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城に帰ってきました

*ミラ視点です。



私たちは無事に新領地の領民たちと和解し、具体的な話し合いが行われることになった。


トビー、アーサー、ハリーは本人たちの希望で新領地に残り、リアムの代理人として領民の代表と交渉を行い、引き続き領地経営を担当する。


事務官トリオは今や新領地のヒーローのように扱われ大人気だが、調子づくことなく従来の謙虚な性格はそのままで安心した。


また、ビール、麦茶、ピンクソルト・チップスの直営店もアスコットの街にオープンした。


領内で大人気になっただけでなく他領からもわざわざ買いにくる客も増えて、連日行列ができる人気ぶりだという。


フランチャイズのようにして他の町でもオープンすることを検討しているところだ。


麦やジャガイモの生産農家は思いがけなく需要が増えて価格も上がり、やりがいがあると喜んでくれているらしい。


ビールの生産についてはワイナリーの協力が不可欠なので、それについての難しい契約はテオが担当してくれている。


現場で生産の指揮を執っているのはルイで、出世してチームリーダーになったと喜ばしい報告が届いた。


ジュリーのお父さんは一命をとりとめて無事だった。怪我をさせた暴漢も捕まったという。


彼女の希望でお父さんが完全に回復したら、再び領主館で料理人をしてもらうことになっている。彼女も試合の結果を聞いて、とても喜んでくれた。


そして、何とアスコットの街に二つのセブンズのチームが生まれた。


ヒゲのラルフが『アスコット・セブンズ』というチームを作り、ポニテのトーマスが『ミラズ・ウォリアーズ』というチームを立ち上げた。


それぞれがメンバーを募集し、定期的に試合を行うことにするという。既に多くの希望者がチームに殺到しているらしい。試合で入場料を取ればチームの運営資金になるだろうし、試合で沢山屋台が出ればビジネスも盛んになるだろう。スポンサーだってつくかもしれない。これからが楽しみだ。


私のここでの仕事は終わりだな。思わずふぅっと溜息が出た。


楽しかったなぁ~。まさか生まれ変わってもラグビーをするようになるとは思わなかったけど、素敵な仲間に恵まれて、本当に素晴らしい経験をさせてもらった。


みんなに感謝だ。


そして、私たちが城に戻ることになり部屋で荷造りをしているとコンコンとドアを叩く音がした。


ドアを開けるとアンナが不安そうな顔つきで立っている。


「あの、ミラ様。私……その……本当に皆さんとご一緒してよろしいのでしょうか?」


ああ、アンナに一緒に城に行こうと誘ったのは私だ。でも、彼女はリアムがどう思うか不安なのかもしれない。


「大丈夫! ちゃんとリアムにも許可を取ったよ。みんな頑張り屋のアンナを喜んで歓迎してくれるよ。自信を持って!」


アンナの目じりが赤らんで、麗しい瞳が潤んだ。


「ミラ様……ありがとうございます。ミラ様のおかげで私は……」


「いいのよ! 全然気にしないで。私はアンナに会えて良かったと思ってる。……その、嫌じゃなければ友達になって欲しいなって……」


「光栄です。恐れ多いですが、私も、親しくお付き合いさせて頂けたら嬉しいです」


そう言って頬をピンクに染めるアンナはとっても可愛い!


思わず彼女を抱きしめてしまった。


*****


私は、みんなと一緒に城に戻ってきた。


馬車の扉が開きぴょんと外に出ると、周囲にいる人の数に息をのんだ。


城の人間が全員揃っているのではないかと思うほど多くの人たちが私たちを笑顔で出迎えてくれた。


凱旋帰国のような雰囲気で盛大に歓迎され、私たちは戸惑いながらも大きな喜びがこみ上げてくる。


驚くことに、私たちを迎えてくれたリアムは正装だった。


私は普段着のワンピなのに……。もっとちゃんとしたドレスを着れば良かったと後悔しても後の祭りだ。


リアムは漆黒の髪を緩くまとめて、凛々しい顔貌には薄い笑みが浮かんでいる。緑がかった薄茶色の瞳が優しく細められた。


心臓に悪いほどの麗しい美貌に甘く見つめられ、私は妙に緊張してしまった。


なんて綺麗な人なんだろう。


何度見ても私は夫であるリアムに心を奪われる。


彼は美しい所作で私の足元に膝を折り、手の甲に軽く口を近づけた。


「おかえり。ミラ」

「ただいま……」


すると出迎えてくれた人々から自然と大きな拍手と歓声が沸き起こった。


**


夜二人きりになると、リアムはとても幸せそうに笑み崩れた。


「ミラが戻ってきた」


後ろから抱きしめながら囁く切実な声音に、罪悪感を覚える。


「もう二度と離れたくない。……俺を独りにしないでくれ」


でも、同時にこんなに私を必要としてくれることに喜びを感じてしまう私は酷い女なのかもしれない。


リアムに向きなおって、彼の胸に顔を埋めた。


「もう離れない。私もリアムに会いたかった。私が少しでも役に立つなら……ずっと傍においてね」

「……ミラ。愛してる。俺だけのものでいて」


甘く囁きながらリアムは私の頬に優しく口づけした。

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