【番外編SS】三日夜の餅
*リアム視点です。初夜から三日目の朝の出来事。新婚のいちゃいちゃです(#^^#)
「あら? 旦那様、こんな朝早くにどうなさったの? ミラ様は?」
俺が厨房に顔を出すと、料理長のエリオットはキャベツの高速千切りを止めることなく視線だけをこちらに向けた。
「あー、ミラのために朝食を作りたいんだが、俺でもできそうな料理はあるか?」
「え!? 旦那様が!?」
エリオットは驚愕の表情で今度こそ包丁を持つ手を止めた。あまりの驚きぶりに何だか腹が立つ。
「……以前、ミラから聞いたことがあるんだ。彼女が読んだ本の中に、結婚して三日目の朝に夫婦でなんかこう穀物を砕いてパテ状にしたものを食べる習慣があるって」
「へぇ、初耳ですわ」
「俺も知らない。だが、ミラは憧れている様子だった」
ミラの前世のことは俺たちだけの秘密だ。だから慎重に説明するが、俺自身も完全に理解しているわけではないから難しい。
確かミラは『三日夜の餅』と言っていた。餅という食べ物は知らないがコメという穀物を蒸して潰して作るパンケーキのようなものだという。
曖昧な話で申し訳ないと思いつつ説明するとエリオットは顎に指を当てて考えこんだ。
「ジャガイモのガレットとかどうでしょう?」
「どういう料理だ?」
「千切りにしたジャガイモを丸く平らにしてカリッと焼いたものですわ」
「俺に……千切りは無理だっ」
情けないがろくに包丁も握ったことがない。
「まぁ、旦那様ならそうですわねぇ。ではオーソドックスに普通のパンケーキを焼いたらどうです?」
「小さいパンケーキにはできるか? 一口サイズの」
『三日夜の餅』は一口で食べられる小さなものだとミラは言っていた。
「もちろんですわ。では旦那様、さっそく小麦粉と卵と……」
エリオットに指導されながら、俺は必死に材料を計り、泡だて器で混ぜていく。力任せで不器用なのであちらこちらに飛び散ったが、どうにか滑らかな生地にすることができた。
「これでいいですわ。よく頑張りましたわね!」
厨房の惨状に若干顔が引きつっているような気がしないでもないが、エリオットから合格点が出たのでホッと息を吐いた。
「では、これから焼いていきます」
焼く作業がまた難しい。フライパンの上にスプーンで小さく生地を落としていくのだが、大きさが揃わなくて形も綺麗な円にならない。もたもたしていると、焼き加減にムラが出るとエリオットに叱られてしまう。
途中からエリオットも手伝ってくれたおかげで、どうにかこうにかふわふわの小さなパンケーキが誕生した。
「料理とは難しいものだな。エリオットやミラはやはりすごい」
「そりゃそうですわよ! プロですから!」
エリオットが誇らしげに胸を張るのは当然だ。長年の修業があってこそ料理の技術も磨かれるのだろう。
「飾りつけはバナナとチョコレートソースでいいですか?」
「そうだな。ミラは喜びそうだ」
最後に粉砂糖をふるいながらかけると、我ながら可愛くて美味しそうなパンケーキの出来上がりだ。
「さぁ、ミラ様に持っていってあげてください。お茶の用意もしましたから」
「ありがとう、エリオット。助かった」
ティーワゴンを押しながら気持ちが高揚する。
ミラは喜んでくれるだろうか?
彼女の菫色の瞳は輝くだろうか?
とんとん
一応ノックしてから寝室の扉を開けると、まだミラは寝台で眠っているようだ。
(夕べも無理させてしまったからな……。寝かせておいてあげよう)
若干の罪悪感を覚えつつ、音を立てないようにティーワゴンをテーブルに近づける。
「ん……。リアム?」
「あ、ごめん。起こしてしまったか?」
「ううん、目は覚めてたの。気持ちよくてゴロゴロしていただけ」
「そうか、おはよう。ミラ」
愛おしくて堪らない新妻だ。柔らかい頬を指でなぞると紫水晶のような瞳が俺を映した。
「おはよう、リアム」
ぐぅ
「あ、ごめんなさい! 恥ずかしい……。なんだかいい匂いがして」
お腹が鳴って顔を赤くするミラも可愛くて仕方がない。もう一度寝台で抱きしめたくなる衝動を必死に抑えた。
「ミラ、朝食を用意したんだ。俺の料理だから味の保証はできないが、エリオットからは合格点をもらえたよ。良かったら一緒に食べよう」
「え⁉ リアムが作ってくれたの!?」
ミラの大きな瞳がまん丸くなる。カワイイ。
「ああ、君のために用意した。三日夜の餅、というんだろう?」
「え⁉ あんな話を覚えていてくれたの?」
「君の話は何でも忘れないよ」
「ありがとう、リアム。嬉しい。大好き」
菫色の瞳が潤った光を帯びる。
(くっ、今すぐ抱きしめたい……)
「いいや、俺もこれからもっと料理を勉強するよ」
「そんないいのに。私があなたにしてあげることが少なくなっちゃうわ」
「君はそこにいてくれるだけでいいんだよ」
「あまり私を甘やかさないで」
「俺は甘やかしたくて堪らないんだけど」
こんな何気ないやり取りが楽しい。
彼女が起き上がるのに手を貸しながら幸せを嚙みしめる。
「わぁ、美味しそう! すごいわ、リアム」
「気に入ったなら、またいつでも作るから」
「ふふ」
ちゅっ
ミラが俺の頬に口づけをした。思わず頬に手を当てると、彼女は俺から顔を背けるようにしてそそくさとテーブルにつく。アッシュブロンドの髪の隙間から覗く耳が真っ赤に染まっていた。
(くぅっ、悶え死にさせる気かっ⁉)
「ミラ、愛してる」
耳元で囁きながら、背後から椅子ごと彼女を抱きしめると「ひぃっ」と小さな声が聞こえた。
(ああ、可愛いな)
「も、もう! リアムは自分の声が超絶セクシーだって自覚したほうがいいよ!」
「自覚してるから君に囁くんだよ」
悪戯っぽく笑いながら片目をつぶると、湯気が出そうなくらいミラの顔が赤くなった。




