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ようこそ白崔国へ

手直ししていたら長くなってしまったので更に分割しました。

白妙が姿勢を正したので、佳了は腕を振ってそでを払い、床に手をついた。彩花も神の言葉を聞くために、ひざまずいて首を垂れる。


「『我が娘をしばし逗留(とうりゅう)させよ。無事に戻ったあかつきには、よき風が巡るであろう』」

「白崔国王、蔡佳了。しかと承りました」


 低頭した佳了に首肯(しゅこう)し、白妙は次に斎子へ告げた。


「天満さまは、来年の朔の日に扉が開くまで、帰還はならぬと仰いました」

「そんな!」


 斎子が悲鳴を上げて白妙の()にすがりつく。見開いた瞳がゆれて、今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。

 一年は帰ってくるな、と父にいわれたのだから当然だろう。


「何ものにも例外はないそうです」

「怒って、おられるのですか。わたしが、勝手にお屋敷を抜け出して、お父さまを、き、嫌いだといったから……」


 見ている側が哀れに思うほど、斎子はうちひしがれていた。


 たしかに発端は斎子のむこう見ずな行動だろうが、まだ十二、三の子供が、住み慣れた場所から全く知らぬ世界へ放り出されて戻ることもかなわない。白妙という知己がいても、さぞ心細いにちがいない。

 胸の前で握りしめた小さな子供の手を、白妙がそっと包みこんだ。


「いいえ。天満さまはもう怒っておられません。こたびのことは、ご自身にも非があるとお認めになっておられます。しかし、御領の扉を開けるのは一年に一度と決まっています。世を統べる神として、理を曲げるわけには行かぬのです。お父さまを、許してさしあげて」


 優しく諭された斎子の我慢は決壊し、声を上げて泣き出した。

 そでから顔を出した小望が、腕をつたって肩に登り、斎子の頭に鼻先を押しつける。「キューキュー」とか細い声は、友を必死で慰めているようだ。


「まぁ、悪いことをした自覚があるなら、仕置きはしかたないさ」


 佳了が泣き伏す斎子のかたわらへ雑に腰をおろし、小さい背中をさすってやった。


「安心しろ。お前は、この白崔国が責任を持って預かる。なんなら、そこの彩花を護衛につけてやる。そやつは、なかなかに腕が立つのだぞ」

「陛下」


 腰を浮かせた彩花を視線で黙らせ、佳了は明るい声で続けた。


「しかし、名がないのは不便だな。この国にいるあいだだけ、お前のことは子葉(しよう)と呼ぼう」

「しよう……?」

「お前の緑の瞳は、まだようやく開いた幼い葉のようだ。似合いだろう」


 ほろほろとこぼれる涙をぬぐってやり、両手で斎子の頬を包みこむ。粗雑なようでいて、佳了が君主にふさわしい愛情深さを持っていることは、疑いのない事実。

 その姿を見るたびに、どれほど振りまされることになろうと、彩花はこの王を誇りに思うのだ。


「ありがとう……ございます」

「地上にも楽しいことは多くある。一年などあっという間だぞ。帰ったらきちんと謝って、父神にもっとよき名をいただくといい」

「はい」


 白妙が抱きしめてやって、ようやく子供は鼻をすすって泣きやむ。


 不意に、風を感じて彩花が振り仰げば、天窓のむこうは霧が晴れたみごとな晴天だった。


次話→一件落着はい終わり、とはいかないのが世の常で…

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