわ。みんなミラのおかげよ!」


ベスの言葉に私は反射的に答えた。


「いや、感謝するのはどう考えてもこちらの方です!」


しかも、ベスが私の後見人になってくれたおかげなんだろう。貴族たちの私を見る目がまったく変わった。扱いが非常に丁重になり、尊敬の眼差しすら感じるようになった。正直、手のひら返しだなぁ、とは思うけど。


でも、ベスに対しては感謝の気持ちしかない。何か御礼がしたいけど、何をしていいか分からない……。


「あの……この後、お忙しいですか?」


私は思い切って聞いてみた。


「いいえ。私はヒマな隠居生活を送っているのよ」


「良かったらしばらくここに滞在なさいませんか? せっかく来てくださったし……その、舞踏会も開かれるので、是非おもてなしさせてください!」


「本当にいいのかしら? なんか、楽しそう。それに、ここのお料理はとっても美味しいから、じゃあ、ちょっとだけお邪魔しちゃおうかしら?」


そう言いながら小首を傾げるベスは最強に可愛らしい。


「もちろんです! 私たちも太皇太后のご光臨を賜りますのは末代までの栄誉でございます!」

「あらあら……ミラに言われると嬉しいのはなぜかしらねぇ」


彼女は楽しそうにコロコロと笑った。


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