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王さまと2

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天満(てんまん)さまより、ご神託でございます」


 鈴のような声がして、彩花と佳了は顔を見合わせた。

 彩花が扉を開けるために立ち上がる。

 その間に、佳了は下座に移動した。


 白妙はまだ十六になったばかりの少女で、朝参に立ち会うはずだった女巫(にょふ)だ。

 国で一人ずつ選ばれる乙女で、神の妻として地上と天を繋ぐ役割をする。

その女巫が「神託」といえば、神の言葉である。王といえども下座に伏して拝受しなければならなかった。


 ところが上座に着くはずの白妙は、佳了も彩花も無視して房の中をつっきると、斎子の眼前で仁王立ちした。

切れ長の目がきっとつり上がり、そでからのぞく指先が握りしめられる。


「あなたは、いったい、何をしているのですか!」


 まるで鞭を振るわれたように斎子がうち震えて、敷布から飛びのき頭を下げた。


「ごめんなさい」

「わたくしどもが……いえ、天満さまがどれほどご心配なさっておいでか、よもや分からぬとは言わせませんよ」

「はい、お母さま」


 肩を震わせる斎子をさらに叱りつけると、白妙はようやく佳了に一礼し、上座へと腰をおろす。


 白妙が白崔国の女巫になって数年。いつも上品に微笑んでいる彼女が、声を荒げる姿など初めて見る。

 彩花は扉のわきに控えたまま、どうやらこの珍事は、御領にとっても大きな影響があったらしいと察した。


「申し訳ございません、陛下。まずはこの子を叱れというのが、一つ目のご神託でございましたので」

「いや、構わない。その様子だと、父神はすでに娘御の居場所をご存知なのだな」

「はい。昨夜遅くに、この子が房に戻っていないことに乳母が気づきました。しかし昨夜は祭でしたので、妹たちの房で休んだものと思ったそうです。朝になって屋敷のどこにもにいないと分かってすぐ、乳母から天満さまにご報告申し上げました」


 白妙はそこで言葉を切り、頬に手を当てて息をついた。


「わたくしはすでにこちらへ戻っておりましたが、それからはひどいさわぎだったそうで。天満さまは朝のお食事もお勤めも放り出し、御領と地上のすべてをお探しになったそうです。そして、白崔国の王宮にこの子を見つけ、この国の女巫であるわたくしを水鏡でお呼びになりました」

「何だか大事だな。さすがに父神も我が子は大切か」

「もちろん。ことにその子は、天満さまに愛されておいでです」

「うそです!」


 それまでしおらしくしていた斎子が、頬を赤くして白妙に食ってかかった。


「だってお父さまは、いつまでもわたしに名前をくださらない!いつも『次は必ず』と仰るのに、次などこないのです!」


 斎子が真剣に憤っているのは分かるけれど、彩花には子猫が毛を逆立てているようにしか見えない。

 白妙も、母猫が子猫をなめてやるように、あくまで優しくそれをなだめた。


「そうではありません。天満さまは、あなたをことさら大事になさろうとされておいででした。大事になさるあまり、あなたに合う名を決められずに祭がすぎてしまうほどに」

「えっ……」

「ただの親ばかじゃないか」


 あきれたように肩を竦めたのは佳了だ。

 斎子は初めて聞かされたらしい事情にどういう顔をしていいか分からないのか、眉を寄せ唇を開けては閉じてをくり返している。


「女巫や他の斎子たちは、みな呆れながら笑っておりました。まさか、あなたがそれほど傷ついているとは露とも知らず。申し訳ないことです」

「たんなる親ばかと、いこじな娘のすれ違いだな。誤解が解けてよかったじゃないか。それだけ必死に探したんだから、すぐ連れて帰るんだろう?」


 一件落着だと佳了が手をうつが、白妙がうれいの深そうな眉間にしわを刻んだので、どうやら話しはそう簡単ではないらしいと分かった。


「いいえ、陛下。残念ながらそれは無理なのです」

「どういうことだ?」

「二つ目のご神託です。これは白崔国の王へ」


次話→斎子が帰れない理由とは?

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