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新領地で喧嘩しました

*本日三回目の更新です!読んで頂いてありがとうございます(*^-^*)。

新領地には領主が滞在するための領主館があり、私たちはそこに住むことになった。


しかし、その館は前領主スチュワート公爵の悪趣味の塊だった。


ゴテゴテと趣味の悪い装飾品が無秩序に飾られている。


うん。まず、前領主からの決別が必要だ。


私は業者を呼んで、館にある美術品や装飾品を全て売り払った。


予想外にまとまった金額になったぞ。


よし! 戦の軍資金ができた。


そして、地元で雇用された領主館の使用人と一緒に、チーム全員で掃除を開始する。


「あの、公爵夫人自ら先頭に立って掃除していただくなんて……」


ひたすら恐縮する使用人たち。


「大丈夫よ! 私たち、みんな慣れてるから!」


私がカラカラと笑うと侍女のエマがみんなを安心させるように微笑んだ。


「皆さん、大丈夫ですよ。ミラ様はこういう方ですので」


みんなの顔が安堵に緩む。


領主館の使用人は、リアムとテオが特に力を入れて信用できる人間を選んだそうだ。


テオから、館に住み込んで働く人間は全員信用できるから大丈夫だと太鼓判を押されたので私も安心している。


事務官トリオは私がすること全てに慄いているようだったが、素直に指示に従って掃除をしてくれた。


エリートの文官なのに『なんでこんなことをしなくちゃいけないんですか?!』などと言わないのはエライ!


基本、みんな素直な子たちなんだよな。こんなイイ子たちがバカにされたなんて許せない。


私の中の母性本能が燃えた。


絶対にこの子たちを守ってみせる!


領主館が綺麗になり、厨房も整った。


厨房にはジュリーという若い女の子の料理人が一人いるだけだったが、彼女はとても料理が上手い。働き者だし、やはり良い人材を選んでいると感心した。


ジュリーは少し人見知りすると言っていたが、打ち解けるととても仲良くなれた。


私が料理のアイデアを伝えると、真剣にノートに書き留めている。健気だ。


一緒に料理を作るのも楽しい。


妹がいたらこんな感じなのかなぁ。


他の使用人たちとも親しくなり、食料の納入業者とも気軽に話ができるようになった。


最初は公爵夫人が来ると聞いて身構えていたらしいが、私が驚くほど庶民的だったので、みんな安心したと言ってくれた。


領主館での生活が落ち着いたので、私はまず決裁が必要な書類仕事に集中することにした。


***


そんな中、再びデモが起こるという噂を聞いた。


厨房でジュリーと一緒に料理している時に、パウロがその噂を知らせてくれた。


ジュリーは眉をひそめながら泡だて器で卵をかき混ぜている。今夜のメニューはキッシュだ。


「あいつらはバカですよ。以前の領主だった頃は、女の私がちゃんとした料理人として雇ってもらえるはずなかった。新領主様のおかげで女でもちゃんとお給料がもらえるまともな仕事に就けるようになったんです。そんなことも分からない。大バカ者の集まりです。ミラ様が気にされることありません」


心を開いてくれたジュリーは結構手厳しい。


「うん。でもね。彼らも多くの領民の気持ちを代弁しているのよね。何か平和的な解決がないかどうか、デモを実際に見に行ってみるわ」


「ダメです! 危険です! ミラ様に何かあったら……」


心配、と全面に書いてあるような顔で私を見つめるジュリー。


ああ、なんて可愛いんだろう。


「私は大丈夫よ! それに、テッドもリカルドもすごく強いの。多分パウロも強いんじゃないかと思うわ!」


「それはそうかもしれませんけど……。デモを扇動しているのはラルフとトーマスっていう二人なんです。単純で悪い奴じゃないんですけど……とにかくバカの何とやらで力だけは強いんですよ」


ジュリーが溜息をついた。


「そのラルフとトーマスは何の仕事をしているの?」


「あの二人の家は農家で、大麦を作っています。でも、最近は家の手伝いもせずにデモだの独立だの……バカみたいに騒いでいて。大麦なんて育てても金にならないとかそんなことばっかり。何より、新しい領主様の素晴らしさを分かってもらえないのが悔しいです!」


ジュリーの大きな瞳に大粒の涙が溜まっている。


私はそっと指でその涙を拭った。


「あ、ごめんなさい。ミラ様にそんな……」


ジュリーが顔を真っ赤にして恥ずかしそうに悶える。


「大丈夫。私、結構たくましいし、全力で頑張るから!」


力強くガッツポーズを作ってみせると、ジュリーは「そうですか……?」と不安そうに呟いた。


**


エマには危ないから残っていて欲しいと頼んだが、彼女は頑なに首を縦に振らない。


「ミラ様が行くのでしたら、私もついていきます!」


結局チーム全員でデモの現場に向かうことになった。


新領地の中心の町はアスコットと呼ばれ、領主館もその郊外に位置している。


アスコットの中心部でデモが行われると聞いて、私たちは準備万端整えて現場に向かった。


アスコットの中心には教会があり、その前が大きな広場になっている。


休日にはマーケットが開かれるであろう広場は、今日は多くの人でひしめき合っている。全体的に男性が多い。女性の数はまばらだ。


その中心に二人のゴツイ男がいて大声で群衆に向かって呼びかけている。


「貴族を追い出せ!」


オー!


「税金なんて払ってたまるか!」


オー!


「搾取されるな!」


オー!


「ウィンザー公爵を追い出せ!」


オー!


非常に意気軒昂だ。


はぁ、と内心溜息が出る。


このエネルギーを仕事に向けたら、どれだけ多くの麦が生産できるだろう。


でも、麦なんて作ってもお金にならないっていう不満があるのか。


先ほどのジュリーの言葉を思い出した。


前世日本では麦には無限のポテンシャルがあった。


麦→小麦粉→パン、麺、うどん、お好み焼き、たこ焼き、もんじゃ焼き、グラタン、ケーキ……


更には


麦→麦芽→ビール


というように、生活に欠かせない原料として麦の存在感は大きかった。


ん? ビール?


何かが頭に閃きかけた時、後ろから「ミラ様、お気をつけて」とエマに耳打ちされて、ハッと我に返った。


気がつくと私たちは群衆の注目を集めていたらしい。


「おい!!! あそこに新領主の無能な代理人がいるぞ!!!」


大声で指さした先にはトビー、アーサー、ハリーが青ざめた顔で立っていた。


群衆が彼らを嘲笑う。


悲痛な表情を浮かべる三人を見て、余程の辛い目に遭ったんだろうと胸が痛くなった。


うちの大事な子たちに何をしてくれちゃってんの!?


私は猛烈に腹が立った。


「ふざけるな! 誰が無能だって!? 彼らはね、とっても優秀な事務官なのよ! あなたたちのために一生懸命働いたのに、バカにするなんて! 頑張ってるのをバカにされたらどう思うかって想像力もないのね! 最低だわ!!!」


体育会出身者の自慢の大声に、魔法の力を多少加えて更に音量を拡声する。


私の声を聞いて群衆はシンと静まりかえった。


中心にいた二人の人物が私に向かって歩いてくる。


「おい! お前はなんだ? 女のくせにエラそうに!」


「私はね、『女のくせに』っていう言葉が大嫌いなの。あなた達の前領主のスチュワート公爵の口癖だったわ。さすが領民だけあって、あなた達はスチュワート公爵そっくりね!」


再度、拡声して叫んだ。


群衆は更にシンとなり、互いに顔を見合わせている。二人の男の顔が怒りに震えた。


「俺たちは、あんな男とは違う!」


「どこが違うのよ! 女のくせにっていう奴は全員同じよ! 女だからってバカにすんな!」


「何を!」


真っ赤な顔で飛びかかってきた男を、テッドが取り押さえようとする前に思いっきり蹴り飛ばすと、そいつは10メートル以上吹っ飛んで地面に叩きつけられた。


「……お前……ざけんな……」


口を拭いながら立ち上がる男。


すかさず私の前にテッド、リカルド、パウロが壁を作った。


三人の威嚇は凄まじい。威圧感だけで彼らがどれだけ強いのかを肌で感じられる。


彼らの殺気があまりに激しくて、その場に居た群衆がざわついた。


「お前ら……何者なんだ?」


吹っ飛ばされなかったもう一人の男が呆然と呟いた。

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