表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/71

入居の条件は

「子葉」


 手招きされ、子葉は彩花から離れて佳了に身をよせる。軽やかな動きにひるがえった衣の微風を受けて、彩花はやっと背をのばし、盆を胸の高さまでおろした。


「お前を、彩花の宮にあずけることにした」

「彩花さまの宮?」


 短いうちにあちこち移されることに不安はないのか、子葉はただ不思議そうに首をかたむけている。

 この無邪気さが気に入っているのだろう。佳了は頬をゆるめて、小さな頭をなでまわした。

 王という立場上、そばに仕える侍女を特別扱いしてかわいがることもできず、愛玩動物あいがんどうぶつも飼っていない佳了にとって、子葉は気楽に接することのできる貴重な相手だ。


 二人の様子を、ほほえましく眺めていた彩花はしかし、佳了がにやりと笑ったのを見逃さなかった。


「この彩花には王宮の一角に居を与えているんだが、そこを差配さはいしている者が高齢でな。さらには金がなくて侍女もまともに雇えないものだから、世話が行き届かないとなげいている。ちょうめいとともに、助けてやってほしい」


 案の定、彼女の口から飛び出したのは、手が空いていたら額をおおいたくなるような言葉だ。

 確かに果果は引退していてもおかしくない年齢ではあるけれど、あと十年は辣腕らつわんをふるいそうだし、他に侍女を雇わないのは金がないからではない。破格の報酬を約束しようと、彩花の宮で働こうという侍女が現れないだけだ。


「お助けするとは、なにをすればいいのですか?」

「そう難しいことではない。掃除や衣の管理。炊事は苦手なんだったか?まぁ、他にも色々な雑事があるだろう」


 彩花が脱力しているうちに、二人のあいだで話しは進んでいく。


「お掃除、しても良いのですか?」


 やはりそれか。

 家事ができないことが、この子供にとってはそうとう不満だったらしい。


「社には、そういう仕事をする者がすでにいるからな。彩花のところなら、手が足りぬから好きなようにするといい」

「はい!陛下、いつ彩花さまの宮へうかがうのですか?」

「朝参を済ませたら、すぐに。行くか?」

「行きます!」


 大きな目をきらきらと光らせた子葉が、驚くほどの勢いで彩花を振り仰ぐ。


「彩花さま、小望を一緒に連れて行ってもいいですか?」

「……もちろんです」

「ありがとうございます!」


 ぱあっと広がった表情は、彩花が初めて見る、喜びに満ちた笑顔だった。


 子供とは、こうして笑うのか。


「まさに『花が咲くように』だな」


 にやにや笑いながら、佳了が彩花の肩に腕をまわしてくる。

 それを解くことも忘れ、社の中へ走って行く子葉の背中を見ながら、彩花はまぶしげに目を細めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ