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里帰りをすることになりました

*本日二度目の投稿です!読んで頂いてありがとうございます(*^-^*)。

ワイナリーに行った翌朝トレーニングをしていると、アルベールとアンナが連れ立って練習場にやってきた。


「おはよう、アルベール! アンナ、お加減はいかが?」


声をかけるとアンナは曖昧に微笑んだ。


「運動をすると脳の血流も良くなって、記憶障害にも良い効果があるかもしれない。だからアンナも一緒にトレーニングしたらどうかなと思って連れてきました」


アルベールは平然と言う。内容は胡散臭いのに彼が言うともっともらしく聞こえるから不思議だ。


彼は悪戯っぽく私に向かってウィンクした。


嗚呼、イケオジの小悪魔っぽいエロス! この人の色気もリアムに引けを取らない。


「そうなんですか? そんな話聞いたことないんですけど……運動なんてあまりしたことないし……」


アンナは戸惑っているようだが、アルベールは穏やかそうでいて決して引かない。


「でも、アンナは記憶を取り戻したいんですよね? 効果はともあれ、できることは何でも試した方がいいですよ」


そう言われるとアンナは反論できない。


道理でアンナは下働きの男の子が着ているようなシャツにズボン姿な訳だ。


うん。いずれにしても運動をして悪いことはないもんね!


よし! トレーニングだ!


急いで初心者向けのメニューを作ってアルベールに渡す。彼が彼女を監督指導してくれるそうだ。


アンナの顔が若干引きつっているように見えるが、敢えて気がつかない振りをした。


**


その日のトレーニングには50人近くの人が集まっていた。


私は愛想を振りまきながら、見物客に近づいていった。


「おはよう! 見学に来たの?」


軽く声を掛けてみる。


「ああ! お嬢ちゃん。なんか楽しそうなことをしてるって聞いたからな」

「面白そうなスポーツだな。俺もやってみたいよ!」


うん。好感触。


「このスポーツの試合があったら観戦したいと思う?」


試しに聞いてみた。


すると多くの人から「おう!」というような肯定の返事が返ってきた。


よし! いいぞ。


「そこで例えば軽食とか飲み物……例えば、お酒とか買えたら買う?」


「そりゃなぁ! 安ければな。値段次第だな」

「いくらくらいなら買いたいと思う?」

「うーん……そうだなぁ。酒は高いからなぁ。ワインも半額くらいだったら喜んで買うんだけどなぁ……」


なるほど。ビールはワインの半額くらいの価格帯ね。


「ありがとう! 参考になった!」


御礼を言ってトレーニングに戻る。


急いで自分のノルマをこなし、試合形式の練習を始めた。


全員ルールにも慣れて、練習でも大分試合らしくなってきた。


怪我防止のために相手チームとも相談した結果、魔法で選手の全身を覆う透明なバブルを作り、直接肌に触れられないようにしている。それでも、タックルは可能だし競技上の問題はないはずだ。


私たちのチームはどんどん進化して強くなっている。


事務官トリオは連日の筋トレのおかげで全身にしなやかな筋肉がつき、特に下半身の安定感が増した。以前のようにスクラムで倒されっぱなしということもなくなった。


また、我がチームが誇る女子選手は全員驚くほど動きが素早い。


今日の練習試合でも、左右に相手選手を躱しながらアスリートか?!というくらいのスピードで走ってトライを決めるエマ。


更に正確なコンバージョンキックで点数を重ねるリタ。ジュリーはパス回しが物凄く上手だ。


最後は私が後方から一直線に走り抜け、トライを決めた。誰一人私を止められなかったぞ。へへん!


うちのチーム、確実に強化されている! ますますやる気が湧いてきた。


**


その日の練習後、みんなで朝食をとりミーティングをすることになったが、アンナは疲れきった顔で「もう限界なので部屋で休みます」と言った。


「ゆっくり休んでね!」


彼女はふらふらしながらアルベールと一緒に自分の部屋に消えて行った。


しばらくするとアルベールだけが戻ってきた。


「彼女を独りにして大丈夫ですか?」


リカルドが心配そうに尋ねる。


「窓は全て施錠して、部屋の扉も外から鍵をかけた。魔法で強化もしたから大丈夫だ。それに運動して余程疲れたんだろう。部屋に戻ったら即ベッドに倒れ込んで熟睡していた。しばらく目が覚めないと思うよ」


それを聞いてみんな安堵したように息を吐いた。


「アンナは驚いていましたよ。ミラ様は他の人のトレーニングだけでなく自分の練習もちゃんとこなして、領主代理の仕事をして、家事の当番をして、他にも細々と働きっぱなしだ。……個人的には働きすぎだと思いますが。彼女はミラ様の仕事量に純粋に驚いているようでした」


アルベールの言葉にみんなが頷いてくれたが、私は『そうかなぁ~?』と思ってしまう。


「そうかしら? 普通じゃない? リアムなんてもっと働いてるし……。他のみんなだってすごく頑張ってるから……」


「ミラ様が一番働いているのはお側で見ている私が保証しますわ」


エマが断言し、他の面々も同意した。


「もう少しみんなを頼ってお休みになっていいんですよ」


アルベールの言葉からは私の体を心配してくれる気遣いが感じられる。


「うん。ありがとう。そうだね。私一人で突っ走り過ぎたかも。でも、みんなにはすごく助けられているわ。当番制にしてくれたおかげで領主代理の仕事も楽にできるようになったし……」


そう言う私に向けるみんなの眼差しはとても優しい。


アルベールがコホンと咳払いをしながら話を続けた。


「それでですね。ミラ様には一度城に帰って頂きたいんです。休養というか里帰りといいますか……」


「え!? 私がこっちに来てからまだ一ヶ月くらいしか経ってないよ?」


「いえ、リアム様が限界です。多分、ミラ様に一度帰って頂かないとリアム様は死にます」


アルベールが言うと、その場にいた全員が『納得!』という顔をした。


死ぬって言われても……と思うけど、正直言うと私もリアムに会いたかった。


毎日忙しく駆け抜けたけど、眠る前に思い出すのはリアムの笑顔だったし、朝起きて最初に思うのもリアムの寝顔だった。


やっぱり私も寂しかったんだな。


「うん。そうだね。気を使わせちゃってごめんね。麦のお酒の材料になる丁子ちょうじを城に取りに行こうと思っていたから、ちょうど良かったかも。ルイと一緒に城に戻るわ」


ちなみにルイは厨房で麦のお酒の研究を始めたが、人懐っこいのでこの館の人間ともすぐに打ち解けた。


「そうですね。えーと、では明日出発ということで。護衛にはリカルドがつきます。ミラ様とルイは馬車で移動して下さい。少なくとも数日は城に滞在して下さいね」


明日? え!? そんないきなり?


ま、でも善は急げというしね。


「分かった。えっと、朝のトレーニングはどうしよう?」


「私は大体ミラのメニューのパターンが分かってきたよ。トレーニングのメニュー作りはあたしに任せて」


リタの言葉は心強い。


「俺がコーチをしますよ。ミラ様ほどうまくはできませんが……」


パウロも申し出てくれて、私は頼りになるメンバーたちに心から感謝した。


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