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熱い日  作者: 村岡みのり
4/11

時代と青春

令和2年9月11日(金)

本文、変更箇所あり。







――――思い出せば、くるしくもあり又悲しい私の青春時代です。

(遺品ノートより、原文そのまま)




 ノートの書き出しはこのように始まる。

 そこから自分の両親。つまり私にとっての曽祖父母について記載があり、そこで祖母が若い頃に亡くなったと知った。(両名、記載がないため死因は不明。だが亡くなった年から原爆と無関係であることは確か)




――――四十年の記念日を迎えての思い出です。あの日の事は口には云えないきおくはありますが、いざ書いておこうかと思えば如何に書くべきか考えます。でも私のきおく通りに思いのまま書きます。

(遺品ノートより、原文そのまま)




 この文章からノートは1985年、昭和六十年に書かれたものと推測される。四十年の記念日に記されたノートの内容からは、当時の生活が透けて見える部分も感じるが、時々祖母の主観なのか否か、現代に生きる私には分からない点がある。

 さらに書いている中で話が前後するかもしれないと記されているが、実際その通りである。突然知らぬ人物が登場したり、時系列が飛んだり、内容を把握するのになかなか苦労している。


 ノートの内容から祖母は末っ子だと思ったが、親に尋ねると弟妹がいると言われた。

 弟妹については登場しておらず、被爆したのか、それとも疎開しており被爆を免れたのか、不明である。

 そう、ノートには全てが記載されている訳ではない。ただ『その時』、祖母は思うまま書きつづったのだろう。


 さてノートにはこのような記述がある。




――――娘で家にいて家事習い事の出来ない時代でした。

――――家にいる事の出来ない娘ざかりは会社に勤務しなければ知らない軍需工場に徴用されます。それで近所の工場に通っていました。

(遺品ノートより、原文そのまま)




 これは祖母の主観なのか、本当にそういう時代だったのか判断できなかった。

 しかし今作を執筆するに辺り、何冊か原爆に関する著書を読んでいるが、その中にある記述があった。



――――十八年からは、まだ結婚前で家事に従事していた若い娘も「徴用」されることになり、女子挺身(ていしん)隊として、いっせいに工場などに強制動員された。

(岩波書店発行:「新版1945年8月6日 著:伊東壮」より)



 短い文章だが、祖母の記述した内容と一致する。

 つまりその時代、結婚前の若い娘も、それより若い子どもたちさえ、強制的に業務へ従事させられていたのだ。



 そう『娘』に限られた話ではない。現代では守られる対象である『子ども』だって例外ではなかった。勤労奉仕と学校へ通う年数を短縮され、ろくに勉強の時間はなく働き、卒業すれば男は軍人となり戦場へ。女は空いた男手を埋めるため働く。

 現代と比べ驚く状況だが、当時はそういう時代だったようだ。



――――過ちは繰り返しません。



 それは原爆使用に限らず、穏やかな日常を壊すことも含まれていないだろうか。


 今年2020年は病気により、子どもはしばらくの間学校へ通えなかった。ステイホーム、テレワークにより家へこもり、窮屈、退屈、ストレスを感じる日々が続いた。今もマスク生活で息苦しさを感じる。『コロナ鬱』という言葉さえ出てくる。それでもリモートで会話したり、ネットで買い物したりできる自由はある。


 しかし当時は現代と違い、生き方さえ強制されていた。


 戦争と病気は違うと言われれば、そうだろう。だがどちらも生活だけではなく、命に影響が及ぶという意味では同じではないだろうか。特に未知の病気を前には、差がないように感じる。


 戦争という道を歩めば、子どもたちはどんな生活を送ることになるか。


 だからこそ戦後、多くの人は戦争のない時代を望んだのかもしれない。

 苦しくもない、悲しくもない。そんな青春時代を子ども達へ送らせるために。






引用文献

発行所:岩波書店

(岩波ジュニア新書156)

著:伊東壮

タイトル:新版1945年8月6日

(ISBNコード:4-00-500156-4)


今回、引用許可を下さった岩波書店様、本当にありがとうございます。

また伊東壮先生、尊敬の念に絶えません。

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