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熱い日  作者: 村岡みのり
6/11

その瞬間まで②

 私が学生時代を過ごしたのは、爆心地より約十五キロに位置する地域である。


 今回この作品を執筆するにあたり、今もその地域に住む知り合いを訪ね、体験談の手記をお借りした。

 その理由は祖母だけの視点ではなく、様々な視点を知らないと、当時について文章として書くことができないと考えたからだ。

 その体験談を読んでいると、ある一文が目に入った。



――――戦争中で非常時だったので夏休みもなく、六日もいつも通り学校へいきました。

(被爆体験集「わたしたちの8月6日」より、原文そのまま)



 これを読んだ瞬間、あっ、と思い出した。

 中沢啓治先生が描かれた、漫画「はだしのゲン」でも当日、主人公のゲンと姉が学校へ行く描写があったということを。


 作中でのゲンは解除サイレンが鳴った後、姉より先に家を出る。この差がゲンと姉の命を左右すると知らずに。

 そして小学校の敷地内に入る前、その学校に子どもが通っていたのだろうか、一人の女性に話しかけられる。会話の最中、ゲンは上空のB29に気がつく。

 直後、「なにか白いものがおちてくる……!」と言葉を吐く。そのなにかが原子爆弾であり、ゲンはその場で被爆した。




 この「はだしのゲン」を読んだ時、夏休みについてなにも思わなかった。ただゲンが学校へ向かい、そこで被爆したのか、としか思わなかった。

 だが改めて夏休みがなかったと言われると、気になりその通りだと思った。現代からすれば、八月六日はまさに夏休み真っ盛りの日ではないかと。それなのに学校へ通っていたのは、夏休みがなかったからなのかと納得した。


 ところが、である。別の著作物を読み、夏休みを楽しみに待っていたと捉えられる内容を見つけた。こちらの内容だと、夏休みは予定されていたと受け取れられる。では当時、実際夏休みがあったのかなかったのか。

 気になり調べた所、夏休みは地域によっては、あった、もしくは予定されていたのではないかと思われる。

 広島県に限定されるが、以下の資料文献があった。




――――この頃、夏休みは、八月十日から二十日までという戦時態勢をとっていたと言われる。

(『広島原爆戦災誌 第4巻』広島市役所/編集、広島市役所 1971より)


――――昭和二十年当時の夏休みは、八月十日から二十日までという戦時体制がとられており八月六日には、市内残留児童たちは授業を行ったり、動員作業に出勤したりしていた。

(『広島市学校教育史』広島市教育センター/編集、広島市教育センター 1990より)




 もちろん広島市内はこの期間、学校どころではなかっただろう。

 そして私が学生時代を過ごした地域には、被爆者が大勢避難し、学校が救護所となった。授業そのもの以前、『学校』として機能しなくなり、救護活動に追われたので、この地域は夏休みがなかったのかもしれない。




 六日の朝、原爆投下前、人々は日常を送っていた。

 ある人は学校へ、職場へ。またある人は家事を行い、病院へ向かうため歩き、ただ生きていた。


 そして、少しの差で爆心地近くでの被爆を免れた人もいる。

 例えば寝坊した人、例えば熱を出し寝こみ建物疎開へ行けられなかった人。

 逆にゲンの姉のように、たまたま出発が遅れたので倒壊した建物に体が挟まれ、生きながら火に焼かれ、命を落とした人もいる。




 約十五キロの地点にあった小学校。

 校内の窓際で、ある生徒が言った。それはゲンと同じ言葉。だけどそれはその学校だけでなく、他の場所でも放たれていた。



「なにかが落ちる」



 それまで空を見ていなかった者も、なにごとかと窓辺へ寄る。

 するとピカッ、と光り、ややあって……。



 ドーン‼



 耳を塞ぎたくなるほどの巨大な音がし、校舎が揺れた。






□参考文献□

著:中沢啓治「はだしのゲン」

(中央公論新社:ISBコード、ISBN4-12-203156-7)


1995年8月6日発行「わたしたちの8月6日」(被爆体験記編集)


語り:米澤鐡志、文:由井りょう子「ぼくは満員電車で原爆を浴びた」

(株式会社小学館:ISBコード、ISBN978-4-09-227166-1)



□資料問い合わせ先□

広島県立図書館様



□文字について□

『体制』と『態勢』については、原文通りであり、誤字ではありません。

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