隣国との和平交渉は重要です!
*一気にざまぁまで五話連続投稿します。読んで頂けたら嬉しいです!
新領地の問題は片付いたが、リアムは相変わらず仕事に忙殺されていた。
特に大きな割合を占めるのは隣国である李国との不可侵条約の締結にまつわる仕事で、目下のところ最優先事項だとケントからしつこく通達されている。
王家の諜報とリアムの諜報が探ってきた情報によると、前王の戦好きのせいで税率が限界まで上がり、人々の怨嗟の声が蔓延していたという。
リアムが大怪我を負った戦は、敵が国の命運をかけて多くの金と兵士を投入して始めたものだったらしい。
国運を賭けた戦にあっさり敗北したために国王は退位せざるを得なくなり、息子が新国王として即位した。
ケントやリアムの諜報によると、新国王は前王に比べると理性的で、外国に侵略するのではなく内政をしっかりと立て直したいと思っているらしい。
民衆もそんな新国王を歓迎していて、厭戦気分が広まっているという。
更に財政的に非常に厳しい状況にあるため、外国と友好関係を築き経済を促進していきたい様子だ。
ケントはこれを機に和平を結び不可侵条約に調印したいと考えているが、李国王はこれまでさんざん被害をこうむってきた我が国が本当に友好的な関係を築きたいのかどうか疑っている模様。
友好的な振りをして、李国に不利な条件を押しつけようとしているのではないかと心配しているそうだ。
ただ、不可侵条約自体は両国にとって望ましいことなので、ようやく具体的な日程が決まりウィンザー公爵城で調印式が行われることになった。相手国にとって王都は遠すぎるのでケントが配慮した。
その日程に合わせてケントとミシェルがウィンザー公爵城へやってくる。
国王夫妻が滞在中に、リアムの新公爵としてのお披露目の舞踏会も予定され、更にリタとパウロの結婚式も行われることになった。
これまでにも準備を重ねてきたが、いざ具体的な日程が決まると忙しさに拍車がかかる。
国王夫妻が滞在するだけではない。ウィンザー公爵主催の舞踏会では国の主だった貴族が集う。彼らが快適に宿泊できるように城の設備を整えることも急務となった。
そこで思いがけなく活躍したのがアンナだった。彼女は城で使用人として働きたいと申し出て、リアムがそれを許したのだ。
気を遣わなくてもいいと言ったのだが、どうしても仕事をしたいというのでお願いすることにした。
彼女は刺繍だけでなく布地や洗濯にも深い知識があり、お客様用のリネンの準備を手伝ってくれている。更にはワンピ事業にも協力を申し出てくれた。
私が城をパトロールしていると、アンナが大きなリネンの籠を運んでいるのを見かけた。
フワフワしたミルキーブロンドの髪をまとめてスタスタと姿勢良く歩き回るアンナはとっても可愛い。
すぐに若い騎士が彼女に何か声を掛けていた。
多分『重そうだね。俺が運んであげるよ』とか何とか言っているんだろう。
彼女は笑顔で首を横に振るとそのまま彼を置いて歩き続ける。
若い騎士は頭をガリガリ掻きながら残念そうにその場を立ち去った。
その一連の場面を垣間見てしまった私。
「ミラ様……?」
油断していたところを背後から声を掛けられて、ビクッと飛び上がった。
け、けっして……のぞき見していた訳じゃないと誰にともなく言い訳をする。
声を掛けたのはアルベールだが、彼の視線が一瞬だけアンナの方を向いた。
「アルベール?」
「お忙しいところを申し訳ありません。条約の調印式と舞踏会では最大限の警備が求められますので、軍と協力して警備をすることになったのですが、特に女性の要人の警備について注意すべき点をミラ様から軍の幹部に講義して頂けないかと……。やはり軍は旧弊なところがありますので」
「了解! 分かったわ。リタにも協力してもらっていい?」
「もちろんです! リアム様もその場に出席するそうですので、失礼な態度をとる者はいないと思いますが……。申し訳ありません。よろしくお願いします」
アルベールは頭を下げた後、もう一度アンナが消えた方向にちらっと視線を送った。
「……ねぇ、アルベール。最近アンナに会ってないの?」
私の言葉にアルベールの肩がビクッと揺れた。
「え、えーと。私の職務はあくまで領主館でアンナを見張ることでしたので。この城では必要ないとリアム様にも言われましたから、アンナと会う必要はないかと」
「そう。彼女に会いたくないの? 仲良かったのに?」
それを聞いて、アルベールの笑顔が突如として業務用のそれになった。
「私は単に職務を全うしただけですので、会いたいとかそういうことはございません」
はりついたような笑顔のままアルベールは立ち去った。
絶対にアンナのことを気にしてると思うんだけどなぁと考えつつ『人の恋路はどうにもならない』というリタの言葉を思い出した。
ま、なるようにしかならない。私が首を突っ込んでいいことじゃないしね。
そう思いながら、私は城のパトロールを続けたのだった。




