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大罪人の神殺し~その少年、無実につき世界に復讐する〜  作者: ナマケモノの弟子
プロローグ
7/8

間話 いずれ巡り会う運命の元に

遅くなってしまい、大変申し訳ありません。


編集報告:タイトルに話数を追加しました。

月の明るい夜。

第三王都はいつもの静けさとはかけ離れた喧騒に包まれていた。


ここではほとんど見ることの無い魔術師団や警備兵が街を闊歩し、被害状況や聞き取りを行っているのは言うまでもなく、今日行われた公開魔術処刑を受けたはずの大罪人があろう事か生き残り、逃走したからだ。


天秤の城が破壊され、この報告は遅れてしまったのだがこの事態を重く受け止めた宮廷は即座に魔術師団を派遣し調査に乗り出した。


これにより街は破壊された建物の修復作業の他に多数の魔術師、警備兵たちの調査によって非常に大騒ぎになっているのだ。


しかしそんな中、未だ静寂を保っている地域があった。

それは、街の東側。

破壊された天秤の城の周囲である。


報告が遅れたせいで魔術師団の到着は夜中になってしまったのだが、最も被害状況が深刻かつ広範囲な天秤の城周辺は、表向きは暗い中での作業は危険とされ、後回しにされたのだ。


しかし到着した魔術師団たちの本音としては、天秤の城のこの被害状況では生存者は絶望的と見られたのである。


さらに宮廷からは公開魔術処刑から逃げ出した大罪人の確保を最優先しろ、との指示が出ていたのだ。


つまるところ、このまま大罪人を逃がしてしまえば王国、ひいては宮廷への信用に関わるからである。


こうした魔術師団と宮廷の利害が一致し、最早瓦礫の山とかした天秤の城は未だにその静寂さを保っていたのだ。


故にそんな瓦礫の山の一部が決壊し、一人の男が這い出てきても誰一人気づかなかったのは必然かもしれない。


男は杖を片手にゆっくりと立ち上がり、傷一つない法衣の埃を手で払った。


「やれやれ。手酷くやられたな。」


声は老齢を感じさせる、しかし決して覇気のないものではなかった。


「しかしまあ、演技をする必要が無いだけマシか。

思う存分暴れてくれたようだしな。」


月明かりの元、冷たく笑う男の目はまるで何かに取り憑かれたかのように感情を映さなかった。


「実験は無事成功。

神のお告げはやはり正しかった。」


男は天を仰ぎ、これから辿る未来を思う。


「時期に宮廷も彼の者の脅威を知るだろう。

そうなれば、我らが神宝以外に対処の術などありはしない。

…ふはっ。

神を信じぬ者達が我らにすがりつく姿は見物だろうな。

ふっ、ふははっ、あはははっ。」


長年の夢があと少しばかりで叶うとばかりに男は笑う。


しかし今ここで笑い声を聞いた者がこの男を見つければ、きっとゾッとしたに違いない。

それはその不気味な笑い方、ではなく、その笑い声に反し、一切笑っていないその男の目と表情に。


その不自然さ、チグハグさが男へのひたすらに不気味な感情をあおっていた。


「さて。報告に行かねばな。」


男はゆっくりと歩き出す。

街の光から遠ざかるようにただただ東に向けて。


…やがて男は闇の中へ、誰一人気づかれることなく消えていった。





**





「情報の確保を急げ!

彼と親しかった者に彼の逃走経路に心当たりがないか確かめろ!

日が昇ったらすぐに出発できるよう、夜のうちに準備を整えておけ!」


一方、第三王都の中心街では一人の男が魔術師や警備兵に司令を飛ばしていた。


外見は短い茶髪に引き締まった身体。

装備は動きを制限しない最低限の鎧に、腰には柄頭に青い宝石を施された直剣を帯びている。


年齢は18~20といった所か。

しかし、その若さとは裏腹にどこか落ち着いた気配を纏っている。


この男こそ、王宮の最高戦力である近衛騎士団の団員 アガイス・チェペト。


公開魔術処刑を生き延びるような相手を捕らえるにはそれ相応の実力者が必要と判断した宮廷が第三王都へ派遣した、逃走した大罪人への対抗戦力である。


そんな彼は魔術学校を運営する神威教から借り受けた魔術師団たちの指揮権を授かり、明朝の壁外一斉捜索に向けた準備をしていた。


だが、アガイスの内心はあまり穏やかとは言いがたかった。


(近衛騎士団に任命されて初の仕事がこんな不祥事の後始末になるとはな。

ったく。天秤の城と公開魔術処刑は神威教の管轄だろうが。

なんで宮廷に使える身の私がこんな事を…っ)


思わず舌打ちをしそうになり、なんとか抑える。


(まあいい。

そのおかげでこれだけの数の魔術師達を借り受けることが出来たしな。

その大罪人とやらにある程度魔術師を殺させて、神威教の戦力を減らしてから私が仕留めれば神威教には痛手を負わせられるし、王は私の力をさらに認めてくださるだろう。

むしろこんな楽な現場で初戦が飾れることを感謝せねばな。

ふふっふふふっ)


アガイスは内心でほくそ笑む。


まるで自分が負けることなど考えてはいないかのように。


それもそのはず、彼には近衛騎士団の証とも言うべき、この国の管理する『魔剣』があるのだから。


遥か古代の技術で生み出され、ほとんど現存していない秘宝である、『魔剣』。


現代の魔術など比にはならないほどの発動速度と威力を持った『魔剣』を彼は自身の強さと国王への忠誠を示すものと、半ば崇めていた。


(私の剣技とこの『魔剣』さえあれば、たとえ相手が何であろうと負けはしない。)


そう。そしてその信仰とも言うべき何かは彼の自信を膨れ上がらせていく。


(待っていろ。大罪人とやら。

お前にはせいぜい、我が覇道の礎となってもらおう。

あはっあはははははははっ)


アガイスは笑う。

決してその本心を他に見せぬように。


心の奥底で笑い続ける。


朝に向け必死に働く魔術師たちを嘲笑し、

大罪人を切り裂く自分の『魔剣』を誇り、

国王が自身に向けるであろう信頼の視線に酔いしれて。


第三王都に朝日が昇るその時まで、彼はただただ笑っていた。







**







ブンッブンッブンッブンッ。


王宮の地下、薄暗く寒々しい一室にもう2時間も前から空を切る音が絶え間なく続いていた。


また、もしその水音が響く独房がごとき部屋に立ち入る者がいたとすれば、その音と共に部屋中に吹き付ける突風に壁に打ちつけられ、それに耐えるだけの膂力があろうとも部屋に満ちる魔力のあまりの濃さにあてられ、気絶は免れないだろう。


そして、そんな常人では存在すら厳しい部屋の中央で一人の女性…いや、少女と言っても差し支えないだろうか?


ともかく、まだ顔に幼さの残る一人の女が業物であるのがひと目でわかる美しい直剣を手に、必死の形相で素振りを続けていた。


ショートと呼ぶには少し長い髪は乱れ、体からは汗が湯気となって立ち上っているが、一切それらを気にせず、一心不乱に剣を降り続けている。


上の宮廷ではここ数年にない大騒ぎで誰も彼もが上に下にしているのに、彼女ほどの実力者であればその気配を察知できぬはずがないのに、それでも剣を振っている。


彼女のしている素振りはこの国の宮廷騎士であれば誰もが身につけている「宮廷剣技」の型であり、見るものが見ればその洗練された動きに感動さえ覚えるだろう。


それほどまでに彼女の剣技は完成の位置にあった。


では、そんな「宮廷剣技」を極めた者が何をもって未だ薄暗い地下で剣を降り続けているのか?


理由は、彼女の持つ剣にこそあった。

本来、彼女の手に握られているべきは業物などではなく、その剣技に相応しい『魔剣』であった。


そう、彼女こそが近衛騎士団が一人、

ユア・シューギルである。


そして、近衛騎士団には証となる国の管理さる12の『魔剣』から最も当人にあった1つを任命式にて賜るのが通例であった。


例えばパワーよりも技術や受け流しが秀でているアガイス・チェペトには

『水盾剣 ウォルカ』が賜れたり、と。


では、何故彼女は『魔剣』を所持していないのか?


それは先代の近衛騎士団団長の言によるものだ。


毎年代変わりする近衛騎士団の団員は前年の近衛騎士団団長が候補者の中から選ぶのだが、その元団長がユアを選んだ時に言ったのだ。


「お前に相応しい『魔剣』はここにはない。

ひいてはすまないがこれ(・・)が相応しき『魔剣』となるまではこれを振ってくれ。」と。


王宮で行われた任命式に居た誰もがその言葉を言葉のままに受け取らなかった。


しかし、それは必然かもしれない。

候補者の中でも随一の実力を持つと言われる現団長ならばともかく、団員の一人…それも女性であるユアに向けられた言葉にしてはそれはあまりに身に余っていた。


誰もが、思った。

「彼女に扱えるだけの『魔剣』が無かったのだ。」と。


「それを取り繕うために先代の団長はあんな事を言ったのだ。」と。


元団長の意思はこれらの戯言とはまるで別の所にあったのだが、そんなことは関係はない。

なにせ、ユア・シューギル本人ですらそう(・・)思ったのだから。


「任命式にて『魔剣』を賜れなかった近衛騎士団団員の恥。」

「史上二人目の女性団員にして最弱の騎士。」


そうした罵詈雑言が近衛騎士団団員として王宮で暮らし始めた彼女に降り掛かった。


もちろん言葉のいくつかは最年少で近衛騎士団に任命されたことや王宮での暮らしに幻想をもつ人々の妬みや嫉みによるものだったが、そんなことは関係ない。


彼女は、傷ついた。

傷つき、何一つ言い返すことの出来ない自分に苛立ち、ひたすらに稽古に打ち込んだ。


『魔剣』の代わりに、と賜れた『無名刀(むめいとう)』を手に魔力濃度の濃い王宮地下にてひたすらに剣を降り続けた。


自身を罵った人々を見返すために、

実力を認めてもらうために。


誰か一人『無名刀』の価値を知るものがいれば、

『魔剣』に数えられないにも関わらず王宮にて保管され続けているに値する価値があるのだと見抜けていたら、

彼女はここまで苦しむ必要はなかったかもしれない。


しかし、そこまで聡いものは彼女の周りにはいなかった。


幼い頃から剣の道一筋に生きていた彼女に、友などいない。


故に、彼女は今日も地下で剣を振り続ける。


(負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない……!)


その身を悔しさと強さへの執着に焦がしながら。











『無名刀』

曰く、『魔剣』の卵。

時間を掛け使用者の魔力に馴染み、同化し、使用者の願いを汲み、使用者に最も適した『魔剣』と化すため、かける時間を考えなければ、ただの『魔剣』よりも遥かに価値の高い代物である。


王宮の宝物庫にて保管されている最上の剣の一つ。

読んで下さりありがとうございます。

感想などありましたら是非コメントして頂けると嬉しいです。


少し登場人物を増やしました。

次回から第一章に入ります。


明後日中の投稿を目標に書き進めていますのでよろしくお願いします。

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