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新しい騎士が入団しました

*ミラ視点に戻ります。



今日は騎士団の入団テストだ!


私は朝からやる気満々でベッドから飛び起きた。


リアムは私が入団テストを行うことが心配らしい。


「……若い男なんて下心の塊だからな。脳の100%が疚しい考えでできていると言っても過言ではない。アルベールがいるから滅多なことはしないだろうが、どうか気をつけて。決して、決して不用意に男に近づかないように」


彼は真顔で何度も繰り返した。


「大丈夫! 絶対に入団テストに来た男性を性的な目で見ることはないから安心して!」


胸を張って堂々と告げる。


「いや……そうじゃなくて……」


彼は私の背中に腕を回して強く抱きしめた。


「ほら、簡単に捕まえられる。油断してるとこんな風に他の男に抱きしめられたりするかもしれない。そうならないように気をつけて欲しいと言ってるんだ。いいね?」


「でも、リアムには捕まえられたいから簡単に抱きしめられるけど、他の男性にはそんなやすやすと捕まえられたりしないよ」


もっとも、リアム以外の男性に捕まえられそうになった経験はないけどさっ!


リアムは少し安心した様子で、私のおでこにチュッとキスをするとようやく執務室に向かっていった。


私は動きやすい服装で騎士団の演習場に向かう。


演習場に着くと、騎士団が整列して一糸乱れぬ動きで私に挨拶をした。流れるような動作が美しい。


今日は全員が正式な騎士服を着用している。入団希望者へのアピールだろう。


みんなキリッとして凛々しいな。ウィンザー公爵領の騎士団を心から誇りに思った。


団長のアルベールが私に向かって進み出る。


「ミラ様、お忙しいところをありがとうございます。入団希望者はあちらで待っております」


彼の指さす方向を見ると、およそ100人程度のガタイの良い男どもが集まっていた。結構荒々しそうなのも混じってるな。


面白い!


私は彼らに向かって歩き始めた。背後に一糸乱れぬ動きの騎士団がザッザッと続く。相当迫力あると思うよ。ギャングを引き連れる総長みたいだ。へへ。


背筋を伸ばして堂々と入団希望者に近づいていく。


彼らの前でピタッと足を止めると、背後で騎士団が一斉に踵を合わせる音が聞こえた。息がピッタリ合っていて気持ちいい。


「皆さん、おはようございます。本日はウィンザー騎士団の入団テストを行います。私はウィンザー公爵夫人です。ウィンザー公爵より騎士選抜を任されています!」


凛と大声を出した。


入団希望者は全員真剣な顔つきで私の話に耳を傾ける。さすが騎士希望だけあってふざけた態度の人はいない。


しかし、私の次の台詞を聞くとバカにしたように嗤った者が結構いた。


「第一試験は体力テストです。我が公爵領の騎士になるためには最低でも私より早く走れること、私より長く走れることが条件となります!」


それを聞いて顔を見合わせてせせら笑うもの。余裕の笑みを浮かべるもの。それでも真剣な顔を崩さないもの。反応は様々だった。


私は女だし、それでバカにする人がいるだろうなとは思っていたが、背後に控える騎士達から殺気が立ち昇るのを感じた。


「……ミラ様をバカにしやがって」

「舐めてると痛い目みるぞ……」


不穏な呟きも聞こえてくる。


ま、取りあえずやってみよう!


スタート地点に候補者が一直線上に並び、200メートルほど先にゴールのテープを用意してもらった。


何回も走るのは効率が悪いので、全員一斉に走る。明らかに私より遅くゴールした者は全員振り落とされることになる。


それを説明しても、みんな『よゆーだぜ!』という表情だ。


スタート地点で準備体操をしていると舐めた態度で近づいてくる候補者がいた。


「ハンデは必要ないんすか~? 全員第一関門突破しちゃってもいいってことすかね~」


騎士たちが気色ばむが、彼らを目で制して穏やかな微笑みを浮かべた。


「そうね。全員が体力テストに合格してもらえたら嬉しいわ」

「ひゃ~、ラッキー!楽勝じゃ~ん」


男に対し若干の殺意が湧き、心の中で『絶対に負かす!』と誓う。


「いいか! ミラ様が走るのを邪魔したり、ミラ様に触れたりしたらその時点で失格だ。俺はちゃんと見ているからな! ミラ様に何かあったら殺す!」


アルベールが怒鳴りつけると候補者の間で緊張が走ったが、誰も私に負けるとは思っていないようだ。


私はスタート地点で入団希望者から少し離れたところにスタンバイした。地面に線が引いてあるので、その線に爪先を合わせる。


多くの希望者たちはニヤニヤしながらダラダラとスタート地点に並んだ。


緊張感も気合も足りないな。残念だ。でも、中には真剣に走る構えを見せている者もいる。


そして、アルベールがスタートの合図を出した瞬間、私は飛び出した。


風を切って走るのは最高に気持ちいい!


「……っ、おい! は、はや……」

「まさか!?」


焦る声が背後から聞こえた。へへん!


私は前世から俊足で、ラグビーではウィングという一番足の速さが求められるポジションについていたんだ。


風に乗りゴールに飛び込んだ時には、大多数の男どもは私の背後にいた。


彼らは信じられないという顔つきで次々にゴールに入ってくる。


結局私より早くゴールした者はたった20名ほどだった。


「嘘だ!? なんだアレ!? なんであんなに速いんだ!? インチキに決まってる!魔法でも使ったんだろう!」


スタート前に私をバカにした希望者が大声で喚きだした。


騎士団の中でも荒事が得意な強面の騎士達が、そいつを威嚇するように取り囲む。


「……いや……だって……まさか……女が……あんなに速いわけない……」


男は体を縮こませて小さな声で弁解した。


「ミラ様の脚力はその辺の男よりも遥かに優れている。長距離走もすごいぞ。並みの男では持久力でも敵わない! ミラ様をお守りする騎士団の男どもは少なくともミラ様よりも早く走れて持久力がある者でないと意味がないんだ!」


アルベールが一喝すると、多くの希望者の顔から血の気が失せたようだった。


不合格になった者たちはうなだれてその場から去っていく。


私をバカにした発言をした者は去り際に、深くお辞儀をして謝罪した。


「生意気な口をきいて、誠に申し訳ありませんでした。あんなに足が速い公爵夫人がいるとは信じられませんでした」


半べそをかいている姿を見て、ゴツイ騎士達が余程怖かったんだろうとちょっと可哀想になる。


「ミラ様、既に20名ほどに絞りこみましたが、持久走もしますか? 10名ほどは入団させたいので、これ以上振るい落としてしまうと……」


アルベールの言葉は尤もだ。


「そうね。持久走は省いて、この後に剣技の試験で構わないと思う。でも、残った人達の筋肉をチェックさせてもらっていい? 筋肉のつき方で大体の鍛え具合がわかるから」


私は残った20名ほどの希望者の体格を一人一人チェックしていった。


さすがに彼らの中に私をバカにするような雰囲気を出すものはいない。


ただ、やたらと目立つ長髪のプラチナブロンドの前に来た時に軽く声をかけられた。


「ねぇ、なんで公爵夫人があんなに足速いの?」


気安いな~。若いからかな。


「あなたは幾つなの?」

「俺? 18歳になったばかり」

「若いわね~。でも、言葉遣いには気をつけた方がいいよ。私、これでも公爵夫人だから」

「言葉遣いで落とされる?」

「いや、そんなことはしないけど。騎士は貴族に接する機会が多いから、礼儀作法は結構厳しいよ。面接の時には気をつけて」

「へ~い」


うん。このプラチナブロンドは質の良いしなやかな筋肉がついてる。ちゃんと地道に鍛えた人の筋肉だ。


言葉遣いは軽そうだけど、実は真面目な性格なのかもしれない。


筋肉はごまかせないからね!


私は全員が次の剣技のテストに進むことに同意した。


なかなか良い人材が揃っているようで期待できる。


剣技の試験で更に振るいにかけられ、最終面接まで残ったのは総勢10名だった。


私はアルベールと一緒に面接に臨んだ。


全員が経歴書や紹介状も提出しているので、私たちは書類を見ながら面接を進める。


よしよし。みんな真面目で礼儀正しいぞ。


最後に面接に臨んだのが派手なプラチナブロンドだった。


「リカルド・ジョンソンと申します。本日は宜しくお願いします!」


ハキハキと答える様子は、私に絡んできた時とはエライ違いの好青年ぶりだ。


アルベールと私の質問にも素早く的確に答える。頭の回転も速そうだ。


王都の魔法学院を卒業したばかりらしく、学院長からも素晴らしい推薦状が提出されていた。すごいな。大絶賛だ。


剣術だけでなく学業成績もトップクラスで、品行方正。模範となるような生徒だったらしい。


やっぱり筋肉の言ったとおりだ。真面目な性格なんだろう。


最終選考まで残った10名は全員騎士として採用された。

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