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いよいよ試合です!

*本日二度目の更新です!読んで下さってありがとうございます(*^-^*)。

試合が始まる10分ほど前。


アルベールが魔法で声を拡声し、観衆に呼びかけた。


「みんな! 今日は試合にきてくれてありがとう! 楽しんでいって欲しい。この客席や屋台、グラウンド整備などはミラ様が手配してくださったが、それを全面的に支援して下さったのは領主でありミラ様のご夫君であるリアム・ウィンザー公爵だ!」


アルベールの堂々としたスピーチに観衆はうぉおおおおと歓声で応えた。


「そして本日、そのウィンザー公爵閣下がこの場に参加して下さっている! 忙しい公務の時間を割いて、試合を観にこられた。公爵閣下がこの領地のことをどれだけ重要だと考えているか分かるだろう!!!」


おぉおおおおおおおおおお!


歓声が増えた。アルベール……スピーチ巧いな……。


「ウィンザー公爵閣下がお言葉を下さる! みんな、心して聞くように! いいな!」


おぉおおおお!という歓声に「ウィンザー公爵、バンザイ!」というような声援も混じった。


リアムは少し笑みを浮かべて立ち上がると群衆に向かって手を振った。


おぉ、やはり絵になるなぁ。


毅然とした態度で堂々と観衆を見回す余裕をみると、やはりこの人は人の上に立つ器なんだと実感する。


うちの夫、カッコいいでしょ!と胸がきゅんとした。


「私がリアム・ウィンザーだ! 新しくこの地の領主となった。君たちの中にそれを不満に思う者がいることも知っている。ただ、私は対話がしたい。君たちが求めているものを私が提供できるかもしれない。その話し合いがしたいんだ! 今日のこの試合がその対話のきっかけになることを心から期待している! 君たちは全員私にとって大切な領民で、ここは大切な領地だ! みんなが幸せになるよう努力することを誓う!」


リアムの声は誠意に満ちていた。


おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


それを聞いた観衆は興奮してそれまでの歓声の声量を遥かに上回った。口々に何かを叫んで、両手を振り回して喚いている者もいる。


「ウィンザー公爵! バンザイ!」

「リアム様、カッコイイ!」

「ミラちゃん、可愛い!!!」


なんていう声も何故か混じっている。


リアムは思いついたように大声で叫んだ。


「ミラは私の、私だけの最愛の妻だ。絶対に誰にも渡さない。彼女に手を出す者がいたら決闘だ!!!」


なぜかそれが一番の大盛り上がりで、女性の悲鳴やら、色んな怒号やら、歓声やらが入り混じった興奮のるつぼとなった。


まぁでも、試合前に観衆がこれだけ興奮してくれると、試合も盛り上がるだろう。


私はチームメンバーと円陣を組み、全員で肩を組んだ。


「行くぞ!!!」

「おっ!!!」


相手チームも同様に円陣を組んで気合を入れている。


「俺たちは絶対に負けられねーんだよ! いいか! 勝つぞ!」


ラルフの真剣な声が聞こえてきた。


**


雲一つない明るく真っ蒼な空の下、試合開始のホイッスルが響き渡った。


私たちのチームは連携が上手い。特にリタとエマのスピードは相手チームを上回り、敵を翻弄した。


事務官三人組は立派なスクラムが組めるようになり、相手にボールを取られることも少なくなった。大きな進歩だ。


しかし、やはりアンナが弱点になってしまう。


もちろん彼女のせいじゃない。


本来メンバーではなかったのに、この場で一緒に走ってくれるだけで感謝の気持ちで一杯だ。


いきなり初めての試合できっと不安だろうに……。


アンナ、頑張っててエライ!と声援を送りたくなる。


でも、敵は容赦なくアンナを狙ってくる。


アンナには怖くなったらボールを後方に落とすか誰かにパスを回せと指示してある。


彼女は指示通りに動いてくれるのだが、私へのマークが三人ついているだけでなく、エマやリタの動きも徐々に封じられてきて、私たちは焦りの色を隠すことができない。


それでも、私が一回、エマが一回、トビーが一回トライを決め、リタが全てのキックを正確に放った。


トライが5点、キックが2点なので、私たちのチームは前半21点と悪くない出だしだった。


相手チームも三回トライを決めたが、キックに二度失敗して17点。


私たちが4点差でリードしている状態で前半が終わり、ハーフタイムになった。


休憩中に作戦会議をしていると、アンナの目に涙が滲んだ。


「ご、ごめんなさい。私がみんなの足を引っ張って……」


「なに言ってんの!? 出場してくれるだけで有難いんだよ。それによく頑張ってる!」


私が言うと他の皆も口々に賛同してくれる。


「今までセブンズの練習試合にも出たことないのに、こんなに良くできてエライよ。僕だったらルールも良く分からなくてきっとペナルティ連発だったと思うよ」


実直なトビーの言葉にアンナはホッとしたようだった。


「そうよ! 一度もペナルティを出してないんだから! すごいよ! アンナ、頑張ってるよ」


リタも力強く励ましてくれて、アンナの気持ちも上向きになったようだ。


休憩中に再び屋台が賑わい長蛇の列ができたが、エリオットが物凄いスピードで客に対応しアッという間に行列が短くなるのが見えた。さすがだ。


観衆が口々に試合のことを興奮して語っている。


か~な~り~、盛り上がっている面白い試合だと思う。トライの数も多いし、見ている方も楽しいだろう。


**


後半が始まると、ラルフが獰猛な顔つきで食らいついてきた。


「俺たちは絶対に負けられねーんだよ!」


彼らも本気だ。


後半は相手チームに邪魔されてなかなかトライが決まらない。


結局私が一回トライを決め、リタが危なげなくキックを決めて7点追加し、私たちの得点は28点になった。


しかし、相手のトライを三度も許してしまった。くっ!


相手のキックは一度しか決まらなかったので、後半の相手の得点は17点追加され34点になった。


現在の得点 34 対 28


私たちは6点差で負けている。


点差を縮めようと必死でボールに食らいつくが、徐々に時間が無くなってくる。


負けたくない! みんなの気持ちは一つだったが、無情にも試合時間の終了は近づいてきた。


6点差ということは一回トライが決まっても33点で追いつけない。でも、トライが決まり、キックで2点入れば逆転のチャンスがある。


しかし、私は徹底的にマークされていて全く前に進むことが出来ない。パス回しで無駄に時間が過ぎていく。


エマがボールを抱えて走りだそうとしたが、ラルフがそれを阻んだ弾みでボールが腕からすり抜けてエマの後方に落ちた。


てんてんてんとボールが転がって行った先には……アンナが呆然と立ち尽くしている。


「アンナ!!! ボールを持って走れーーーーーー!!!!!」


私が叫ぶと、アンナはビクッとしてボールを拾い上げて走り出した。


アンナはまったくのノーマークだった。


執拗に私のマークについていた三人の選手が慌てて追いかける。


他にも相手チームの選手たちがアンナの行く手を阻もうとするが、彼女は器用に避けながら走り続ける。


私たちも相手選手をガードしてアンナをサポートする。


アンナは苦しそうな息遣いが伝わってくるくらい必死な表情を浮かべているが、足を緩めようとはしない。


必死の形相で前だけを見て走り続けるアンナ。


彼女も頑張ってトレーニングしたに違いない。以前より遥かに足が速くなっている。


そして、ゴールライン目がけて思いっ切り頭から飛び込んだ!


見事にゴールラインの中にボールをタッチ!!


トライが決まった!!!


34 対 33!


観衆の大歓声で会場の空気が揺れた。


同時に試合終了の笛が鳴る。


やった!!! これで1点差だ!!!


アンナの目から滝のように涙が流れているのが見えた。


仲間全員でアンナに走り寄って、彼女に抱きついた!


「アンナ! よくやった!!」

「エライ! よく頑張ったね!」


みんなでぎゅうぎゅうとアンナにしがみついて、彼女のトライを讃えた。


「よ、よかった……わたしでも……やくにたてた……」


アンナは号泣している。


それを聞いて、みんなが更にアンナを褒め称えた。


試合時間は終了したが、トライが決まったので私たちにはコンバージョンキックの機会が与えられる。


キックが決まれば2点入ることになる。


リタがこれまでにないくらい緊張しているのが伝わってきた。


アンナはまだ涙が止まらないので、私はアンナを抱きしめながらリタを見つめた。


リタと私の目が真っ直ぐに向き合った。


私は力強く頷いてサムズアップをする。


「自分を信じて!」


リタの顔が柔らかく緩んだ。


「任せろ!」


ああ、この人はなんて……なんてカッコいいんだろう。


**


最後のコンバージョンキックのために慎重に位置取りしていたリタがようやく止まった。


ふぅと大きく深呼吸をしてゴールポストを真っ直ぐに見つめる。


リタがボールを構えた。


彼女の動きはスローモーションのように見えた。


それくらい美しい完璧なフォームだった。


彼女が蹴り上げたボールが綺麗な放物線を描いて飛んでいく。


飛んでいく先はゴールポストのど真ん中だ。


彼女のキックの正確さは素晴らしい。余程の練習を重ねたに違いない。


リタのキックが決まり、2点が加算された。


トータルで私たちの得点は35点!


相手チームは34点!


一点差で私たちの逆転勝利だ!!!!!


観衆の興奮は凄まじいものだった。彼らの歓声で耳がおかしくなりそうだった。


更にみんな足を踏み鳴らしているのか、地面が揺れそうなくらいの震動が伝わってくる。


私たちは勝った!!! 勝ったんだ!!!!!


みんなにもみくちゃにされて抱き合いながら、私は涙が流れるのを止めることができなかった。

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