表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/85

国王夫妻がやってきました

いよいよケントとミシェルがウィンザー公爵城に到着する日がやってきた。


予定としては、到着から二日後に条約締結式があり、その翌々日に舞踏会、更にその翌々日にリタとパウロの結婚式だ。それぞれの行事の間に一日ずつ空けているが関連行事もあるので、かなりタイトなスケジュールだと思う。


ケントらの到着に合わせて、国の主だった貴族たちも続々と城にやってくる。


私は正装して、同じく礼服を着て真っ直ぐに立つリアムの隣でケントとミシェルの到着を待っていた。他にも主だった使用人が一列に並ぶ。誰もが緊張した面持ちだった。


豪奢な馬車が華やかな近衛騎士団と共に城のエントランスに入ってきた。


馬車がゆっくりと止まる。


侍従が鍵を外し恭しく扉を開いた。


中からケントが笑顔で姿を見せると同時に私たちは一斉に拝礼を行う。


ケントは自分がステップを降りたところで、ミシェルに手を差し伸べた。


ミシェルは相変わらず美しい。精緻な刺繍が丁寧に施されたドレスを優雅に捌きながらケントの手を取って馬車を降りた。


使用人の間からほぅっという溜息が漏れる。


そうでしょうそうでしょう!


ミシェルは身のこなしもとっても優雅なのよ~!


自分のことでもないのにドヤ顔をしてしまう私。


『ちょっとは見習え』という心の声を無視して、私はリアムと一緒に最上級の礼をとった。


「両陛下のご来臨を賜り、大変光栄に存じます。至らない点があるかと思いますが、どうか我が城での滞在をゆるりと楽しんで下さい」


リアムの挨拶にケントは真面目な顔で「うむ」と頷いた。


「久しぶりだな。リアム。元気か?」


すぐに気さくな表情に変わったケントはリアムと固く握手を交わす。


「ミラ。お前は相変わらずのお転婆ぶりだと聞いているぞ。セブンズと言ったか?」

「なんで知ってるの?!」


思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「ミラ。場所と立場をわきまえなさい」


ミシェルからすかさず注意される。


そうだ。今は国王夫妻をお迎えする公式行事の一環だ。


注意してくれたミシェルに感謝の目配せをすると、彼女は少し微笑んでくれた。


ミシェルはちょっと素っ気なく見えて、いつも助けてくれる。決して理不尽なことはしないので信頼しているんだ。


「まずはお部屋にご案内いたします。どうかごゆるりとお休み下さい」


案内役を務めるオリバーとハンナが声を掛けた。


「ありがとう」


そう言ってケントとミシェルは城の中に入り、私たちも後に続いた。


「今夜は歓迎会を催す予定です。それまでお部屋でお休み下さい」

「分かった! 夕飯、期待しているぞ!」


リアムが声を掛けるとケントが嬉しそうに言葉を返した。


ミシェルが無表情で彼の脇腹をつねる。


「わ、わるかった。もっと威厳をもってな……うん」


小声で謝るケントを見て、相変わらず二人は仲がいいんだなと嬉しくなった。


ふと隣を見るとリアムが眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。


「ミラ……君はもう、その……ケントに会っても、平気か?」


妙に緊張した面持ちで尋ねるリアム。


「私が好きなのはリアムだけって言ったでしょ?」


耳元で囁くと、彼が晴れ晴れとした笑顔を見せてくれた。


うちのダンナ様、可愛い!


その後も次々と招待客が到着し、私たちはバタバタとお出迎えに勤しんだ。


予定されている貴族はあと一組だ。彼らを迎え入れたら、ちょっと一息つけると思った時に、アルベールが血相を変えて走ってきた。


「リアム様、ミラ様! アバークロンビー侯爵が到着されたのですが……皇太后陛下とアレクサンドラ様も同行されています!」


え!? えええええええ!? 皇太后って……前王妃、ケントのお母さん、元姑。こないだワイナリーで会った時も最悪だった……。


そしてアレクサンドラ様はアバークロンビー侯爵令嬢、魔法学院の学院長、しかしその実体は……リアムのストーカーである。


確かにアバークロンビー侯爵は招待されているが、夫妻で出席すると伝えられていた。妻の代わりに娘が同行するケースはあるかもしれないが、事前に連絡もないなんて主催者に対して失礼だ。それに前王妃は彼の妹だけど、招待客のリストには入っていない。


リアムも愕然としている。


慌てて「ケントに伝言を!」と近くにいた使用人に頼んだ。


私とリアムは顔を見合わせたが、来てしまった以上はまさか追い返す訳にはいかない。


仕方なく二人で並んでお迎えするが、リアムはしっかりと私の手を握って私を庇うように少し前に立っている。


馬車から降りてきたアバークロンビー侯爵は尊大な態度で


「ああ、君がウィンザー公爵か……。娘から色々と噂は聞いているよ」


握手をするが、隣で礼をしている私のことは完全無視だ。


ま、仕方ないか。アレクサンドラから悪口を聞かされているのだろうし、公爵家を絶縁された平民だしね!


私を軽く扱うような貴族は他にも沢山いたが、貴族社会とは身分が全てなので仕方がないと私は諦めていた。


侯爵に続いて現れた前王妃とアレクサンドラは相変わらず派手で傲岸不遜な態度を隠そうともしない。


「ボロイ城ね~」


という前王妃。


「私が女主人になったらもっと見られるようにするわよ」


失礼極まりない妄想を発信するアレクサンドラ。


しかし、リアムが流れるような美しい動作で礼をすると、二人とも顔を赤らめて見惚れた様子だった。


「ご招待もしていないのに、このような朽ち果てた城にご光臨頂けるとは全く予想しておらず大変失礼いたしました」


皮肉も混じっているのだが二人が気づく様子はない。


「あら、分かればいいのよ」


高慢そうな顔の前王妃はご機嫌だ。


アレクサンドラは鋭い目つきで私を睨みつける。私を敵意から隠すようにリアムが壁になり、オリバーにお客様を部屋に案内するように伝えた。


彼女らが立ち去った後、リアムが私を抱きしめた。


「大丈夫か?」

「大丈夫! リアムが近くに居てくれたから全然平気だったよ」


心配かけないように笑顔で答えた。


「まさかあの二人が来るなんて……。ケントと相談してくるから、ミラは部屋で休んでいてくれ」


リアムは私を部屋まで送った後、心配そうに何度も振り返りながら出ていった。


正直、気疲れが酷かったので部屋に一人で休めるのは有難い。


今夜の歓迎会は荒れそうだな……。


どうか無事に済みますようにと祈るばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ