ミシェル ~ 狐とタヌキのお茶会
*不愉快な人間が登場します。それに応じてミシェルの脳内の言葉遣いが少し荒れます。
*なかなかストーリーが進まず、すみません<m(__)m>。あともう少しでミラが本格的に始動します。長い目で見て頂けると大変有難いです(*^-^*)。
*ミシェル視点です。
性格の悪い人間と気が合う人間は、やっぱり性格が悪い。
これは真理だ。
そう思いながら私は熱い紅茶を上品にすすった。
本日私とケントは、前王妃、つまりケントの母親、つまり私の姑にお茶に誘われた。
姑の姪であるアレクサンドラ・アバークロンビーも一緒にお茶を飲んでいる。
アレクサンドラの父親であるアバークロンビー侯爵は、姑の兄にあたる。
叔母・姪というのは仲良くなりやすいというが、この二人の場合は性格の悪さが同等で、なおかつ利害が一致しているためになおさら意気投合しているように思えた。
アレクサンドラの容姿は美しい。妖艶な30代ってとこかしらね?
私にとって姑に当たる前王妃は、はっきり言って性格が悪い。そして、その姪として王宮に自由に出入りしているこの女もやっぱり傲慢で性格が悪い。
姑は気が強くて夫である前国王のことも尻に敷いているという評判だ。彼らが一緒にいるところはほとんど見かけないし、夫婦仲は決して良いとは言えない。
ケントは少し気が弱くて優しい父親を慕っているが、我儘で自分勝手な母親には批判的だ。
前王妃が唯一頭の上がらない人物は、彼女の姑である太皇太后、つまり先々王の正妃だそうだが、彼女は離宮に引きこもっていて滅多に公の場に姿を現さない。
太皇太后は元々王族であったが民衆への慈愛に溢れ、夫の国王を支えて国の隆盛に力を尽くしたらしい。
ケントは幼い頃に会ったきりだというが、記憶では優しい祖母だったようだ。
前王妃は目の上のたんこぶがいない状態で、我が物顔で王宮を闊歩している。
「ねぇ、ミシェル、あなたはとても恵まれているわ。私は若い人に理解があるし、付き合いやすいでしょう? 私の姑なんて、古臭くて細かい行儀作法までうるさくてね。結婚したばかりの頃はさんざん泣かされたわ。あなたはいいわねぇ。私も私のような姑が欲しかったわぁ」
「……さようでございますね。私はとても恵まれております」
微笑みながら答えると、彼女は満足そうにアレクサンドラに視線を向けた。
「その通りよ。そして、私が最も信頼するアレクサンドラを魔法学院の学院長に推薦してあげたんだから、感謝してちょうだい。彼女はとても優秀で、まさにこの国の宝だわ!」
姑の言葉に『へぇ、そうですか』という感想しか浮かばない。
姑は魔法学院の理事長をしている。
身内を学院長にするなんて古臭い縁故採用以外の何者でもないと思うが。
「まぁ、なんて素晴らしいのでしょう。いつか魔法の秘訣をご教示頂く機会がありましたら嬉しいですわ」
内心を隠してニッコリ微笑んだ。
これくらいのことができないと狐とタヌキの化かし合いの王宮では生き残れない。
ケントも胸の内では何を考えているのか分からないが、爽やかキラキラ王子様スマイルを浮かべる。
「そうですね。学院長の益々のご活躍を祈っておりますよ」
如才なくお世辞を言う。
ケントと私はこの二人を平和裏に退陣させる機会を密かに伺っているが、なかなか尻尾を出さない。
アレクサンドラは得意気に笑った。
「ええまぁ。私ほどの魔術師は他にはいませんからね。学院や国王陛下には丁重に遇して頂かないと。ほほほ」
甲高い声が耳障りだ。
「私たちが卒業する直前にアレクサンドラ様が学院長に就任されたのですよね?」
私が話しかけると、アレクサンドラは鷹揚に頷いた。
「そうね。あなた達の年は優秀な卒業生が多いと前学院長が言っていたけど……はっきり言って私から見たらレベルが低かったわ」
ほう。そうきたか。目の前にいる現国王や現王妃の私もその年の卒業生なんですけどね!
「まぁ、ケント様は、多少見どころがあったけど、ミシェル様なんてバイオリンしか取り柄がなかったし……」
「そうねぇ、ミシェルからバイオリンを取ったら何も残らないわねぇ。取り柄はそれくらいですもの。ほほほ」
姑も一緒になって私を嗤う。
勝手に嗤え。くだらない。そんな言葉で私にダメージを与えられると思ったら大間違いだ。
こんな時には、穏やかに笑みを浮かべて頷くに限る。
「仰る通りですわ。いたらないところが多く大変申し訳ありません。私にはバイオリンしか取り柄がありませんもの。ほほほ~」
恥ずかしそうに頭を下げておけば彼女らは満足する。
ケントが申し訳なさそうに一瞬視線を寄こした。
大丈夫よ。慣れてるから、と目配せする。
「それにしても一番酷かったのは、あのミラ・スチュワートとかいう生徒でね」
アレクサンドラの言葉に私はビクッと肩を揺らした。
姑はそんなことに気づかず調子づいてミラのことをこき下ろし始めた。
「ああ、スチュワート公爵も卑しい人間だったけど、娘はそれ以上ね。公爵家が没落したのはあの娘のせいだと思うわ。平民になり下がった癖にウィンザー公爵夫人ですって!? まぁったく世の中愚か者ばかりでうんざりですよ。ああ、ケントがあんな娘と結婚しなくて本当に良かったわ」
……あ?
ミラのことを貶す資格がお前にあんのか?
無駄に金遣いばっか荒くて、息子にどんな苦労かけてるか分かってんのかオラ!
お気に入りの人間だからって無許可で王宮に招き入れて、セキュリティって言葉、知ってんのか?
どっちが愚か者だ!
あんたにミラの何が分かるんだよ!
脳内に荒ぶる言葉が溢れ、その一部が出そうになった。
「……お言葉ですが、母上。ミラは大変な努力家で成績優秀、魔力も非常に高かったのですよ」
ケントがすかさず言葉を挟んでくれたおかげで、ようやく自分を抑えて笑顔を浮かべることができた。
するとアレクサンドラが突然大声で「いいえ!」と叫んだ。
なんだなんだ?
彼女の顔がいきなり真っ赤に染まり、拳を震わせながらブツブツと呟きだした。
「そんなのあの女が箔をつけるために無理矢理捏造したに決まってんじゃない。あの女はメッキの塊よ。何もできない癖にエラそうにして、挙句の果てはリアム・ウィンザーの妻に……リアムの妻なんて許せないわ……許せない……リアムの妻は私……わたし」
アレクサンドラの尋常ではない形相に姑が眉をひそめた。
「アレクサンドラ? どうしたの?」
「実は私……リアム・ウィンザー公爵と恋仲だったんです」
突然アレクサンドラが爆弾発言をかました。
なんですと?!
それを聞いた私はカチーンと固まった。ケントも汗をかいているが、彼はそんなに驚いてはいない。
まさか……と思うけど、昔付き合ってたとかそういうこと?
女の趣味悪すぎ……と思ったが、そうではなさそうだ。
アレクサンドラは辻褄が合わないリアムとの悲恋物語をぶちまけた。
リアムと付き合っていたとかそういう話ではない。
一貫して一方的な執着だ。こわ……。
「……私が転んでしまった時、リアムが手を差し伸べてくれました。彼の手を握った瞬間、私は感じました。これが『愛』なのだと……」
「……あの時のリアムの視線は、激しく私の愛を乞うものだったのです」
「彼の叙爵式でも視線が合った瞬間に私たちは理解したのです。二人は結ばれる運命なのだと……。彼の眼差しから深い愛情を感じました」
他にも、辺境伯城へ忍び込もうとして捕まりそうになったとか、彼に何百通も手紙を書いたとか、恐ろしい話が満載で私は正直鳥肌が立った。
ケントの顔色も良くない。
姑はそんな怪談話に涙ぐみ、ハンカチで目頭を押さえている。マジか?!
「ああ、なんて悲しい運命なのでしょう。あなたとリアムは結ばれるべき定めよ。きっとリアムもそう望んでいるはずだわ。なんとかあの平民の女を追い出せば……」
姑がまた余計なことを言いだした。
「い、いや、リアムはミラを心から愛しているので……」
ケントの言葉をアレクサンドラは強く遮った。
「いいえ! そんなはずありませんわ! だって、リアムが真に愛しているのは私なのですから!」
「えっと、卒業後にリアムと直接会う機会はそんなになかったですよね……?」
ケントの問いをアレクサンドラはフンっと鼻でせせら笑う。
「会う回数なんて問題ではありません。彼は私に向ける視線の中にも愛情を忍ばせていました。私は隠された愛のメッセージを受け取っていたのです!」
「……リアム様は性格の良い女性がお好きと伺っていますし、アレクサンドラ様ではちょっと無理ではないかと……」
思わず本音が出てしまった。
ケントがゴホゴホと大きな咳を何度もしながら、私の言葉を誤魔化した。
アレクサンドラはそんなことにおかまいなしで暴走を続ける。
「確かに私たちの愛が試された時期がありました。リアムが戦で怪我をしたせいで、しばらく距離を置くことになったのです。しかし、叙爵式の時の彼の美しい姿を見て、私は分かったのです。私たちは愛の試練を乗り越えたことを!」
堂々と宣言するアレクサンドラに姑は拍手を送った。すごいなおい。
「アレクサンドラ、頑張ってね。私は応援するわ。あの毒婦を退治するためなら協力するわ。リアムとあなたは結ばれる運命なのよ!」
興奮した口調で話す姑に私は心底背筋がゾッとした。
「大丈夫ですわ! 既に手は打ってありますの。ミラとかいう小娘はいずれ彼の前から消えるでしょう。私はリアムを解放してあげるの。そして、リアムは私を迎えにくる。私たちは永遠の愛を誓うのよ」
恍惚とした表情のアレクサンドラに、私とケントは顔を見合わせて小さく溜息をついた。
*****
「アレ、なに?」
ケントと二人きりになってから、私は顔をしかめて文句を言った。
「すまない。母は昔からああいう人だから……」
「分かってる。そうじゃなくて、アレクサンドラが言ってたじゃない。『手を打った』とかなんとか……ミラになにかあったらどうするの?」
ケントはニッと嬉しそうに笑う。
「お前はさ、自分のことは何を言われても平気なのに、ミラのことを悪く言われるとすげー怒るよな?」
そう言いながら私の頬を指で撫でた。
「な、なによ……そんなことないわよ。別にミラのことなんて……ただ……理不尽じゃない? ミラは何も悪いことしてないのに」
「俺、お前のそういうところ好きだ」
いきなり顔が赤くなるようなことを言うケント。
「そ、そんなことより、ミラのことが心配じゃないの?」
「分かってる。リアムにはちゃんと知らせるよ。アレクサンドラはリアムが戦で怪我を負ってからはリアムへの関心を失っていたんだけどな……。やっぱり叙爵式でのあいつは色男すぎた。叙爵式でリアムに一目惚れした令嬢も多いらしい。本当に自覚して自衛して欲しいんだが……」
リアムがミラを見る眼差しも愛情に満ち満ちていた。二人の絆は問題ないだろうが、ミラに危害を加えるようなことがあっては大変だ。
どうかミラが無事でありますように。
私は窓から星空を眺めて、心から祈った。
*秘密を探るのが得意なアレクサンドラは色々な貴族のゴシップネタを握り、前王妃が王宮で力を得るのを助けたので気に入られています。基本小物なのでミラが返り討ちにします。どうかご安心下さい。
*読んで頂いて本当にありがとうございます!また、ブクマ・評価下さった優しい読者の皆様には何と御礼を言っていいか分からないくらいです<m(__)m>。誤字脱字報告もありがとうございます!いつも感謝しております!




