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よし、勝負をしましょう!

「私はミラ・ウィンザー。あなたたちの領主の妻よ! あなたたちの生活を豊かにするために助けたい。診療所や学校を作りたい。新しい産業を興したい。そのためにはみんなの協力が必要なの! こんなデモにエネルギーを使うヒマがあったら、自分たちの生活を豊かにするよう真面目に働いたらどうなの!」


再び声を拡声して群衆に訴えると、人々がザワつき始めた。


私の言葉が少しでも響いてくれるといいんだけど……。


「待て! 勝手なことをするな! 領主夫人だからってエラそうに……」


私に蹴られた脇腹を抑えながら、先ほどの男が近づいてくる。


テッドたちに睨みつけられて、一瞬怯むものの憎々しげに私を罵倒してきた。


「所詮、お前だって守られてるからエラそうにしているだけじゃねーか! 自分一人じゃ何もできないくせに!」


「そうよ! 私は一人じゃ何もできない。人間誰でもそうなのよ! あんただってそうじゃないの? だから、みんなで協力するんでしょ!?」


リーダー格の二人は少し考え込んだ。


ちょっとは冷静に話がしたい。


「ねぇ、あなたたちの名前を教えてくれる? どっちがラルフでどっちがトーマス?」


さっきジュリーから聞いた名前を思い出しながら尋ねると、二人は驚いた顔をした。


「なんで俺たちの名を……」


「新領主夫人の情報網を舐めないでちょうだい!」


ふふんと笑う。


二人は毒気を抜かれたように自己紹介をした。


ゴツくてヒゲもじゃの方がラルフ。長身細身で長髪をポニテにしているのがトーマス。


「ラルフ、トーマス、これからよろしくね」


しかし、ラルフとトーマスは険しい表情を崩さない。


「俺たちは新領主を受け入れない! 絶対に独立してやる!」


「どうして?」


「貴族は俺たちのためになる政策なんてやってくれない! お前たちだってどうせ口だけだ!」


彼らは折れるつもりはないようだ。


睨み合う私たちを群衆が固唾をのんで見つめている。


こうなったら最後の手段だ。


「分かった! じゃあ、勝負よ!」


拳を握りしめて腹から大声を出す。


分かりあうためには勝負が必要なんだ。そして、戦いからの友情の芽生えは定番の展開だ!


「……勝負?」


二人だけでなく、チーム・ミラの面々もポカンと口を開けた。


「そうよ! 正々堂々とスポーツで勝負をつけましょう! あなたたちが負けたら、私の話を聞いてちょうだい!」


「す、スポーツ……? 何の……? い、いや、ちょっと待て! お前たちにはそんな筋骨隆々の騎士がついているだろう! 俺たちにはどう見たって不利じゃないか!?」


「分かったわ! じゃあ、この三人は試合に出ない」


テッド、リカルド、パウロを指さして言うと「なにぃ!?」と三人が同時に声をあげた。


「じゃあ、誰が出るんだよ!?」


ヒゲのラルフがバカにしたように嗤った。


すると赤毛のトビーが前に飛び出して叫んだ。


「僕が……僕が出る!」


思わぬ展開に呆気に取られているとアーサーとハリーも彼に続いて出場を宣言した。


「ええ!?」


驚いたけど、三人が協力してくれるのなら私は責任をもって絶対に鍛えてみせる!


彼らをバカになんかさせない!


「ありがとう! あなたたちの心意気は受け取ったわ! 大丈夫! 絶対に私が勝たせるから!」


そう宣言すると、事務官トリオは私の顔を見つめて晴れ晴れとした表情で微笑んだ。


「ミラ様のために頑張ります!」


三人ともガッツポーズを決めた。だんだん私に似てきた気がする。


その後、なんとリタとエマが進み出て叫んだ。


「私たちも出ます!」


ええ!? リタはともかくエマは……と心配になるが、『任せてください!』とでもいうように彼女もガッツポーズを作った。


ラルフとトーマスは信じられないという顔をしている。


ポニテのトーマスが呆然と呟いた。


「おい……そのひょろひょろの三人と女のチームなんて……本気で勝つ気があるのか?」


「もちろんよ! いい!? 私たちが勝ったら、少なくとも私たちの話を聞いてちょうだい。聞いた後で不満があったら交渉に応じるから。私、何か理不尽なこと言ってる?」


堂々と宣言すると、群衆の中から私に対する声援が起こった。


「いいぞ! ねえちゃん!」

「正論だ!」

「面白そうだな!」

「勝負だ!」

「どんなスポーツをするんだ?」


私は群衆の方を見てニヤリと笑った。


「私が考案した『セブンズ』というスポーツの試合です! 血沸き肉躍るスポーツです! 試合が終わった後には、全員の感情が高ぶって全身に活力がみなぎるような、そんな素晴らしい競技です!」


セブンズとは前世の七人制ラグビーのことだ。


さすがに前世のスポーツなんて言えないのでそこは誤魔化したが、ガッツポーズをしながら叫ぶと、群衆からやんややんやと大きな歓声があがった。


「おい……お前が考案したスポーツだったら、お前たちに有利だろう? 俺たちは全然ルールを知らないし……」


ラルフの懸念はもっともだ。


「私たちのチームも誰もルールを知らないわ。だから、あなたたちのチームも私たちと一緒にトレーニングするのよ! その時に全員にルールを教えるわ。うん! 三ヶ月もトレーニングすれば良い試合になると思う」


「……みんなで……一緒に?」


ヒゲのラルフはもう完全に何かを諦めたようだった。ポニテのトーマスも戦意喪失している。


「そうよ! 一つのチームに七人の選手が必要だから、そちらのチームのメンバーを決めてね。両方のチームが明日から一緒に毎朝トレーニングを行います! 動きやすい服装で領主館に来てね。朝6時集合だから! 時間厳守よ!」


テキパキと話を進めると、ラルフとトーマスは何も言わずにただ頷いた。


「みんな! 三ヶ月後に私たちは試合をします! 良かったら試合を見にきてね!」


群衆に向かって大きく手を振りながら叫ぶと、どよめきと共に口笛やら拍手やら……とにかく大きな歓声が降ってきた。

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