リアム ~ ミラの誕生日
*砂糖増量回続きます。苦手な方はご注意下さい<m(__)m>。
*リアム視点です
領主館に謎の女性が現れ、それに動揺した俺はアルベールを派遣することにした。
アルベールは新領地に出発する前に俺の手を握って言った。
「必ずミラ様が近いうちに里帰りされるように説得しますから、それまで頑張ってください!」
……そんなに俺はまずい状況か?
自問自答すると『その通りだ』という結論に達した。
ミラが旅立って約一ヶ月。
彼女からの手紙は数度届いただけ……。
分かっている。彼女が領地で全力を出した結果、忙しくて俺への手紙まで手が回らないことは。
パウロからの報告でも、ミラがどれだけ頑張っているかは伝わってくる。
しかし、俺が最も気になっていたのはミラの誕生日が近づいてきていることだった。
迂闊なことに俺は去年そのことをすっかり忘れてしまっていた。今年こそは絶対に!絶対に彼女の誕生日を一緒に祝いたい。
特に今年の俺の誕生日を全力で祝ってくれたミラに対して『祝わない』という選択肢はない。
それなのに彼女は遠方にいる。
「え!? 私の誕生日なんて気にしないでいいよ! 平気平気!」
誕生日を祝うために城に戻ってきてくれと懇願しても、彼女はそう言いそうな気がする。
それに彼女が全力で取り組んでいる新領地経営の邪魔をしたくはない。
残念なことに、俺の仕事がずっと立て込んでいて新領地に行く時間的余裕がない。特に隣国の李国との和平交渉は最優先事項だとケントからも強調されている。
ミラに会いたい。ミラの誕生日を一緒に祝いたい。でも、邪魔したくない。
このループに入った俺は周囲が心配するくらい危うく見えたらしい。
更にパウロからの報告で素性が分からない娘が領主館に入り込んだという。
しかも、ミラは彼女の滞在を許したと報告を受けて、俺は心配のあまりそのまま新領地に向かおうとした。
逆上した俺を止めてくれたのがテオとアルベールだ。
二人は俺が限界だと結論づけたらしい。
アルベールが新領地に行き、ミラの一時的な里帰りを説得してくれると言ってくれた。
アルベールはいつも余裕で、彼が失敗したところなど見たことがない。だから、きっと今回もミラは戻ってきてくれるだろう。
そう考えただけで地面から体が浮いているような幸せな気持ちになった。
仕事もはかどるようになり、テオも一安心という顔をしている。
しかし、次に俺を悩ませたのは、彼女の誕生日をどのように祝うかということだ。
彼女のために特別なことをしたい。
実は誕生日プレゼントは既に用意してある。
ミラは高価なものを喜ぶタイプではない。何を贈ったら彼女は喜んでくれるのだろうか?
思い悩んでいたらオリバーが声をかけてくれた。
「リアム様。ハンナに相談されてみたらいかがでしょう?」
それは良い考えだ!
ハンナの助言に従ってプレゼントを用意したが、今度は当日何をすればいいのか悩み、再びハンナの知恵を得ることにした。
「こんな風にリアム様をお助けできる機会を頂けるなんて嬉しいですわ~」
ハンナは嬉しそうだ。
しかし!
「リアム様、女は愛する男性と一緒に誕生日を過ごせるだけで嬉しいのですよ」
「…………」
ハンナの助言を聞いて俺はどうしたらいいんだと更に思い悩むことになった。
*****
ミラが城に戻ってきたのは彼女の誕生日の前日だった。
あまりにタイミングが良くて、アルベールの手腕に舌を巻いた。
あいつはホント何者なんだ!?
アルベールが敵でないことに感謝しつつ、馬車の扉を開けると毎晩のように夢に見た愛おしい妻がいた。
ミラ……。
一生見ていても飽きない愛らしい顔を見た瞬間に脳内の何かがぶちっと切れた。
彼女を抱きかかえて部屋まで全力疾走した。ただただ早く二人きりになりたかった。
彼女が何かを叫んでいるのが途切れ途切れに聞こえたが、俺は早くミラを抱きしめたいという感情で脳が一杯だった。
それ以上は我慢するつもりだったのだが、ミラは無自覚に俺を煽る。つい……忍耐力の限界を超えてしまった。
彼女に再会して改めて感じる。
ミラへの想いは募るばかりだ。天井知らずに彼女への愛が高まり続ける。
柔らかいアッシュブロンドの髪の感触を掌に感じて首筋に柔らかく口づけると、ミラが濡れた睫毛を震わせて潤んだ瞳で見つめてくる。
この世界で俺が欲しいのはミラだけだ。
他に何もいらない。
彼女のためなら何でもする。
どんなものでも手に入れる。
彼女が隣にいてくれることだけが俺の望みだ。
しかし、俺の切実な想いは彼女にそれほど伝わっていないのかもしれない(凹む)。
*****
ミラの誕生日がきた。
「今日は一日休みを取ったんだ。だから、リマの街にデートに行こう!」
久しぶりにゆっくり眠れた俺は朝から張り切っていた。
「え? 昨日も休みだったじゃない? それに私……今日はルイの試作品の手伝いをしようと思っていて……」
ミラは完全に自分の誕生日を忘れているようだ。
「久しぶりなんだ。ミラはいつも頑張っているし、今日だけは俺の我儘を聞いてくれないか? 頼む!」
俺は必死に懇願した。
「そうね。テオがリアムはずっと毎日休みなく働いていたって言ってたし。今日はゆっくり楽しもう!」
ミラはしばらく考えこんだ後、笑ってそう言ってくれた。
ああ、この笑顔のためなら俺は何でもする。
テオだけではない。今日は城の人間全員が全面協力してくれる予定だ。
ハンナが用意した薄茶色の新着ワンピは、裾が華やかに広がってミラにとても似合っている。
髪をポニーテールにして黒いベルベットのリボンで結んだミラは信じられないくらい可愛い。
俺の髪と瞳の色だ。
今日は俺だけのミラでいて欲しい。そして、俺のことだけを考えて欲しい。
俺の独占欲の詰まった服装を城のみんなは生暖かい視線で見守ってくれた。
リマの街ではいつものように色々な店の商品を見て歩きながら、買い物を楽しんだ。
今日はミラが欲しいものは全部買うくらいの意気込みで来たぞ。
真面目なミラが望むので、甘藷スイーツとワンピの公式ショップもチェックすると客が並んでいて評判も上々なので安心したようだ。
食べ歩きを楽しみながら散策していると、あっという間に時間が過ぎる。
「また教会の鐘楼に行かないか? 今日は天気もいいから遠くまで見通せると思うよ」
というとミラの瞳が輝いた。
「うん! 嬉しい! 私もまた行きたいなと思っていたの!」
二人で思い出の教会の扉を開けた。
初めてのデートの場所だし、俺たちが結婚式を挙げた教会だ。
その時のミラの笑顔が脳裏をよぎる。結局俺が思いついた場所はここしかなかった。馬鹿の一つ覚えと言われそうだが、俺たちの大切な場所であることに間違いない。
ミラは感慨深そうに教会の内部を眺めている。
司祭は俺たちの姿を見て嬉しそうに挨拶すると、奥の階段に案内してくれた。
足元が危ないのでミラの手を引きながら急な階段を登っていく。
真っ暗な内部から外への扉を開けた瞬間の光はいつもと変わらず鮮烈だ。
広大な絶景に目を奪われて、ミラは両手を組んで景色に感動している。
目尻には少し涙が浮かんでいるようだ。
「……大丈夫か?」
彼女の肩に手を置くと、クルリと振り返って俺の胸の中に飛び込んできた。
「うん! 嬉しい! すごく……すごく幸せ。大好きな旦那さんと一緒にまた素敵な光景を見ることが出来て! 初めてデートした思い出の場所だし。それに結婚式をした思い出の教会でしょ? もう、嬉しすぎて一生忘れられないと思う!ありがとう、リアム。大好き!」
俺の愛妻は、なんて……なんて可愛いんだ。
腕の中の彼女を抱きしめて、耳元で囁いた。
「……誕生日おめでとう。ミラ」
俺の胸に顔を埋めていたミラがパッと顔をあげて俺を見た。
「え……?」
しばらく沈黙したのちに「あーーーーーーっ!忘れてた!」と声をあげる。
「あ! だから! 今日はわざわざ休んで! なるほど!」
一人で何か納得している。
その様子が可愛くてクスクス笑ってしまった。
顔を赤くしたミラは再び俺の胸に顔を埋めて、頭をグリグリと押しつけた。
「もう~! すっかり忘れてたわ。でも、ありがとう! 最高の誕生日! すっごく楽しかったし、嬉しかった。覚えていてくれてありがとう!」
「それだけじゃないんだ」
俺はポケットに隠していたプレゼントを渡した。
照れくささと不安で顔が熱くなる。彼女は気に入ってくれるだろうか?
綺麗な紙に包まれた二つの箱を目の前にしてミラはキョトンとしている。
「えっと、これは?」
「誕生日プレゼントだ」
「え、えーーーーー!? そんないいのに。気にしないで。私なんてパーティだけで必死になっちゃって、リアムに誕生日プレゼントあげてないし……」
何故かミラは泣きそうになっている。
「俺があげたいんだ。受け取ってくれる? 気に入ってもらえるか分からないけど」
「もちろん! 絶対に気に入るよ! ……開けてもいい?」
俺が頷くと、まず小さいほうの箱を選んだ。子供みたいに頬をピンクにしていそいそと包装紙を丁寧に開ける様子が可愛い。
一つ目の箱にはネックレスが入っている。緑がかった薄茶色の小さな球体の石が革紐でぶら下がっているカジュアルなタイプだ。
「それはタイガーアイと言う石で、俺の瞳に近いかなって……あと、革なら普段用に使えるかと思ったんだけど……その……気に入らなかったらつけなくても……」
「ううん! すっごい素敵! 綺麗な色……本当にリアムの瞳の色みたい。革紐の色やデザインも素敵だわ。革紐がとても優しい茶色なの。とっても気に入ったわ! 本当にありがとう!」
ミラの瞳が潤んでいる。彼女が心から喜んでくれているのが分かってホッとした。
「ハンナの友人で革工芸の専門家がいるんだ。その人に革を染色してもらって、デザインを相談して作ってもらったんだ」
「わざわざ私のために!?」
「当り前だろ。君は俺の大事な奥さんだからな」
俺は、彼女の額に自分の額をコツンと合わせた。
ミラは早速ネックレスをつけてくれた。彼女の胸元で俺の瞳の色が揺れるのは満足感があるものだな。
ミラも嬉しそうにネックレスを見つめている。
そして、二つ目の箱を開け始めた。
これは……どうかな?
ミラは優しいから文句を言ったりはしないだろうが、喜んでもらえる自信はまったくない。
二つ目の箱には数枚のクッキーが入っている。
あぁ、一番まともなのだけを選んだんだが、それでも形がガタガタだ。
「えっと、俺が作ったんだ。初めてだったから、エリオットに教えてもらって。だから、味は悪くないと思うんだけど……形がどうしても綺麗にならなくて……。食べる必要ないから……、その、俺の自己満足というか……」
ミラはじっと箱の中のクッキーを見つめている。
ああ、やっぱりこんなみっともないクッキーで言葉を失っているんだろう。
どう声を掛けたらいいか分からないと思っていた時、ミラの両目から涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「み、ミラ……ど、どうした? こんなプレゼントをもらってそんなに嫌だったのか?」
俺はぎょっとして尋ねた。
「ち、ちがっ……ぎゃ、ぎゃく……う、うれしくて……」
ミラは何度も首を横に振りながら俺にしがみついてきた。
「わ、わたしのために、いそがしいリアムが……はじめてだったのに、わざわざつくってくれたんでしょ? もう、うれしいいがい、なにもない……」
ヒックヒック泣きじゃくりながら俺の胸に顔を埋めるミラが愛おしくて堪らなかった。
俺は優しく彼女を抱きしめた。
「ミラ。君の人生を俺と共有してくれてありがとう。君という妻を持てたことが俺の人生で一番最高の出来事だ。君が俺の幸せなんだ。俺と一緒にいてくれてありがとう。愛してる」
ミラは「うわーーーーん」と、一際大きな声をあげると「わだしもーーーー!!!りあむ、だいずきーーーーー」と俺の胸の中で泣き続けた。
*「魔物資源活用機構」という壮大な物語を書いていらっしゃるIchen様が、リアムがプレゼントしたネックレスの絵を描いて下さいました。とても美しくてイメージ通りです!本当にありがとうございます(*^-^*)!




