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File.09

「重大情報ゲットってカンジ?」


「そんなわけあるか、これでスタートラインだ」


 車に戻るなり浮かれていたアリシアをぴしゃりと諫める。

 今回ジャックが手に入れた情報はアリシアの両親なら当然のように把握している類のものだろう。成果と呼べるものではない。


「とりあえず車を出して、そこの路地に入ってくれ」


 ジャックはアリシアに指示を出しながらバッグを漁ってタブレット端末を取り出した。手早くソフトを起動させながら、ヘッドホンを繋ぐ。


「りょーかい、で、何してるの?」


「後で説明するから静かにしててくれ」


「ふーん、あ、そういえば気になったんだけどジャックって煙草吸ってたっけ?」


「目の付け所がいいな。だが、黙ってろ」


「仮にも客に対して『黙ってろ』はナシだと思うんだけどな~」


 アリシアは口数が減るような素振りは見せず不平を漏らしながらも、指示通り車を路地に入れてくれた。

 間もなくジャックが装着したヘッドホンに音声が届き始める。


 社長室で捨てた空箱に盗聴器を仕込んでおいたのだ。市販品を改造したもので、バッテリーを小型化したため数十分しか稼働しないが、その分バレにくい。さらに最終的には相手が勝手に証拠隠滅までやってくれるというスグレモノである。

 ジャックは雑音の中に紛れるディアナの声に耳を澄ました。


『――探りにきた探偵とお嬢さんへの対応は私に任せて貰ってもいい? ……ええ、真相に近付くようであれば脅して手を引かせるし、それ以上踏み込むようなら口を塞ぐわ。……分かった、彼らにはそう連絡しておく』


 独り言ではないが話し相手の声が聞こえないということは電話か。ジャックはさらに聴覚を研ぎ澄ます。


『そういえばアレの場所は見当が付いてるの? まあいいわ。交渉が終われば時間に問題はないはず』


 これ以上は上手く聞き取ることができず、四苦八苦しているうちに通話が終わってしまったらしくディアナが部屋を出た音が無情にヘッドホンに響く。


 それでも大きな収穫はあった。


 ディアナと対等もしくは彼女より上という関係にある者が存在している。そして「彼ら」というのは実行犯だろうか。少なくともディアナは「彼ら」と接触できる人物だ。

 話の後半については何のことかさっぱり分からなかったが、ディアナ達がカーリー家の土地を狙う理由と関連しているに違いない。

 ジャックは怪しまれないうちに車を出させ、街中を適当に走るよう運転席のアリシアに頼んだ。


「結局、何してたの?」


 好奇心を堪え切れない様子で彼女が尋ねてきたので、ジャックは疲れ気味に答えた。


「盗み聞き、つまり盗聴だ」


「あ! だから煙草の箱を」


 ジャックは、そうだ、と短く返しつつ、ぐったりと背もたれに小さな背中を預ける。疲れの理由としてアリシアとのコミュニケーションも少なくない比率を占めているが、それ以上に今後差し迫ってくる危険というものが重くのしかかっていた。

 思い切ってアリシアに訊いてみる。


「なあ、この件から手を引く気はないか?」


「あるわけないじゃん」


 迷いのない即答が跳ね返ってきた。


「だよな……」


「どうしてそんなこと聞くの?」


「あちらさんが俺達が一定以上真実に迫ったら殺すつもりだ、って明言したからな。一応の意思確認だ、深い意味はない」


 深い意味は無いし、大した効果も無い言葉だ。


 ここ最近はごたごたしているとはいえ普通の生活を送っているアリシアが「殺される」という忠告を現実的に受け止められるはずがない。これが撃たれた本人である彼女の父親であるなら話も変わってくるのだろうが。


「色々あると思うけど、私のことはジャックが守ってくれるんでしょ?」


「へ?」


 唐突に投げかけられた言葉に、ジャックは気の抜けた反応をしてしまった。


「最初の印象は微妙だったけど、今は頼りにしてるよ。ジャックのこと」


 状況は悪くとも、褒められて悪い気はしない。行けるとこまでアリシアに付き合うことにしよう、とジャックは覚悟を決めた。

 同時に携帯が鳴る。通知を見るとどうやらブラッドだ。


「もしもし俺だ。随分と早いが、何か分かったのか?」


 そう問いかけると、粘っこいブラッドの返答がきた。


『ええ、それもありますが……。一つ私から君に質問したいことがありましてね』


「何だ? 言ってみろ」


 ブラッドはもったいぶるように少し間を置いてから質問を投げてくる。


『君、今この街に居ますよね?』


「この街ってどの街だ?」


 意味の分からないブラッドの言葉に対し、ジャックはいらだたし気に訊き返した。

 やっぱりこいつのことは好きになれない。


『この街というのは私が現在住んでいる街のことです。私の推理が正しければ今この瞬間、君と私の「この」という指定は一致するはずです』


「何だそりゃ。俺は今お前がどこに住んでるのか知らないんでな」


『なら教えてあげましょう』


 ブラッドの口振りに背中を冷たく撫でられるような君の悪さを感じた瞬間、ジャックの全身に大きな衝撃が加わり、シートの下に転げ落ちてしまった。一瞬後に急ブレーキが踏まれたのだと理解する。


「おいおいアトラクションを希望した覚えはないぞ」


 ジャックが座席に這い上がりながらアリシアを睨むと、彼女はぶんぶんと首を横に振った。


「私じゃないって! 前の車がいきなり止まったの!」


 弁解のために突き出された指の先を目で追ってみると、丸っこい黒のクラシックカーがすれすれのところに停まっている。

 確証はないが、ジャックの頭の中で複数のピースが繋がっていき、ある結論を導き出した。


「おい、ふざけるのも大概にしろ」


 先ほどの衝撃で取り落としてしまったスマートフォンに向かって吐き捨てると、薄笑いの混じった声が返ってくる。


『悪いことをしたとはおもってますよ、でも今度からシートベルトを付けることをおすすめします』


 ジャックは目の前の車に16ゲージ弾を撃ち込みたくなったが、その衝動を何とか抑えた。感情を表に出してはブラッドのペースに飲まれてしまう。


「まあいい。それにしてもお前、ここに住んでたんだな」


『はい、家が近いので仕事の話はそちらでしましょう』


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