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熱い日  作者: 村岡みのり
9/11

別の視点から~2~

 爆心地より、約十五キロ地点。私が学生時代を過ごした地。

 そこからでも爆弾が投下されたことを、当時の学生たちは目撃し、校舎の揺れを体感したそれは学生に限らず、ピカッ、と光りを確認し、爆音を聞いた者は多い。


 十五キロ離れた土地でも、爆弾の影響は及んだ。

 畑の野菜は割れ、病院に置かれていた薬瓶は落ちて割れた。


 学校では校舎が揺れ、机の下に多くの子どもがもぐった。さらには揺れた瞬間、床の板の合わせ目からホコリが立ち上がったことを、記憶されている方もいる。

 何事かは分からない。だけど逃げるため、子ども達は教室を飛び出し校庭に出た。

 教師からは、まだなにが起きたのか分からない中、『家に帰るように』と言われた学校がある。それほど大人から見ても、その一発の爆弾はこれまでの比ではないよう、感じたのだろう。


 遺された体験談を読んでいると、一つ、興味深い文章があった。

 それは教師から言われ、帰路についていた、当時学生だったある人の証言。


『帰宅の途中、アメリカ帰りの老人から「あの雲が流れてきて、それを吸ったら死ぬるんで(死んでしまう)」と言われた』という内容である。


 この老人が何者なのかは不明だが、アメリカに在住していたことがあるとのことなので、なにか原子爆弾について知っていたのかもしれない。つまりは当時、日本にも原子爆弾という武器について、知っていた人がいるということに繋がるのではないか。

 仮にそうだとすれば、この老人だけではないかもしれない。日本のどこかに同じ知識を有していた人が、いたのかもしれない。


 この老人が何者で、どこでどのように、どこまで危険性について知っていたのか。残念ながら、それ以上のことは他の証言が見つからないので、現時点では分からない。

 だが、私にとっては、まるで大きな発見をしたかのように、衝撃的な証言である。

 もちろん単純に、その爆弾がこれまでの比ではないと思い、想像からそう言った可能性もある。しかし、もしかしたら……。そんな考えが拭えない。そして、その危険な兵器を知っていたとすれば戦中、日本でどのように思いながら暮らしていたのか。想像するしかない。


 さて、学生だけでなく、田で草を取っていたら背中が熱くなった人もいる。

 十五キロ離れていても、それだけ影響があったのだから、爆心地に近いほど、どれだけの熱量を感じたのか。考えるだけで恐ろしい。


 また同地域でも爆風により障子が外れ、天井からはススやゴミが落ちてきたので、掃除をするはめにもなった家の証言も残されている。


 そして当時は現代と違い、妊娠中でも休むことは横着とされ許されなかった。身重のその人は松根の採取へと出かけ、光り爆音を聞いたので身を伏せた妊婦もいた。その人はしばらく恐ろしくて、目を開けられなかったと証言を遺されているので、かなりの爆音だったようだ。


 こうしてみると、多くの人が離れていても爆弾に気がついたように思えるが、中には投下され爆発した瞬間、なにも気がつかなかったと証言する人もいる。爆発音に慣れていたからなのか。爆音といいながら、人によりこうも異なるとは、不思議なものである。


 また他の爆心地より離れた学校では、教室のガラスが割れ、手や顔を切った学生がいた。

 同じく教師から『帰宅するように』と言われ、学校を出る。だが、かなり場は混乱していたのか、誰と帰ったのか覚えていないという人もいる。


 中には確かに複数人と帰っていたはずなのに、一人、また一人とどこかで別れ、気がつけば一人、もしくは二人にまで減っていたという証言もある。



 たった一発の爆弾。

 巨大な雲を目にし、混乱した人が行き交う場所もあれば、爆音がしても黙々と作業を続けた者もいる。

 雲の下でなにが起き、どんな目にあったのか。

 そして、放射能を浴びた人々がどうなるのか。


 これを完全に把握できていた人は、この時点では少ない。






□参考文献□

1995年8月6日発行「わたしたちの8月6日」(被爆体験記編集)



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