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瑪瑙の輝き

 ついていくと言って聞かない葵の為に、かにゃんはもしものために用意しておいた、砂の国の女官の服を渡した。ヴェールは薄いが顔を隠せるし、肌色は誤魔化せないが明かりーつない王宮でまだ夜明けも遠い中なら少しは人目を避けられるだろうという意図だった。露出の多さにリネは怒ったり慌てたり目を隠したり見開いたり落ち着きがなく、梁が葵と一緒にマーク号に乗ると言い出した時など、もはや人を殺す目をしていた。

 土を潜っていくのはそれは体力の要るもので、何せ前を行く梁とかにゃんがさくさくと進んでいくのに対し、自分はとても遅く、後ろから来るリネを何度も蹴ってしまって、さすがの葵も申し訳なさが募ってきた。しかしぶつかる度に、こちらが謝るより早く「ありかとうございます!」と聞こえるので、葵の心から罪悪感は消えた。前方から聞こえる「キモいのよ!」という罵倒が心地よいくらいだった。

 土から出た先は誰かの畑の片隅のようで、そこから王宮には梁の先導に従って歩きで行くことになった。

 街の中も明かりらしいものは一つもなく、薄い月明かりが頼りで、葵は何度も躓きそうになった。暗闇なのにやはり他の人たちの歩みは早く、リネが葵をひょいと抱き上げてかけ始めた時も、もはや文句を言うことは出来なかった。


「じゃ、俺がいったん部屋に入って縄を下ろすから。パスな」


 梁は自分に自分に結びつけていたハーメドをぽいっとかにゃんに投げ渡すと、つるつるの石の壁をヤモリのようにするすると登っていき、三階にあったそれは大きな窓にひょいと登った。


「葵はここにいて」

「姉さまは絶対に動かないでください」


 上がら投げ出された縄を、ハーメドを担いだリネが登り始め、そのすぐ後をかにゃんが続いていく。


「田中さんがいれば、心強かったのになあ…」


 するすると登る二人を見て、葵は何となくそう思い、風に消えそうなほど小さな声でそう咳いた。この城の地下をぐるぐると走り回っていたことが思い返される。田中がいなければ、自分はどうなっていただろう。

 二人も窓の奥に消えていくかというところで、庭の端の方で明かりが灯るのに気付いた。

 葵は慌てて近くの茂みに身を隠し、様子を伺った。

 暗い中で明かりを持つ人はとても目立って分かりやすい。

 それはシャフィーカだった。

 小さなランタンを手に持って、背中を丸めて庭を歩いている。

 進む先は件の東屋だ。あの、マーロの婚約者が産んだ子供が、亡くなった場所と言われ、以来近付くと呪われると言われる、壁に囲まれた小さな建物。

 この国を離れる時、彼女はあそこに足を踏み入れるのすら恐れていたのに、こんな真夜中に一人きり…………目当ての人物を見つけたのもあり、彼女を案ずる気持ちもあり、葵はなるべく足音を立てないように、彼女に向かって走り出した。


「シャフィーカ」

「…………! えっ、あ、葵様…?」


 後ろから掛かった声に彼女は両手で口を押さえて必死に悲鳴を堪えた。腕に引っかかっていたランタンがすーっと落ちていって彼女の腰に当たり、カシャンと皆を立てた。

 葵はさっとヴェールを取って、事のあらましを説明した。


「ま、あ……そうだったのですか。城の中ではモンスターがやってきただの、神の怒りに触れただの、色々な言われようです。しかし王子が神の怒りを貰うはずもないと皆思っていて、民は王子に同情的です。王子だけが人間の仕業と主張されて、それは酷い怒りようで…。あれほど荒れた様子は初めて見ました」

「王子の腕はもう治るわ。でも、治療を終えたのは良いのだけど、やはり経過をフォローする人が必要で」

「それで私に会いに、このような姿で危険を…。王子はあなたに酷いことをされたのではないのですか?」

「えっと、私には、特に…。でも、とても酷いことを色々な人にしていたの。地下に迷宮みたいなのがあってね」

「ああ、とても信じられません……」


 シャフィーカは顔を覆って俯いた。

 いつ王子の部屋に入った三人が事を終えて降りてくるかと、葵の気持ちは逸っていたが、彼女の気持ちが落ち着くまで、どうにも出来なかった。しかし思いの外早く、シャフィーカは顔を上げた。


「それで、経過をフォローとは、何をすればよろしいのでしょう」

「あ、あのね、これを」


 かにゃんが一応携帯していくと言った荷物―――傷痕を隠すかにゃん御用達のドーランと、化膿を防ぐエルロイの妙薬が入った小袋を、葵は壁登りの際に邪魔だろうと預かっていた。それをシャフィーカに差し出して、中身の説明をした。彼女はそれを額きながらよく聞いて、恭しく受け取った。


「さ、もう行ってください。どのようにして帰られるのですか?」

「歩いて街の端まで行って、地面を掘って抜け出すの」

「街の端?」

「東の方」


 シャフィーカはすぐに葵の背を押してこの場を離れるよう促した。

 葵もそうしてその場を離れることとしたが、ふと振り向くとシャフィーカもランタンの光を隠すようにしながら小走りに城へと戻っていくところだった。


(よかった。これで腕が悪化することもないし、彼の腕は元通り良くなるはず)


 安堵の中、窓の下まで戻ると、ちょうどリネが縄を降りきるところだった。


「姉さま! どちらに行かれていたんですか?! 下を見たらいらっしゃらないので心艦が止まるかと思いました」

「本当よ! うろちょろしないの!」


 静かだけれど確かな圧を感じる二人の言葉に、葵は小さく謝罪を返した。

 縄を回収した梁が高さを物ともせずぴょんっと降りてきて、撤退撤退~と少し間の抜けた声で号令をかけた。

 かくして、この任務は無事に終了した―――


 はずだった。


 王宮を出ようというところで、凄まじい光が空から振ってきて、葵たちを一気に照らした。

 空を飛ぶ赤く小さな飛行船が、この国では実に珍しい人工的な光を放ちながら、頭上をくるくると回ってサイレンを鳴らしている。


「やべ、見つかった」

「あれ砂漠を警備しているやつじゃないの?」

「呼び寄せたんでしょう。姉きま、俺から離れないで」


 葵は飛び上がるほど驚いたというのに、他の三人は実に冷静で、縮めていた体を真っ直ぐ伸ばしてその足を速めた程度の変化しかなかった。

 難れるも何も、葵はリネの肩に荷物のように担がれて、身動きも取れないまま景色が移動していく様を眺めているくらいしか出来なかった。

 三人に反して後ろを向いたまま運ばれている葵の視界に、城からわらわらと出てくる兵士たちが映った。


「お、お、おおお、追っ手が来てる!」

「でしょうね」

「こっちこっち」


 梁は大きな木の下や建物の隙間を選んで、来た道とは全く別の道をさくさくと進んでいった。

 すごい。頭の中に図面が出来てる。

 葵はそんなことを感心しながら、確かに兵士たちが遠退くのを感じていた。空からの光も途切れたり、離れていったり、自分たちを見失うことが度々あることが分かる。土に潜ってしまえば、あの光は意味を失うし、入るところさえ見られなければ、追っ手は完全に目標を失うだろう。

 危機的状況なのに、そんな安心感がある。

 葵の心もだんだんと落ち着いてきた。


 しかし、


「うっわ、何でごこにも居るんだよ!」

「ちょっと、梁! どうなってるのよ!」

「知らないって! もー!」


 地中への入り口付近―――いや、街の東方一帯に、半裸の兵士たちがところせましと敷き詰めていた。

 梁はその人だかりを見て慌てて踵を返し、彼らに見つかる前に大きな木に登って身を隠した。異常に大きな葉っぱと太い枝が空から地上からも姿を隠してくれる。かにゃんもリネもそれに倣い、なるべく近くの枝に潜んだ。葵はリネの肩にぶら下がりながら、「片手で木登り、すごい」としみじみ思っていた。


「あ――――、どうしよ。このまま木を伝って街の外に行く?」

「街の外まではともかく、そこから先、隣の国までの道は建物も木もほとんどない砂漠でしょ。そこで見つかっちゃうわよ」

「今から新しい土を掘り始めるのはなあ。四人入るまでに見つかっちゃうなあ」

「かと言ってドーラ号を呼んだらまた狙撃されてしまいますしね。マーク号も…」

「こんだけ空を照らされていたら、いくら小さくても見つかっちゃうわ」


 しばらくうんうんと唸っていた三人だが、やがてシンとしてしまった。意見が出尽くしたらしい。


「囮を使ったらどうかな」


 素人考えとは分かって、葵は口を開いた。


「私は女官の服を着ているし、あっちで見かけた、とか、言ってみるよ」

「ね、姉さまを囮と言うことですか?! できません!!」

「声がでかい」


 かにゃんがリネの頭に肘を落とした。容赦のない鈍い音が間近で聞こえて、何故か梁が身震いしていた。


「それなら私がやるわ。肌の色が近いもの」

「こんな不安定なところで服を着替えるのは難しいよ」

「でも、葵にはさせられない」

「俺はいいと思うな。葵一人回収するだけなら後でマーク号でこれるよ」

「無責任なこと言うな!」


 かにゃんの肘の下で、リネが声を上げて反論した。

 しかし頭上を強い光がすっと通っていったのを感じて、四人ともすぐに息を押し殺した。見つかるのも時間の問題だ。


「王子の肌色は白かったでしょ? 王宮で使えている人は私くらいの肌色の人も多かったし、夜だから大丈夫。兵士がはけたら、私も穴のところに行くから、間に合ったら一緒に抜け出して、遅いようだったら後で迎えに来てくれない?」

「お、俺がやります。俺がやります。服をください」


 リネは肩から葵を下ろし、なるべく枝の太い部分に置くと、両肩を掴んで説得を始めた。

 しかし梁の逸る声と、かにゃんが諦めたことにより、葵の言葉が実現することとなってしまった。


「姉さま、姉さま、姉さま。俺はずっと地中の入り口でお待ちしています。すぐに戻ってきてください。必ず戻ってきてください。約束してください」

「分かった分かった」


 葵とてこれほどのことをしてこの国に留まろうとは思えない。

 王子は酷い奴だし、それを散々罵倒して逃げてきたところだし、食べ物は辛い。たった一人の頭のおかしい奴がいるだけの船に戻った方がまだマシだ。

 葵はまたリネに担がれて木を降りると、早々に三人から離れて、地中の入り口とは真逆の方で声を上げた。


「兵士さん! あ、怪しい人たちが、今、私にぶつかってきて!」

「なんだと! 何人組だった!」

「四人…、だったと思います」

「間違いない。おい、お前ら! ついてこい!」


 あらかたの兵士が葵の指さす方向へ走っていき、どこからか連携を取っていたのか、空の明かりも一斉にそちらへ移動を始めた。


「城の女官じゃないか、ここまでついてきたのか?」

「ついてきた?」


 二名の兵士が葵の身を案じてその場に残ったが、葵はすぐに彼らと離れるべきと分かっていた。

 しかし一人の言動に妙に引っかかり、ストールで肌や顔をしながらも、言葉を返してしまった。


「シャフィーカだろう? 侵入者を知らせてくれた。我々を心配してくれるのはありがたいが、城に戻るんだ。さあ」


 その名前に、葵は凍り付いた。

 彼女が―――、私たちのことを。


「それは私じゃないありません!」


 その時、後ろから声が掛かった。

 振り向くと自分とほぼ同じ格好をした女性が駆け寄ってくる。あの髪型に、あのガーグラ(民族衣装)………ご本人登場だ。


「その人の言ったことはでたらめです! 彼らの仲間で、」


 しかし彼女はこちらに向かってくる途中でふっと姿を消した。

 暗闇の中で彼女の装飾が光を残してぽつんと地面に落ちていくのが少し離れた場所からも分かった。

 彼女の言っていたこと云々よりも、その姿が唐突に消えたことに驚いた兵士たちと葵は、とにかくそちらへ駆け寄った。葵より一歩先を進んでいた二人の兵士は、その下半身を唐突に地面に埋めた。


「うわああ!」

「えっ?! 大丈夫ですか!」


 蟻地獄に落ちるようにずぶずぶと沈んでいく兵士に、思わず葵は手を貸した。太い手が葵の細腕を両方から引っ掴んで頼りにしたが、ものの見事に何の役にも立たず、ニ人は地中に消えていった。彼らが持っていたランタンもその姿を失い、葵の回りはすっかり真っ暗闇だ。


「なに呆然としているの。逃げるよ」


 地面を突きだして葵の目の前にぼすんっと手が生えてきて、土に手をつく葵の頭を乱暴に掴み取った。

 土まみれの小さな手が顔面を覆って、葵は悲鳴を上げようとしたが、指が二本ほど喉奥まで突っ込まれて敢えなく嘔吐いただけだった。苦い土の味が喉の奥から戻ってくる。


「も、もしや田中さん」

「わーは川口。よろしくね」

「高橋さんですらない!」

「さっさと立て。役立たず。能なし。腰巾着」


 最後は違う、と思ったが、リネの“お荷物”のことかと考え直し、口を閉じた。


「シャフィーカ埋めちゃったのですが」

「王子は殺しちゃ駄目って言われている」

「えーと、王子以外は殺していいとは違うのでは?」

「王子は殺しちゃ駄目って言われている」


 話にならない。

 葵は手を無視して彼女が消えた辺りに行くと、手で何とか土を掘ってみた。

 人が埋もれていったとは思えないほど、真っ平らで自然な土の表情だ。思ったより固く、何度か手を往復させても数センチも進んでいるように見えなかった。


「もー、分かったよ。こうしときゃ死なないでしょ」


 地面からいきなりずぼっと女性の半身が現れてきた。

 その姿は薄汚れていて、ヴェールも外れ、服装が乱れている。ちょっと離れたところからも先ほどの兵士が二人、ずぼずぼっと産まれた。ぐったりとしたシャフィーカの姿に、葵は慌てて呼吸を確認した。

 声をかけて、頬を少し叩いてみると、彼女は薄らと目を開いた。


「葵…、様」

「シャフィーカ! ああ、良かった。死んだかと」

「私もそう思いました」

「ごめんなさい」


 何故か責任を感じて、土から胸から上だけを出した彼女に葵は手をついて謝った。

 どこからかふんっと鼻を鳴らす声が聞こえる。


「何故私を助けてくれたんですか?」


 心なしか弱々しい声で、シャフィーカは薄い瞳で葵を見た。


「いえ、私は何も…」

「私はあなたのことを城の者に伝えたのに………、裏切ったのに」


 彼女の手は未だ土の下で、重たいのか出そうとしてもなかなか出てこないようだ。

 こんなきっちり埋められるなんて、葵は少し空恐ろしくなった。


「あなたは…、この国に尽くしただけよ」


 このままシャフィーカが土の下で誰にも知られず死んでしまったら、王子の腕どころではない。彼女の命まで背負わなければいけなくなる。そんな気がしていたのは確かだ。損得勘定抜きでただ彼女の命を心配したかというと、 きっと違う。しかしその心をそのまま言葉にする勇気は葵にはなかった。


「わ、私は…」


 黒い宝石のような瞳から、ぽろぽろと雫が滴ってきた。

 頭から土にまみれて、ヴェールは元の形を失ってびりびりで、衣装もよれよれなのに、 葵の目にその姿は絵のように美しく見えた。


「私は、王子が何をしているのか、知るだけの勇気がありません。私たちにとっては、それでも一つの陰りもない太陽なのです」

「そんな奴いねーのにね!」


 どこからかからかうように嘲笑うような声が、シャフィーカをぶつように降りかかってきて、葵は思わず窘めた。

 土から再び生まれ出た細い手は、あの時と同じように黒い包帯をぐるぐるに巻いていて、細い指先でちょいちょいと葵の服の端を引いた。


「早く、逃げるよ。走って、のろま」

「シャフィーカ、きっとすぐに助けが来るから。ごめんね。王子の腕の傷、 よろしくね。さようなら」


 シャフィーカが涙を流し目を伏せながらも、確かに頷くのを確認して、葵は走り出した。土から顔を出した兵土たちが何事か叫んでいたが、それぞれに軽く謝罪して通り過ぎるしかなかった。


「彼女が東屋から落ちなくて良かったのかもしれません。知ってしまったら、殺されてしまうかもしれませんよね」

「あそこは落ちたらバキバキに背折できるの程度の高さだから、そうなっちゃうかもね」

「まさか、 私は大丈夫でしたよ」

「はあ? おっ前、あれはねえ、わーがねえ」


 田中―――川口は何かを言おうとしたが、急に止めた。

 土から飛び出した手が足首を掴み、葵を地面に叩き何けたかと思うと、今度は目前からにゅっと飛び出てきて葵の頭を指先だけでぺしぺしと叩き、「ばーかばーか」という罵倒の言葉と共に引っ込んでいった、


「何するんですか!」

「うっせ、ばーか、走ればーかばーか」

「そ、そんな何度も言わなくても」


 転んだ土が軟らかったためか、さほどの痛みもなくちょっと土を払うだけで再び足を進めることが出来た。

 どうやってついてきているのか、忍びの声は後ろからずーっとついてきて、方向を指示したと思いきやグチグチと文句を言い出して、その声は休むことがなかった。


「東の方に逃げるとか完ッッ全に言わなくて良かったよねえ」

「それは本当にすみません」

「てゆーか! 別に放置で良いってなったじゃん。何でそんなどぉおでもいいことの為にめんどっちいことするの? わーが面倒くさいんだけど!」

「化膿するって危険なんですよ! それでハーメドが命を落とすようなことになったら、私はもう、責任を負いきれません」

「リネの責任でしょ!」

「私の責任でもあります」


 おそらくこちらだろう、と思われる声のする方向へ向き直って、葵ははっきりと言った。

 絶えず文句を言い募っていた声はちょっと息を呑んだように止まったが、すぐに横からべしっと枝が投げつけられて、「こっちだよ、ばーか」という声がそちらから聞こえた。


「負いきれないくせに偉そうに」


 ご尤も――――

 返す言葉もなく、今度は葵が押し黙る番だった。


「姉さま!」


 暗がりからリネが走り寄ってきて、葵を持ち上げると来た道を戻り始めた。


「良かった、道が分からなくなってはいないかと迎えに来たんです」

「リネ、自分で走れる」

「いいえ、走れません」

「いや、走れるってば」

「走れません! 僕がきちんとお連れしますから心配しないで」


 結局リネは穴まで葵を担いでいってポイッと投げ込むとすぐに自分も入って出入り口に蓋をした。

 川口を案ずる暇もなくリネに尻を押されて顔面を蹴り返す騒ぎとなり、穴の奥から聞こえるかにゃんの急かす声に、葵は先も見えないモグラの道を奥へ奥へと進んでいった。


 ***


「葵、私が預けた荷物はどうしたのよ」

「あー、腕の予後治療をね、頼める人がいたから頼んでおいた」

「えっ! 誰よ、それ、大丈夫なの」

「うん、大丈夫」


 船に着いて、かにゃんはすぐに荷物のことを思い出して葵を問い詰めたが、謎が深まるばかりだった。

 葵は何も心配要らないと笑うだけで、かにゃんはどうにもうずうずとして落ち着かなかった。


「も、もしかして、この間言っていた友達って」

「友達?」


 何故か葵は自分の服装をマジマジと見回して、ガーグラを持ち上げ、その模様を見てふっと笑った。


「うん、そう。ともだち」


 その後、まるで浮気された女のように葵に詰め寄るかにゃんが目撃され、姉を庇うリネと殴り合いの喧嘩になっていた。

 揺れるドーラ号は早々にこの空を離れ、再び世界に向けてその羽を伸ばしていったのだった。

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