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熱い日  作者: 村岡みのり
10/11

らしくない行動

――――私はこれからどうしようと思い、防空壕に行き、自分の救急カバンとずきんをかぶり、事務所に行く。その時歩くのに物は倒れ、よけて歩く様でした。

(遺品ノートより)




 爆心地より十五キロ離れた地点でも、薬瓶が落ちて割れたりした。

 祖母が被爆した地点は、それよりもっと近い。それを考えると、より倒壊は激しかったのだろうと想像できないだろうか。




――――事務所に行きますと、社長さんはじめ、事務員さんは顔中血だらけでした。部屋の中はメチャクチャです。皆さんうろうろしておられたので、ここだけではないですよ。外も皆、この様でしたと私が言うと、社長さんが自分が大けがだから、何時もかかりつけの先生に早くいって来てくれと言われたので、私は、はい。と言いながら外に飛び出して、まずは家に帰りました。

(遺品ノートより)

注意:『自分が大けがなので、いつも利用している、かかりつけの医者を呼んでほしい』という意味だったと推測。以下、推測を元に筆する。




 この文章を読んだ時、もしや祖母は社長さん、かかりつけの医師を呼びに行かなかったのだろうか。そんな疑問を抱いた。

 人との約束を守らない。それは、祖母らしくないように感じたからだ。


 しかしすぐその己を否定する考えが浮かんだ。


 ひょっとすると、反故にするほど辺りの様子があまりに惨状で、家族の無事を確かめたかったのかもしれない。

 そうだとすれば、それを責めることができるだろうか。家族を優先させることが、罪だろうか、と。


 そんな状況に置かれたことがないので、この行動は許されるものなのか。私には判断できない。


 だけど自分が同じ立場に置かれたら?


 現代なら携帯電話があり、連絡手段はある。でもそれが使えなくて、家族の安否が分からなかったら? すぐ近くに家族のいる家があるのなら、電話が繋がるのを待つより、駆けつけ無事を確かめる方が早くないだろうか。


 人のお願いを反故にするのは、もちろんよろしくない。

 けれど、そういう人道に背く道を選ばなくてはならない。一発の爆弾が、それをもたらしたのではないだろうか。自分に精一杯で、他者を思いやる余裕をなくしたのは、きっと祖母だけではない。

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