ビールにはフライドポテトでしょう?
翌朝も全員が時間通りに集合した。
驚くことに10人くらいの野次馬も集まっていて、興味深そうに私たちの練習を眺めている。
「えーっと、面白そうだっていう奴がいて、それで見物しにきたんだけど、構わねぇだろ?」
敵チームキャプテン、ヒゲのラルフが尋ねた。
「うん。いいわよ! どうせなら観客がいた方がやる気でるしね!」
というわけで早速練習を開始する。
今日の練習では基礎トレの後に、一つ一つのテクニックを指導していく予定だ。
基礎トレは腕立て伏せや腹筋など、みっちり筋肉を鍛えるトレーニング。
敵も味方もなくみんなで一斉に練習する。
でも、ペースは一人一人違うので、各自自分のペースで筋トレしてもらう。
動きが止まっている人やサボっている人がいると私が注意する。
「……ほら、そこ。腕が止まってるよ! 無駄口たたかない!」
「……だって、きちぃ……」
ラルフが愚痴った。
「あのねぇ、筋トレは全ての基本なのよ? うちのトビー、アーサー、ハリーだってまだ全然余裕だよ」
「なにぃ!?」
事務官三人組に目を遣ると、確かに余裕で見事な腕立て伏せを続けている。
「あたしたちだって楽勝だよ。案外ここの男は情けないねぇ」
リタの言葉にラルフの顔が真っ赤に染まり「チキショー、負けてられっか!」と歯を食いしばって腕立て伏せを続けた。
基礎トレが終わった後は不思議な連帯感が生まれて、敵チームの選手がトビーたちに「お前らすげーな。案外鍛えてんだな」と話しかけていた。
うんうん。こうやって友情は深まっていくものだよ。
この日は最後にパス回しに特化した練習をして終了した。
「いやぁ、思ったより楽しいな」
「朝から体を動かすとその日の調子がいいんだよなぁ」
敵チームの面子からも次々と温かい声をかけてもらって私は嬉しくなったが、ラルフとトーマスは面白くなさそうに舌打ちしながら帰っていった。
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練習後、早起きして作ったスープを朝食用に盛り付けているとジュリーが心配そうに近づいてきた。
「ミラ様……申し訳ありません。食事は全部ミラ様が作って下さっていますよね。どうか、私にもお手伝いさせて下さい」
「え!? いいよ。だって、トレーニング大変じゃない?」
「だって! ミラ様は領主代理のお仕事をしながら、トレーニングメニューを作って、練習に参加して、お料理までなさっているんですよ!? 無茶です! こんな生活をしていたら倒れてしまいますよ!」
ジュリーが涙ながらに叫び、リタとエマもジュリーに加わった。
「そうだよ。ミラ。ちょっとはあたしたちにも頼んなよ」
「そうですわ! 私だってジャガイモの皮くらいはむけます。セブンズはチームワークが大切だって仰っていたじゃありませんか! みんなで協力させて下さい!」
さらにトビーやテッドたちまでやって来たので、私は諦めた。
私のせいでみんなに無理させているから、せめて私ができることは頑張ろうと思ったんだけど、それでみんなに気を使わせてしまったら本末転倒だ。
「ありがとう! じゃあ、これからはみんなで協力して家事をすることにしよう!」
「そうですね。屋敷の他の使用人たちも手伝いたいと言っています。俺が当番表、作りますよ。軍で慣れてるんで。それに領主代理の仕事も俺たちでできるものは回して下さい」
さすが有能な元軍人、パウロが申し出てくれた。
「あ、ありがとう……」
「ミラ様。俺たちはみんなミラ様を信じてついていきます。だから、ミラ様も俺たちを頼りにして下さい」
テッドの言葉に目頭が熱くなる。
「みんな、ホント素晴らしいチームで……すごいわ。うれしい。本当にありがとう!」
半べそをかきながら深く頭を下げると、みんなが照れくさそうに笑ってくれた。
***
みんなのおかげで少し余裕ができたので、その時間に領主代理として決裁が必要な書類に次々と目を通していく。
『ジャガイモか~。どうしよう?』
作物の市場価格の報告書を見て、私は頭を抱えた。
普通に考えると良いことなのかもしれないが、ジャガイモが豊作すぎて市場で値段が下降しつつあるらしい。
これじゃあ、作っても高く売れない。結局ほとんど利益が出ないから働く意欲も減退しちゃうよね。
麦はビールになるかもしれないけど……ジャガイモは……うーん
髪を掻きむしっていたら、ふと思いついた。
ビールのおつまみにフライドポテト。
いいんじゃない?!
でも、単なるフライドポテトだとつまらないかな?
何か付加価値をつけられないだろうか、と考えながら、食堂に降りて行くとリタが声をかけてきた。
「ミラ、なに難しい顔してんだい?」
リタの顔を見たら、何かが閃きそうだ。
そうだ!!!
「ねぇ、リタ! こないだ岩塩鉱の話してたよね? この領地に岩塩鉱があるかもしれないって!」
「ああ。そうだね。ここからそんなに離れてはいないよ。馬で1時間くらいかな。明日にでも行ってみるかい?」
「うん! ありがとう! リタ! 面白いアイデアを思いついたんだ!」
リタが眩しそうに私を見つめてぎゅっと抱きしめてくれた。
「あんたのこの脳みそはどうなってるんだろうね? 色んな面白いアイデアが詰まってる。それにキラキラした瞳はいつも前だけを見てて、みんなに希望を与えるんだ。だから、あたしたちもついていきたいと思う! 大好きだよ。ミラ」
私は喜びで胸が一杯になった。
誰からも必要とされないんじゃないかっていう恐怖に苛まれていた過去の自分に伝えてあげたいな。
いつか素晴らしい仲間や友達や恋人ができて、自分にはもっと価値があるって思えるようになるよ、って。




