その女性は記憶喪失でした
*本日二度目の投稿です。宜しくお願いします(*^-^*)
*ミラ視点です。倒れた女性を領主館に連れ帰ってきたところから始まります。
領主館に戻ると私たちはその女性を空いている客室に寝かし、医師に来てもらった。
医師が診察したところ、怪我も異常もないとのことで一同安心した。意識がないのは単に眠っているだけだと医師から言われて、ホッと息を吐く。
その後、独りで静かに眠らせてあげようとしたのだが、リカルドは眉間に皺を寄せている。
「俺が見張っているからミラ様は休んで下さい」
どうしよう……。目が覚めて近くに知らない男性が立っていたら怯えてしまうよね。
結局、リタも同じ部屋に居てもらって、彼女の目が覚めるのを待つことになった。
**
翌朝、セブンズのトレーニングの最中に彼女の意識が戻ったと連絡をもらい、私は慌てて彼女の部屋に向かった。
部屋に入るとベッドに身を起こした女性が目に入る。
その女性は淡いミルキーブロンドに明るい緑色の瞳。大変な美人だ。仕草や動作から見ても貴族の女性に違いない。
その割に着ているドレスはあまり高価そうではない。何があったのだろうと心配になる。
「この度は助けて頂いて、ありがとうございました」
恐る恐る彼女に近づくと丁寧に頭を下げられた。
「いえ、ご無事で良かったです。痛いところはありませんか?」
「大丈夫です。ただ……事故の衝撃でしょうか……? 記憶が曖昧で……。自分が何者でどこから来たかを覚えていないのです」
「えっ!?」
……記憶喪失? 漫画によく出てくるやつだ。現実では初めてみた。
私は何と言っていいのか分からなかった。
「ごめんなさい。そんなこと、いきなり言われても困りますよね。これ以上ご迷惑をお掛けしないように、すぐに出ていきますから……」
という女性に『はい、そうですか』と言えるはずもない。
「いえいえいえ、ちょっと待って下さい。記憶がなかったら、どこかに行く当てもないですよね? ……記憶が戻るまでしばらくこの屋敷に滞在して……」
そう言いかけると、リカルドが背後から口を挟む。
「ミラ様、ちょっと」
リカルドの眉間には相変わらず深い皺が寄っていて、目つきが険しい。
女性に対して猜疑心を抱いているようだ。
同じ部屋にいたリタも厳しい表情を崩さない。
取りあえず部屋の外にでるとリカルドが熱心に訴えてきた。
「ミラ様、ダメです。怪しすぎる。記憶を失った? 嘘に決まってる! 悪意のない奴がそんな嘘なんてつかないでしょう? ミラ様に近づいて何か危害を加えようとしているんです!」
「そうね……。そうかもしれない。彼女は何か裏の目的があって、わざわざ私たちの懐に飛び込んできたのかもしれない」
「それが分かっててなんで!?」
焦るリカルドに私はニッコリ微笑んだ。
「だって、リカルドがいてくれるし。私に危害を加えさせたりしないでしょ?」
「そ、そりゃ……そうだけど」
リカルドの顔が真っ赤になった。珍しいな。
「私にはリカルドやパウロやテッドがいてくれる。リタだってエマだって……。みんなに守ってもらって、私は本当に有難いと思っているの」
「そ……そうですね」
何故かガックリと肩を落としたリカルドが呟いた。
「もし、彼女が何らかの目的があって入り込んだのなら、それが何かを知りたいの。追い払っただけでは根本的な解決にはならないわ。わざと泳がせて目的を探りたい。だって、もしかしたら彼女の本当の狙いはリアムかもしれないでしょ? リアムに何かがあったら大変じゃない?」
「ああ、結局ミラ様の頭の中はリアム様で一杯なんですね」
リカルドは、納得した表情で頷いた。
「そうなの! リアムにはちゃんと報告するし、私も油断しないように気をつける。他のみんなとも情報を共有して、決して彼女を一人にしないとか、そうやって気をつければ、害意があっても、外から狙われるより尻尾を掴みやすいんじゃない? それに女性一人を外に放り出すことなんてできない……甘いかな?」
途中で自信がなくなって、声がどんどん小さくなる。
「分かりました。ただし、リアム様にはすべて報告して、指示を仰ぐことにします。いいですね?」
リカルドは諦めたようにそう言うと、私の背後にいた誰かに目で合図をした。
振り向くと、私の後ろにはパウロが立っていた。
「そうですね。既にリアム様へ第一報の報告は済ませましたが、その後の対応について、取りあえず女性が領主館に滞在することをお伝えします。でも、リアム様がダメだと言ったら、ダメですからね?」
パウロに真剣に言われて、私も素直に頷いた。
「はい! もちろんです。あの……ありがとう。我儘言って、ごめんなさい」
深く頭を下げる。リカルドとパウロは仕方ないというようにまた肩を竦めた。
取りあえず名前がないと不便なので、彼女のことはアンナと呼ぶことにした。リカルドが幾つか候補を出して、彼女が選んだ名前らしい。
*****
その後、リアムから『ミラの好きなようにやらせてやってくれ』という返信が来て、アンナは記憶が戻るまで領主館に滞在することになった。
但し、領主館での護衛を増やすということが条件で、なんとアルベールがやってきた。
ウィンザー騎士団の団長自らがやって来るなんて前代未聞だ。
「あんなリアム様を見るのは新鮮でした。よっぽどミラ様が大切なんでしょう」
ポカンと口を開いてアルベールを見上げると、彼は苦笑しながら頭を掻いた。
「その女性には私がピッタリつきますから、大丈夫です。抜かりはしません」
自信満々なアルベール。確かにこの上ない安心感がある。
「で、でも、騎士団は大丈夫なの?」
「まぁ期限付きですし、副団長はあちらにおりますからね。大丈夫でしょう」
爽やかに微笑むアルベール。
「ありがとう……。ごめんね。こんなところまで来させちゃって」
話が大事になりすぎて、申し訳なさに身の置き所がない。
「いや、いいんですよ。私も領外での勤務は初めての経験で楽しみにしていました。随分楽しそうなことをされていると噂ですよ」
「え!? そ、そうかな。セブンズのことかな?」
「そうそう。色々な噂を聞きましたよ。城でも評判になっています。彼女にもセブンズの手伝いをしてもらいましょう。そうしたら、私も見学できる」
アルベールは豪快に笑った。




