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ラグビー観戦にはビールでしょう!

早起きして運動した後の朝御飯は美味しい!


みんなで朝食をとった後、私たちはセブンズの作戦会議を開いた。


「私たちが不利なのはスクラムなのよ。相手はみんなゴツイからね。スクラムで倒されるとボールを取られてしまうから、トビーたちの課題は体幹と下半身を鍛えることね。筋トレに集中して欲しいの」


トビー、アーサー、ハリーは神妙に頷いた。


私は彼らに強化メニューを渡した。これも昨夜徹夜で作ったものだ。


「三人は仕事の心配はしなくていいわ。今日からこのメニューを中心に昼間は自主トレをして欲しいの」

「……こ、こんなに?」


慄く三人を見て不安になった。


……いきなり、きつかったかな。自分の尺度で判断しちゃいけなかったかもしれない。


「あ、あの、もしきついようだったら減らしてもらってもぜんぜん……」


アーサーが私を遮って拳を振り上げた。


「いえ! 頑張ります! ミラ様の下で働くようになってから、体を動かすことが多くなりました。筋トレメニューも下さったので既に筋トレはしてるんです。最初は筋肉痛もありました。でも、慣れていくうちに体が軽くなって……。そうしたら夜も良く眠れて、体調が良くなったんです。俺はあいつらに二度とヒョロヒョロなんて言われたくありません! だから、スクラムでも倒されないように頑張って鍛えます!」


彼の意気込みが胸に沁みる。泣きそうだ。


「……セブンズは楽しかったです。今日のはちゃんとした試合じゃなかったけど、すごく楽しいスポーツだと思いました。僕も頑張ります!」


普段口数の少ないハリーも凛と声を張る。


なんか……すごく嬉しい。泣きそうだ。


「領民に認めてもらうためにも僕たちは頑張ります!」


トビーの台詞に三人は互いを見つめ合って、ガシっと抱き合った。


いいなぁ。友情だ。泣きそうだ。


女性陣にも練習メニューを渡した。彼女たちの練習は体力作りがメインになっている。


エマとジュリーは瞳を輝かせながらメニューに目を通している。


リタはメニューを見た後に口を開いた。


「敵をかわしながら突っ走ってトライを決めるんだよね。左右に素早く動けるような訓練も入れた方がいいんじゃない? 正直、あたしはこれだけだとちょっと物足りないかな」


リタの言うことは尤もだけど……。


「うーん。でも、何度も全力で走らないといけなくなるから、最終的に持久力が一番重要になってくるんだよね。まず持久力をつけてから、素早く動ける訓練をした方がいいかなって思ったんだ。でも、リタにはそれとは別に追加メニューがあるのよ」


彼女に手渡したのはキックの練習だ。今日の練習で一番キックが正確だったのはリタだった。


トライ後のコンバージョン・キックは全部リタに任せよう。だから、よりキックの精度を上げるための練習メニューを作ったんだ。


「おお、いいね。これはやる気が出るわ。キックはあたしに任せておいて!」


良かった。みんな和気藹々と楽しそうにセブンズについて話し合っている。素敵なチームになりそう。みんなでプレイできるのが楽しみだ!


「セブンズって観てるだけでも面白かったので、本番の試合ではかなりの集客が期待できそうですね。昨日デモに来てた領民も来るでしょうし」


作戦会議を黙って眺めていたリカルドが口を開いた。


彼が言うことは本当かもしれない。ルールを教えるためだけに行った試合形式でもそれなりに面白かった。


三ヶ月後にトレーニングをした後の試合はもっと見ごたえがあるんじゃないだろうか?


多くの人が試合を観戦しに集まるかもしれない。


そして、ラグビーの試合観戦と言えば……。


ビールだ!!! これは欠かせない。


そうだ。


私は麦→麦芽→ビールって閃いたんだ。


この世界ではワインはあってもビールは見たことがない。庶民の間でも聞いたことがないんだよなぁ。


麦からビールが作れたら、この領地だけのオリジナル産品になるし大きな利益が出るんじゃないかと思う。


ただ、どうやってビールを作っていいのか分かんないな……。


「ミラ様、どうされました?」


私が考え込んでいるとパウロが優しく訊ねてくれた。


「うーん。麦のお酒が作れたらいいなぁって……」

「「「「麦のお酒?!」」」」


その場の全員が驚いた。ということは、やっぱりこの世界にはビールはないのかな。


「えっとね。ワインはあるけど、ワイン用のブドウって特殊だし生産が難しいよね。でも、ここは麦の産地で原料は沢山あるじゃない? 麦からお酒が作れたら大きな利益になるんじゃないかなぁって……そう思ったんだけど、やっぱり無理かな……?」


荒唐無稽なアイデアのような気がして、知らず知らずのうちに声が小さくなった。


「いや、面白いかもしれない」


テッドが呟く。


「騎士達は酒が好きです。でも、やっぱり高価なので、高給をもらっている騎士でもそんなに気軽に飲めるものではない。麦からお酒が作れるのなら、きっとワインよりは安く提供できますよね? 味さえ良ければ売れる可能性が高いと思いますよ」


確かに……。ただ問題が……。


「でもね、肝心の作り方が分からないのよ。大雑把なアイデアはあるけど、私は専門家じゃないし……発酵とかもどうしていいか分からないから」


そう言うとパウロの顔がパッと輝いた。


「ミラ様。だったら、専門家の意見を聞けばいいんですよ!」

「え……? 専門家?」

「隣の領地に王族御用達のワイナリーがあるのをご存知ですか? 酒の醸造ならやっぱり専門家の意見を聞いた方がいい。早速ケント様に連絡してみますよ!」


パウロは伝書鳩を使って今でも頻繁にケントと連絡を取り合っているらしい。


その一週間後には、ケントからワイナリーを案内してもらえるように手配したという手紙が届き、パウロの仕事の速さに舌を巻いたのだった。


*****


その日の夜、私はリアムへの手紙を書いていた。


こちらに来てから毎日忙しくて、ゆっくり手紙を書く時間がなかった。


リアムからの甘い手紙は毎日のように届くのに……。申し訳ない。


彼からの手紙には溢れるくらいの愛情が籠った言葉が並んでいる。


『忙しいだろうから返信は気にしないでいいよ』


その言葉に甘えてしまっていたが、彼のことだからきっと心配しているに違いない。


新領地に来てから起こった出来事を、順を追って書き綴っていく。


起こったことは全て書き記していく。報告し忘れて、後で何か隠していたなんて誤解されたら大変だ。


甘くお仕置きされてしまう……そう思った瞬間に彼との閨での色々が思い出されて、体がカッと熱くなった。


ああ、まずい。私はどんどん破廉恥になっていく。これが大人の階段を上るということなのだろうか?


リアムに触られるのは好きだ。とても大切に、宝物に触るようにそっと扱われると、本当に自分が価値あるもののように思えてくる。


リアムの濃やかな愛情のおかげで私は自分に自信が持てるようになった。自分が価値のある存在だと信じられるようになったんだ。


堪らなくリアムが恋しい。


あぁ~、リアムは正しかったな。やっぱり寂しい。頑張った後、リアムに『お疲れ様』って抱きしめてもらえることで、どれだけ回復力をもらっていたのか、あらためてその有難さを実感する。


リアムに会いたいなぁ。窓から見えるお月さまを見ながら、リアムの逞しい腕の中を懐かしく思い出した。


リアムもきっと同じ月を眺めてる。


私は手紙を書く指に力を入れた。

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