どうせぼっちです
昼食もかねるつもりだろう。鳴が円卓にならべたのは、干菓子ではなく月餅や蓮蓉包といったものだった。
彩花も子供のころはよく食べた、果果の得意な料理だ。
「きれいな器ですね」
子葉が両手で持ち上げた茶器は、みごとな黒漆。よく磨かれて、覗きこんだ彩花の顔が、横に引きのばされながらも仔細に映る。
この宮に、陶磁器以外の器があったとは知らなかった。
「こちらの漆器は、陛下からの賜りものだそうです。引っ越しのお祝いに」
「手回しのいい……」
思わずつぶやくと、急須を傾けた鳴がくすっと笑う。
「楊将が、この宮へ越されたときに賜ったと、果果さまが仰っておりました」
「わたしの引っ越し?」
かれこれ四年近く前の話しだ。
「とてもよい品ですが、お出しする機会がなかったと」
「彩花さま、お茶はなさらないのですか?」
無垢な瞳で見つめられて、彩花は言葉に詰まる。
越してきてからというもの、この宮に高価な茶器が必要な客の訪れなどあったためしがない。唯一例外としてやってくる送り主の佳了は、たいてい茶より先に酒を所望する。
彩花自身も器にこだわりなどない性質だから、果果は王からの下賜品を卓に登らせるようなことはしなかったのだろう。
子葉を迎えるために、嬉々として器を磨く果果の姿が目に浮かんだ。
「この宮まできて、わたしと差しむかいで茶を飲むような者はおりませんので」
「……どうぞ」
茶飲み友達もいないのを憐れんでか、子葉は彩花へ月餅の皿を押しやる。
「わたしは、彩花さまとお茶をするのは楽しいですよ」
「お気遣いありがとうございます」
「嘘ではありません!」
彩花はいくぶん面映ゆい思いで狐色に焼けた菓子に手をのばしたのだが、その礼があまりに取ってつけたように見えたらしい。
頬をふくらませる子葉に、鳴が顔を背けて吹き出した。