基本属性と特殊属性
またもや説明回に……。本当は次のとで一つの話だったのですが、少々長くなりそうなので二つに区切りました。
「特殊属性魔術……!」
「ええ、無属性と基本属性以外にも、特殊属性に分類される二属性が存在しているの」
<魔術>の属性適正を見てもらったその日の夜――ソフィは、己の適正が一つも基本属性に当てはまるものがないことをオリヴィアに報告する。無属性の他にも何かできることはないのかと尋ねたところ、特殊属性に分類される二属性があることを知った。
まず基本属性とは、火、水、土、風の四大元素のことを指す。そして、基本属性とはことなる二属性が闇属性と聖属性だ。これが特殊属性と呼ばれているのは、希少性が高くて適正者が少ないことがあげられる。
「ダンおじさんが言わなかったってことは、その適正もないんだね」
「んーどうかしら。なんでも特殊属性は<鑑定>しても見えないのよ。基本属性とかと違って」
「え、そうなの? じゃあどうやって確かめるの?」
「どうやってやるのかしらね?」
オリヴィアは困り顔で首を傾ぐ。
「ねえねえ、聖属性と闇属性ってどんな魔術があるの?」
「そうねえ、闇属性は毒を作り出したり呪いをかけたりすると聞くわ」
「ひえ……」
ソフィーは恐ろしくなったのか顔を青くして頬を引き攣らせた。
「聖魔術は傷を癒したり、呪いを解いたりすることができる魔術が多いと聞くわ」
「わあ! 素敵っ、私もできるようになりたい!」
「あらあら」
「ねえねえ、どんな魔術がある? できるか確かめたい!」
「んー。特殊属性の魔術は下級魔術でも他の属性より随分難易度が高いと聞くわ。適正があってもすぐに使えるとは限らないらしいの」
「そうなんだ……」
同属性の魔術の中には発動の難易度によって効果の高いまたは低いものが存在する。難易度が低いものを下級魔術、それより少し高いものを中級魔術、そしてさらに高いものを上級魔術と呼ぶ。
特殊属性はどうやら基本属性の下級魔術よりも要求する物が多くて難易度がやや高いらしい。
「だからまずは無属性の魔術を極めるのはどうかしら?」
「誰にでもできるっていう、あの?」
「あら、無属性魔術を侮ってはいけないわ。あれはね、使いこなせればすっごーく便利なのよ」
「すっごーく便利……」
無属性魔術は補助系統が多い。分類としては、<身体強化>、<魔法効果強化>、<体力回復>、<魔力回復>、<防御>がある。その五つの分類を聞いたソフィーは驚いた。
「便利そう」
「でしょう?」
「ね、ね、例えばどんなのがある? 私覚えたい!」
「うふふ、では<フィジカルアップ>なんてどうかしら? 一時的に身体能力を向上させることができるわ」
「こーじょー?」
「少しの間力持ちになれるってこと。疲れにくくもなるしね」
「すごい!」
ソフィーはぴょんとベッドの上で飛び跳ねる。そんな彼女を大人しくするよう窘める。
(足の悪いお母さんをおんぶして、移動できるようになるってことだよね!)
オリヴィアは、少し前からうまく歩けなくなった。彼女の足首には、何かで切られたような痛々しい傷がある。腱を、切られたのだ。
「どうすれば覚えられる?」
「まずは正しく呪文を唱えましょう。これは、魔術を発動するための手順の一つなの」
「<フィジカルアップ>! ……何も起きない?」
教えられた通りに唱えたはずだが、体に力が湧いてくるなんてことはなく――
ソフィーははて、と首を傾いだ。
「唱えるだけではだめよ。言ったでしょう? 手順の一つって。まずすることは、己の体内をめぐる<魔力>を体の中心へ集めて練ることね」
「……どうやって?」
「そうね、目を閉じて体を楽にしてみて」
ソフィーはベッドの上に横になって目を閉じた。
「そしてね、自分の内側に意識を集中させるの」
「しゅーちゅー」
「そうするとね、体全身に温かいものが巡っていることが感じられるはずよ」
言われた通りにソフィーは目を閉じて意識を己へと向けた。外界の様子がどんどんわからなくなっていくかと思えば、ふと瞼の裏に己の体内をめぐる<力>の奔流が浮かんできた。
「ほんとうだ……これが<魔力>?」
「ええ、そうよ。全身をめぐっている<魔力>を胸の……そうね、心臓あたりに集めるイメージをしてみて。心臓はここよ」
とん、とソフィーは胸の中心あたりからやや左に指を立てられた感触を覚える。そこへ己の<魔力>を集めるようにイメージした。
「その調子、その調子。集められた<魔力>を今度は、こう、ぎゅーっと圧縮するの」
「??? ぎゅ、ぎゅー!」
ソフィーは集めた<魔力>を、とにかく全身に拡散させることなく、小さく小さく、押し込めるように圧迫するようなイメージを浮かべた。
「まあ、とっても上手だわ! さすがはあの人の子ねっ」
手放しで喜んでくれるオリヴィアの嬉々とした声にソフィーは思わず頬を緩めた。
「じゃあそのまま、そのまま<フィジカルアップ>と唱えてみて」
「<フィジカルアップ>!」
ソフィーは呪文を唱えた瞬間、それは訪れる。練った<魔力>が全身を一気に駆け巡り、筋肉を補強するかのように手足に集中する。
「わあ……! なんだか不思議! 今ならお母さんを抱えて走れる気がする!」
「あら」
「ふんー!」
飛び起きたソフィーはそのままオリヴィアを横抱きで立ち上がろうとした。しかし、悲しきかな、彼女は腕でオリヴィアを抱えられたものの、立ち上がることはできなかった。
「まだまだ、元になる筋肉が足りないみたいね。あとは初めて使ったから魔術の熟練度が足りていないのよ」
「じゅくれんど……!」
「そうねえ、毎日ソフィーは森に出たり薪割りしたりしてるもの。いつかはしっかりした力が付くわ。あとは魔術の方ね。何十回も<フィジカルアップ>を使用すれば自然と使いこなせるようになっていくわ」
「やった! わたし頑張るね!」
「楽しみだわ。あとは、<マジックアップ>と<プロテクション>も便利だから<フィジカルアップ>と一緒に練習するといいわ。この二つは魔術の使用効率の上昇と、物理的な耐久力を上げてくれるものだから」
怪我を心配してのことだろう。オリヴィアはとくに<プロテクション>を使いこなせるようになることを勧めた。
翌日から、ソフィーはオリヴィアから言われた通り、毎日何十回も無属性魔術を行使するようにした。ちょっとしたことでも使用するようにした。
薪割りをするときに<フィジカルアップ>を使用して作業効率を上げ、いつもより早く終了させるようにした。
森に入るときは怪我をしにくいように<プロテクション>をかけて狩りをするようにした。
収穫したものを家へ運ぶときは<フィジカルアップ>を使用して早く走って帰れるようにした。おかげで途中リザたちに襲撃されても獲物を奪われることなく帰宅できるようになった。
オリヴィアが移動するときは<フィジカルアップ>を使用して、オリヴィアを難なく支えてあるけるようにした。
そんな日々を過ごしていると、こんどはオリヴィアから「違う魔術を同時に行使してみたらどうか」と提案される。そこで、寝る前に時々しかしていなかった<マジックアップ>を、日々の要所要所で使用していた他の魔術と組み合わせて使用することにした。
もともと<魔力量>が大きいソフィーは、特に<マジックアップ>のおかげで<魔力>の使用効率があがったことを実感したことはなかった。しかし、オリヴィアからしてみれば上手に使いこなせているという。
「<マジックアップ>は<魔力>の使用効率とは言ったけど、実際は他の魔術と組み合わせることで、その魔術の威力や効果をちょっぴり上げることができるっていう無属性魔術なの」
「そうだったんだ」
でもそれって自分に魔術をかけるよりも他人にかける方がその効果を発揮できるのではないだろうか。いつかの時ソフィーはそう考えたが、自分の行使する他二つの魔術にも少しずつだが向上効果の成果が表れてきた。もともと使用する回数が少なかったためにただ実感するほどの力が出せていなかっただけのようだった。
ソフィーは二つの魔術を併用できるようになると、今度は<フィジカルアップ>、<プロテクション>と<マジックアップ>の三種を併用するようになった。<フィジカルアップ>と<プロテクション>は特に相性がよく、身体能力を向上させた上に肉体への衝撃を緩和させる効果が得られる。これらは狩猟のときや意地悪なリザ達から逃げるときに大いに活躍した。
魔力ってなんだろう。魔術を行使するときどんな風にやるだろう。とかいろいろ考えてたらこんな感じなりました。
イメージが伝わったら嬉しいです。
次回更新予定は1/17 午前8時頃です。