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リアム ~ 君が眩しい

*本日三度目の投稿です(^^♪ 

*リアム視点です。



試合前に観客席の最前列に案内された後、ミラの後ろ姿を切なく見送っていると隣の老婦人から声を掛けられた。


「奥様が大好きでいらっしゃるのね?」


ベスという名前の上品な老婦人はミラがワイナリーで出会って、ビール造りを助けてくれた素晴らしい方だと聞いている。


今もちょっと揶揄うように笑っているが、決して嫌味な感じではない。


だから俺も素直に頷いた。


「はい。誰よりも大切にしたい妻です」

「そう。仲睦まじくて何よりだわ。ミラは本当に良い子ね。あなたは幸せ者だわ」

「まったくその通りです。俺は彼女と結婚できたことで人生のすべての運を使い果たしました」


真剣に言うとベスはコロコロと笑った。笑い声も上品だな。


……あれ?


彼女の笑い声をどこかで聞いたことがあるような気がした。


まじまじとベスの顔を見つめる。


ベスは悪戯っぽく俺に微笑みかけた。その笑みにも覚えがある。


「俺は……子供の頃にあなたにお会いしたことがあります……ね?」

「あら! 覚えていてくれたの? 嬉しいわ! でも……」


しーっと言うように人差し指を唇に当てる。


「分かっています。お元気そうで何よりです」


ベスは話を変えるように試合会場を振り返った。


「セブンズなんてスポーツは初めて聞いたけど、面白そうね。ミラが手紙でルールを丁寧に説明してくれたのよ。たった一度会っただけのお婆さんのためにこんな特別席まで用意してくれて……。本当にいい子だわ」

「そうなんです! 彼女は誰に対しても優しくて素晴らしい女性です!」


力を込めて言うと、ベスが再びクスクスと忍び笑いをして嬉しそうに呟いた。


「素敵なご夫婦だわ」


**


俺は、ミラやパウロからの手紙でセブンズがどのようなスポーツか分かっていたつもりだった。


しかし、実際の試合を観ていると、その迫力といいスピードといい、想像を遥かに凌駕することに感動した。実に面白い競技だ。


選手の動きから目が離せない。ミラが相手選手を振り切り物凄いスピードで一直線に走ってトライを決めた場面では感激して涙が出そうになった。


一つ一つのプレーに観客も一喜一憂して盛り上がる。


そして、ビールとチップスを食べながら観戦という経験が不思議と気持ちを高揚させることにも気がついた。


これは……確かにビジネスになるな。


いつもながらミラの慧眼には感心させられる。


「ミラは目の付け所がいいのよね。このセブンズというスポーツ。ビール。麦茶。ピンクソルト・チップス。この領地にとって大きなビジネスになるわ」


ベスも同じことを考えていたらしい。


「そうですね。彼女は常にどうやったら人々を助けることができるかを考えています。それが成功につながる。私にとってはかけがえのない妻であると同時に領地経営の敏腕なパートナーですよ」

「魅力的すぎて旦那様は心配かもしれないけどね」


鋭いところを突いてくる。


確かに……。


光に透けて金色に見えるアッシュブロンドの髪も、少し目じりが上がった猫のような瞳も、ふっくらと柔らかそうな唇も。すべてが男を簡単に夢中にさせてしまう。


風のように駆け回るミラの額に浮かぶ汗すらキラキラと輝いている。彼女がボールに食らいつく必死な顔がより愛おしくて、駆ける姿の美しさにますます魅了される。


そう思うのは俺だけではないことはよく分かっている。ちょっと目を離すと誰かに奪われてしまうのではないかという恐怖が消え去ることはない。


現にリカルドはミラに惹かれている。試合中のミラを見つめる切ない眼差しに気がつかない者はいないだろう。ミラ以外は。


そして、試合が後半に入り、まさに手に汗握る展開になった。


観客の歓声も高まり、これほど人々が熱中するのかと感心するくらい観客席が興奮で揺れた。


相手チームに阻まれて、走り出してもすぐ止められてしまうミラを見て、じりじりとした感情が湧いてくる。


しかし、最後の最後で大逆転!


チームのメンバーにもみくちゃにされながら、最高の笑顔と泣き顔を同時に魅せるミラに俺は改めて惚れ直したのだった。


俺の奥さんは世界一だ!


*****


試合後、俺はすぐに領地に戻らなくてはいけない。


最後に観衆に挨拶をしようとしたが


「ウィンザー公爵バンザイ!」

「ミラ様、バンザイ!」


という掛け声と共にうねるような大歓声で自分の声がかき消された。


なので、手を振って笑顔を振りまくだけにしたが、それだけでも観衆の興奮は一段と高まった。


相手チームのラルフとトーマスという若者がデモを扇動するリーダーだと聞いていたが、二人が晴れ晴れとした顔で俺のところに挨拶に来た。


彼らは俺の前に神妙に跪いて、素直に謝罪した。


「完敗です。領主様に逆らうような真似をして申し訳ありませんでした」

「謝る必要はないよ。ただ、俺たちの話を聞いてくれるかい? 領民の生活を豊かにしたいと思っているんだ。これは交渉だ。君たちの要望もできる限り叶えたいと思う」


ラルフとトーマスは信じられないという顔を見せた後、泣きそうにくしゃりと表情を崩した。


「俺たちは……こんなに素晴らしい領主だったのに、無意味に反抗して……本当に申し訳ありませんでしたっ!!!」


二人揃って平伏したので、俺は慌てて彼らを立ち上がらせた。


「……気にするな。話し合いがしたいだけなんだ。君たちもよく頑張ったな。素晴らしい試合だった」


それを聞いたラルフとトーマスの双眸から涙が溢れ出した。


そこにミラたちが現れた。


「ど、どうしたの!? 負けたから泣いてるの?」


焦るミラに、ラルフとトーマスは笑い出した。


「いや! 嬉し泣きだ!」


そう叫ぶとミラを肩に担ぎ上げる。


内心『うっ!ミラに触るな!』と思ったことは事実だ。しかし、ここは感動的な場面だ。彼らは決して下心がある訳じゃない、と自分に言い聞かせた。


二人の肩に乗ったミラは戸惑っていたが、観衆や選手たちから拍手喝采が起こると笑顔で手を振った。


ミラの笑顔と人々の歓喜の声に俺は目頭がジンと熱くなった。


慎重にミラを降ろすと、ラルフとトーマスはトビー、アーサー、ハリーに向かって頭を深く下げた。


「俺たちは酷いことをした。あんたたちは俺たちを助けようとしてくれていたのに、失礼な真似をして本当に悪かった。すまなかった。今日は完敗だ。マジでスゲーよ! 尊敬するわ!」


二人の言葉にトビー、アーサー、ハリーは感動したようだ。目が真っ赤になっている。


彼らが固い握手を交わす様子は感動的だった。


俺は城に戻らないといけない時間がきたので、最後にミラを思いっ切り抱きしめた。


彼女の手が俺の背中に回り、ギュッとしがみつく感覚が愛おしい。


「ミラ、素晴らしい試合だった。楽しかったよ。それにビールもピンクソルト・チップスも美味かった! 領民と和解できたのも全部君のおかげだよ。君は俺の宝だ」

「ありがとう! リアムにそう言ってもらいたくて頑張ったの!すっごく嬉しい!」


どうしても離れがたかったが、エリオットに引きずられるように馬に乗せられ、俺は城への帰途についたのだった。

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