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アンナと仲良くなれるかもしれません

翌朝から私もセブンズのトレーニングに復帰したが、コーチはパウロに任せることにした。


軍で兵士を束ねた経験があるパウロの方が指導も上手だということに気づいたし、私もちょっと楽になる。


「よぉ! 久しぶりだな! 戻ってきたのか」


「やった~! おかえり~!」


何故か相手チームの選手からもハイタッチで迎えられた。


「やっぱりあんたがいないとトレーニングがつまんねーんだよな!」


そう言いながら私の肩に手を伸ばそうとする選手にパウロが睨みをきかす。


「やべ! あの人怖いわ~」


早々に逃げ出していく相手選手たち。


久しぶりのトレーニングは楽しかった。


ふとアンナも隅っこの方でアルベールと一緒にトレーニングしていることに気がついた。


アンナは私が留守中にも毎日トレーニングに参加していたらしい。


準備運動を終えたアンナがフィールドを走り始めた。


結構速いな。筋がいいのかもしれない。


もっと腕を大きく振って腿を上げるとスピードがあがるだろう。


余計なお世話かなと思ったけど、彼女に近寄って話しかけた。


「アンナ! 頑張ってるのね。それに足が速くてびっくりしたわ! もうちょっと腕を振って、腿を少しだけ上げると走りやすくなるかもしれない」


気を悪くしたかなと不安になったが、アンナは頬を赤くして深くお辞儀をしてくれた。


「嬉しい! ありがとうございます! 頑張って練習します!」


彼女は面倒見の良いアルベールと練習しながらとても楽しそうだ。


ふと彼らの会話が聞こえてきた。


「アルベール様、シャツのボタンが取れかかっていますよ」


アルベールが下を向いてみると確かに上から二番目のボタンがほつれていた。


「ちょっと待って下さい。そのままで大丈夫です。動かないで下さいね。裁縫道具は持ち歩いているので」


そう言ってアンナが手際よくボタンを縫い付けた。


「……裁縫が得意なのだな?」


アルベールの口調には感嘆が籠っている。あら、珍しい。


「はい。刺繍だけは昔から得意で……」


アンナは恥ずかしそうにそう言うと手早く裁縫道具を片付けて、トレーニングを再開した。


ちょっといい雰囲気よね。


アルベールはどう思ってるのかな?


……いや、いかんいかん。私には関係ないことだ。自分のトレーニングに集中しよう!


**


その日の午後はみんなでピンクソルト・チップスを作ることにした。


とにかく大量のジャガイモが必要だ。


全員に手伝いをお願いして厨房に集合してもらった。


アンナも素直に厨房に来てくれたが、どうしたらいいのか迷っているようだったので


「アンナも手伝ってくれる?」


声を掛けると、彼女は黙って頷いた。


厨房では全員が思い思いの場所に陣取ってジャガイモの皮むきを始めた。


アンナが戸惑っていたので、私は彼女のために椅子を持って来て、テーブルにスペースを作った。


「大丈夫? 何か困ったことがあったらいつでも言ってね」


彼女の顔が急速に赤くなる。


「あ、あの……私、ジャガイモの皮をむいたことがなくて……」


「あ、そうなのね。じゃあ、教えてあげる。一緒にやりましょう!」


小さなナイフを渡して、一緒にジャガイモの皮むきを始めた。


「ゆっくりね。こうやってナイフを持って。水平にね。私のやり方を見てて。そうそう。うまいわ。手先が器用なのね」


「こ、こうですか……?」


アンナは慣れない手つきでナイフを使っていたが、元々手先が器用なのだろう。薄く綺麗に皮がむけていく。


「すごく上手よ! とても初めてとは思えない!」


褒めると、アンナは嬉しそうに顔を赤らめた。


「はい。一つ終わりました……。ごめんなさい。時間がかかっちゃって」


「ううん! 初めてでこんなに綺麗にむけるなんて才能があるのね! ありがとう!」


アンナは頬を上気させて、次のジャガイモに手を伸ばしている。可愛い。


うん。悪い子じゃない、と思う。


「ねぇ、アンナ。さっきアルベールのボタンを縫い付けていたでしょう。刺繍が得意だって、聞こえちゃったんだけど……あの、刺繍を教えてもらえないかしら? 私、刺繍ってやったことがなくて」


貴族令嬢にとっては刺繍も嗜みの一つで通常は母親から習うものだが、私の場合は母がいなかったので誰からも習ったことがない。


「まぁ、ミラ様が?!」


アンナは驚いた様子だ。まぁ、そうだよね。高位貴族の令嬢なのに……って思われるよね。


「うん。私は幼い頃に母を亡くして、誰からも刺繍を教えてもらえなかったから」


「……そうだったんですね」


アンナがしんみりと言った。


「あ、ごめん。しんみりさせちゃって! 自分で勉強すれば良かったのに、怠けていた自分が悪いの。それで、つい教えてもらえたらいいなぁ、なんて図々しいことを考えちゃったんだ。ごめんね。いきなりで困るよね。気にしないで!」


「あ、いいえ。もし、私で良ければ喜んでお教えします!」


「ホント? ありがとう! 嬉しい!」


私たちはジャガイモの皮をむきながら微笑み合った。

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