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リアム ~ 切ない日々

*おはようございます(*^-^*)。読んで頂いてありがとうございます!

*リアム視点です。



ミラが新領地に向かってからまだそれほど経っていないのに、ミラを恋しく想う気持ちは天井知らずに高まっていく。


朝目覚めた時にミラが腕の中にいるという幸せな夢を見て、実際に目覚めた時に誰もいない寂しさは例えようもない。


パウロは毎日のようにミラに関する詳細な手紙を送ってくれる。


他のどんな報告書よりも真剣にパウロからの手紙を読んだ。


予想した通り、ミラは全力で頑張ってくれているようだ。頑張り過ぎて無理をしているんじゃないかと全員が心配していると書いてあった。


俺もミラが心配だ。彼女は突っ走ると周りが見えなくなり、全部自分で背負ってしまおうとする。


俺も人を頼るのが苦手だが、ミラも同じだな・・・ふと頬が緩む。


一部始終を見ていたテオが声を掛けてきた。


「リアム様。ミラ様はお元気そうですか?」


「ああ、デモ隊とやりあって、スポーツで勝負をつけることになったらしい」


「スポーツ!?」


「ミラが話していたのを覚えているか?セブンズというスポーツで勝負する。三ヶ月間、敵味方一緒にトレーニングをするそうだ。その後、正式な試合をしてミラたちが勝ったら領民が対話に応じるということらしい」


「へぇ!?敵味方一緒にトレーニングして?試合?ミラ様らしいですね」


「それで領民側とも色々と交流しているらしい。トビー、アーサー、ハリーとミラ、リタ、エマ、地元で雇用された料理人の娘が選手として試合をするらしいぞ」


「・・・・・・・どういう経緯いきさつでその面子になったんでしょうね?」


「お前の気持ちは分かるが、ミラにはミラの考えがあるのだろう」


「さすがミラ様は私たち常人の理解の及ばない案を出されますな」


こういう言い方をするが、テオはミラを心底認めて尊敬している。


「俺は夫としてミラのやりたいことが出来るようにサポートするだけだ。彼女には自由に好きなことをして欲しい。それを見守るのが夫の甲斐性だと思っている」


それを聞いたテオは信じがたいものを見たような顔をした。


「リアム様・・ご立派でございます。以前のように駄々っ子のようなことを仰るのではないかと思っておりましたが・・・。人間幾つになっても成長するものですね」


「バカにしてるのか?」


「いいえ。私はいつでも真剣です」


その時オリバーが息せきって執務室に駆けこんできた。


「り、リアムさま・・・あの・・・」


「どうしたオリバー?顔が真っ蒼だぞ」


「あの・・アレクサンドラ・アバークロンビー様が今・・・城のエントランスにおいでです・・・」


「は・・・!?はぁ!?」


俺は頭が混乱した。何故彼女がここに?


「面会の事前連絡はなかったはず・・・だよな?」


「ございません。本当にいきなり登城されました」


「追い返すのは・・?」


「得策ではございません」


テオが口を挟んだ。テオには事情を全て説明してある。


「相手は曲がりなりにも魔法学院の学院長。また、アバークロンビー侯爵は王宮でも実力者です。非礼を働きいたずらに怒らせるのは得策ではありません」


テオの言うことは尤もだ。


「分かった。ただ、出来るだけ彼女を城の中には入れたくないんだ・・・」


「承知致しました。中庭コートヤード東屋あずまやに席を設けます」


とオリバーが言った。


**


オリバーが迅速に対応してくれて、俺は今アレクサンドラ・アバークロンビーと向かい合わせに座ってお茶を飲んでいる。


化粧が濃い・・・。香水が臭い・・・。爪が長くて派手すぎる・・・。


ミラと比較してしまうと何一ついいところがない。


ミラは素顔でも最高に可愛らしかった。


素肌が弾けるように輝いていたし、長くてツヤツヤした睫毛に縁取られた猫の目のようなパッチリとした瞳は、何もしなくてもただただ美しかった。


香水をつけなくても石鹸やシャンプーの匂いに堪らなくそそられたなぁ。


彼女の指はいつも爪が短く清潔に整えられていた。


ミラは・・と考えだすと思考が止まらなくなる。


思いついた考えを語るミラの生き生きとした表情を思い出した。彼女のことはいつまでも飽きることなく見つめ続けることができるだろう。


ただ一緒にいるだけで、ただ彼女が視界に入っているだけで、俺は幸せを感じるんだ。


それに対して、この女とほんの短時間一緒にいるだけで吐き気が止まらない。視界に入れたくもない。


ミラに会いたい・・・それだけしか考えられなかった。


「・・・何をお考えですの?」


突然話しかけられて我に返った。


「あ、ああ失礼。それで今日はどのようなご用件でしょう?」


「うふん。誤魔化さなくてもいいのよ。奥様のことを考えていたんでしょう?」


「・・・・」


俺は黙っていた。彼女の言ったことは正しかったが、それに乗せられたくなかった。


「どうやったら奥様を排除することが出来るかを考えていらしたのね」


は・・・!?


したり顔で言うこの女の言葉を聞いて絶句した。


何を言ってるんだ????


「叙爵式でのことを覚えています?」


そして彼女は突然話を変えた。


「叙爵式?」


「私と目が合って・・・お互いに運命を感じましたわね」


「あなたも叙爵式に出席されていたのですか?まったく気がつきませんでした」


「・・・照れなくてもいいのよ。私たちはお互いの愛を確かめあったのに、あなたには相応しくない婚約者がいた。あなたは苦しみもがいたことでしょう。どうやったら婚約を破棄して私を結婚できるか・・・さぞかし悩んだことだろうと思います」


目を潤ませながら訴えてくる言葉の意味がまったく理解できない。


この女は何を言ってるんだ?


「私もあなたをあの女から解き放ってあげようと思ったの。でも・・・何かと邪魔が入ってしまい、あなたは彼女と結婚せざるを得なくなった・・・でも、今からでも遅くないわ。私があの女を片付けてあげるから・・・そうしたら私たちは一緒になれる」


・・・気持ち悪い。それが正直な感想だった。


「学院長。私が愛するのはこの世でミラ一人だけ。ミラは私の最愛の妻です。心の底から欲して結婚した愛しい女性です。彼女以外は誰にも興味ありません。また、私とあなたの間には何もない。勘違いされているようなのではっきり言わせて頂くが、私はあなたに何の関心もありません。どちらかというあなたのような女性は嫌いです。どうかこの城からお引き取りください」


誤解されないように、はっきりと伝えた。


少しは悲しそうな顔をするかと思いきや、予想に反して彼女はニヤリと嗤った。


「学生時代、階段から突き落とされたこと、奥様は覚えていないんでしょう?記憶を消されてるから。それは奥様には内緒なのよね?」


「なっ・・・!?」


俺は耳を疑った。何故その話をこの女が知っているんだ!?俺はパニックになった。


「うふふ・・・。私はね、色んなことを知っているの。どうしようかなぁ。私、奥様と顔を合わせた時に口が滑っちゃうかもしれないなぁ」


俺の中で何かがぷつんと切れた。怒りが最高潮に達して、ふつふつと煮えくり返っている。


しかし、脳みその中の冷静な部分で、どうやったらこの女を一番苦しむ形で罰することが出来るだろうかと考えていた。


その時、


「リアム様!」


と誰かが俺の肩にポンと手を置いた。


・・・・っ、はぁ・・・・・


一気に我に返った。ぐらぐら煮えたぎっていた怒りが落ち着いた。


危なかった・・・。あやうくこの女に攻撃を仕掛けるところだった。


振り返るとアルベールが心配そうに俺の瞳を覗き込んだ。


「・・・ありがとう。アルベール。俺は大丈夫だ」


冷静さを取り戻した俺は


「何を仰っているのか分かりませんね。私は妻に対して隠し事なんてありませんし、妻に何を言って頂いても構いませんよ」


と余裕の態度を見せた。


こういう女は俺の弱みを握ったと思ったら、とことんそこを突いてくる。


もちろん・・・ミラには、ケントが記憶を消したことを知られたくない。


どうするのが最善なのか脳みそを忙しく働かせた。誤魔化すことはできるか?


アレクサンドラは目を細めて俺を推し計るように見つめている。


しばらくそのまま睨み合っていたが、彼女はふっと嗤って


「ま、いいわ。今日のところは勘弁してあげる」


と言った。


そのまま何も言わずに帰って行ったが、俺は肌が粟立つのを止めることが出来なかった。


アルベールは


「あの女性は・・・やはり危険ですね」


と心配そうだ。


王都のケントからもアレクサンドラがミラに危害を加えるかもしれないと警告を受けていた。ミラの記憶の一部が消されていることを何故あの女が知っていたのか?ケントに知らせておいた方がいいな。


そして、新しく騎士として入団したリカルドが俺に話があると言ってきた時のことを思い出した。



*****


リカルドが真剣な表情でリアムに訴える。


「私は魔法学院の学院長からリアム様がミラという悪辣な女性に騙されて、ウィンザー公爵家が危機に瀕していると言われました。排除するために彼女を誘惑して不貞の証拠を握るようにと指示されたんです。もちろん、そんなことは引き受けませんでしたが」


「はぁ!?」


リアムの顔が怒気に歪んだ。


「それは全く事実と異なる。ミラは素晴らしい女性だ。怪我で歩けなくなった足を、辛抱強く治療して治してくれたのも彼女だ。彼女は俺の人生だけでなく領地全体に幸せを運んでくれた」


それを聞いてリカルドはゆっくりと頷いた。


「知っています。私は騎士団の入団試験を受ける時にわざとミラ様に不躾な口のきき方をしました。でも、ミラ様はそれを咎めるようなことはなさらなかった。もし、学院長が言ったような権高な女性だったら私が騎士として採用されることはなかったでしょう。城で働き始めて、ミラ様の采配ぶりを拝見しても、素晴らしい領主夫人でいらっしゃることが分かりました」


リアムはホッと息を吐いた。


「それは良かった。ただ・・・あまり彼女に近づくなよ」


思わず警告するとリカルドが苦笑した。


「あれだけ素晴らしい女性だと心配になるのは分かります。ただ・・・学院長が悪意を持っていることはお伝えした方が良いと思い、ご報告させて頂きました」


「・・・そうだな。ミラの周辺に特に注意を払ってくれ」


「はっ!命に代えてもミラ様をお守りします!」


と敬礼をするリカルドは、いい加減なことを言っているようには聞こえなかった。



*****


だからリカルドをミラの護衛に加えた。


あいつは学院長を直接知っている唯一の人間だからな。


「リカルドはアレクサンドラを直接知っているし、テッドやパウロも信頼できる・・・だが、もし何か起こったら、アルベール、お前が・・・」


「はい。私が新領地のミラ様の元に参ります。必ず大切な奥様をお守りいたしますので、どうか心安らかにお過ごしください」


俺はホッと息を吐いた。アルベールを信頼して裏切られた経験はない。彼がミラを守ってくれるなら安心だ。


「アレクサンドラが来たことはミラに言った方がいいと思うか?」


アルベールに尋ねると彼は珍しく答えを言いよどんだ。


「・・・申し訳ありません。私には分かりかねます。ミラ様にはアレクサンドラ様との接点を持って頂きたくないですし・・・」


「そうだな・・・。ミラがあの女のことを知らずに済めばそれが一番いいんだが・・・。でも、隠しごとはしたくない。あの女が来たことは伝えた方がいいだろう」


俺の胸に暗い雲が広がっていくようだった。

*以前アレクサンドラがケントの執務室を盗聴して得た情報です。第二部の一番目のエピソード『アレクサンドラ・アバークロンビー』に書かれています。盗聴した内容については第一部『リアム ~ 失いたくない』をご参照下さい。

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