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大罪人の神殺し~その少年、無実につき世界に復讐する〜  作者: ナマケモノの弟子
プロローグ
6/8

6話 それはまるで霧の中

ブックマークや評価など少しずつ増えてきて大変励みになっています。

ありがとうございます。


編集報告:タイトルに話数を追加しました。


今回は長めの説明回。

上手くまとめられず、ズルズルと長くなってしまった…


編集報告:間違えて21:00に投稿してしまったのですが「魔術」に関する説明についてその後の編集で少し変更しています。


混乱させてしまった方、大変申し訳ありませんでした。

「ああ、いや。そうだな…その前にお前さん、魔術師見習いで学校に通っていたというのなら、魔術が何たるかは知っているな?」



老人の口振りになにか大層な秘密が語られるのでは、と身構えていたセンリは少し拍子抜けしながらも魔術学校で習ったことを反芻する。





**





魔術。


曰く、奇跡。曰く、人が至った境地。


あらゆる事象を自身の魔力を持って再現、操作するそれは、魔術師以外の人間から見れば人智を超えた理不尽な力にも見えるかもしれない。


だが、魔術を扱うものであれば、誰でも1度は聞いた事がある言葉に、

「魔術とは、買い物だ」

というものがある。


初めて魔力を用いた魔法陣を体系化させた魔術師が「魔法陣」の在り方を説明する際に使った言葉とされているが、多くの権威ある魔術師は、この言葉こそが魔術の本質を表している、と口を揃えて言う。


買い物。

当たり前だが、まず金を持っていなければ買い物など出来ない。

そしていかに多くの金があろうと、“売っていないもの”を、買うことは出来ない。


つまりは、魔術とは人の身の丈にあったものでしかなく、世界の法則を超えて何かを行う事は出来ない、と暗に伝えているのだ。


ただ、ここで言う世界の法則、というのは相対性理論だとか、万有引力だとか、そういうものでは無い。

いや、全く関係がない訳では無いが、それらを成り立たせているより根本的なルールが存在するのだ。


魔術をもってしても超えられない、むしろその法則があったからこそ魔術が成立する、とも言われる世界の性質のようなもの。


それは「辻褄(つじつま)を合わせよう」とする、というものだ。


こういうと難しく聞こえるが何もそんなに大したことではない。


例えば、火が燃えるには燃料がいる。水は飲めばなくなるし、1km先の学校に瞬間移動は出来ない。


ただ、それだけの事だ。


燃料もなく火は燃えないし、無限に水が出てくる壺はないし、移動するにはその分を歩かないといけない。


つまり、過程がなければ結果は生まれないのだ。


そして、そういう意味で、魔術は結果のみを生み出そうとする技術だ。


かつて人は、過程も燃料も無視して「火が燃える」という結果だけを生み出そうと発想したのだ。


しかし、世界の性質である「辻褄合わせ」が魔術を完成させる最大の壁として立ち塞がったのだ。


しかし人は諦めなかった。

それほどにまで結果のみを求める魔術という概念は人にとって魅力的なものだった。


故に人はなんとかして魔術を完成させるようと、千年を越える研鑽を積み上げたのだ。


そして、それは発見された。


『魔力』


それはこの世界のあらゆる物に宿る不完全ゆえに万能のエネルギーであり、先天的に人にも宿り、ある程度の条件を満たせば誰にでも操ることのできるものだった。


そう、機械や道具を必要とせず人間単体のみで。


故に人は魔力を結果のみを生み出す魔術のための対価として利用することを決めたのだ。


そこからもまた長きにわたる研究の積み重ねだったが

しかしとうとう人類は奇跡を開発した。


魔力を用いてあらゆる結果に対する世界の「辻褄が合わせる」術を。


そして、これをさらに一般的な()として技術化されたのが今日の魔術で使われている、いわゆる魔法陣だ。


最初に言った魔術を買い物、という例えに則って言えば、

魔法陣を欲しい物リスト、魔力が金とすれば、分かりやすいかもしれない。


ようは、世界を相手に事象を買い物しているようなものだ。


ただ、ここまで魔術が浸透し一般的になった今でも魔力には未知の部分が多い。

いや、万能のエネルギーである、ということ以外ほとんどわかっていないと言ってもいいだろう。


だが、一つほぼ確かと言われているのは、ここにも「辻褄あわせ」が働いているのかは定かではないが現在、人間の魔力容量はほぼ均一だという事だ。


そして、これは人類は魔術に対してかなり平等的な才能を持つことを示している。

魔術を習う上では誰でもスタート地点は一緒という訳だ。


では何が魔術師の優劣を決めるのか。


それは魔法陣の“知識”と、魔力回復量だ。


そして、知識は学べばいいが、魔力回復量はそうそう鍛えられるものじゃない。


だから、魔術を上手くなりたいのなら、この学校で知識をつけるのが手っ取り早いのだから真面目に授業を受けるように。





**





たしか、こんなようなことを入学当日に言われたはずだ。

心構えみたいなものも多分に含まれていたが、魔術の基本としてはこれが正解だろう。


そう考え、老人にほとんどそのままを伝える。


「…ああ。その通りだ。魔術に関してはそれで問題ない。

では次が本題なのだが、お前さん、魔法が何たるかを知っているか?」


…ん?


「魔法?」


「そう、魔法。…やはり知らんか。」


こちらの表情をみて、どうやら魔法に関しての知識は全くないと判断したらしい。


「いや、いいのじゃ。おそらく最近の魔術学校ではその話は出ないだろうからな。」


ああ。少なくとも俺が学校で聞いた授業や話の中に“魔法”という単語が含まれたことはなかったはずだ。


「…で?その“魔法”とやらはなんなんだ?」


聞くからに魔術の近縁の予感がするのだが。


「ああ、“魔法”というのは…まあ大雑把に言ってしまえば、辻褄合わせの法則を超えた魔術なのだよ。」


辻褄合わせの法則を超えた魔術??


「ああ。故に魔法の力は凄まじい。何せ、なんでもありな訳だからな。」


…確かに。

現状、魔術に制限があるとすればそれは魔力容量の限界と「辻褄合わせの法則」の中でしか運用できない、という二点だけだ。


そのうちの「辻褄合わせの法則」を越えられるのだとしたら…少なくとも魔法に不可能は無いに等しいだろう。


「で?その魔法ってのが奴らの言うところの“禁忌”なのか?」


「違う。いや、違いはしないのだが…話は最後まで聞け。」


怒られてしまった。


「まったく。続けるぞ?この魔法というのは非常に強力ではあるのだが…無論辻褄合わせの法則を超えるためにはそれ相応の代償がいる。」


…だろうな。想像はしていた。

でなければ魔術ではなく魔法の方が普及していたはずだ。

そうならなかったのは魔法には何かしらのデメリットがあるから。


「魔術とは、魔力を使い成すものだ。だがな、魔法というのは…魂の力をもって成すのだ。」


「…つまり?」


「魔法は、寿命を削る。」


なるほど。

これは確かにとんでもないデメリットだ。

魔術なんかとは比べものにはならない。


「そして、この性質を利用し、生み出された最悪の魔法が存在する。」


最悪の魔法。


「人の魂そのものに魔法を縫い付け、人が生きている限り永久に発動し続け、魂の力を削り続ける最悪の魔法。

それこそが“呪い”。

奴らの言うところの“禁忌”じゃよ。」


…は?


「な、なら禁忌に触れた者って言うのは…」


俺の言葉にゆっくりと老人が頷く。


「お前さんの魂には、呪いがかかっているのだ。」


「…つまり俺が魔術処刑で生き残れたのは…」


「“呪い”じゃろうな。」


まあ、そうだろう。

今思い返してもあの青い炎の中生き残れたのは異常だ。

呪いと言われても頷ける。


「それにお前さんのその魔剣やら見知らぬ魔術やらも“呪い”の力だろう。」


でしょうね。

ただ、こうなってくると流石に不安になる。


「己の寿命、か?」


こちらの表情を読んだのか老人が訪ねてくる。


そう。もし俺の魂にそんな何個も“呪い”が刻まれているのなら、俺の寿命は相当に削られているはずだ。


果たしてどの程度生きられるのか。

いや、だが、想像するに…


「薄々は勘づいているじゃろうがわしが思うに、お前さんは死なん。」


平然とした顔で老人は答える。


「…それは、やはり」


「ああ。お前さんを先程の処刑から助けた呪い。それの名はおそらく“不死”だ。」


“不死”

名前のまんまの呪いなのだろう。

つまりは、死なない。


「かつてお前と同じように禁忌に触れ、魔術処刑された者は多くはないが別にいない訳では無い。

中には“自動再生”を持つ者もいたらしい。だが、この処刑を受けた者は呪いを持っていようと必ず死んでいる。

…お前さんを除いて、な。」


改めて獄級魔術の恐ろしさを感じる。

そして、それこそが俺の持つ呪いが“不死”である、ということの証明なのだろう。


「あとお前さんが受けた呪いは“全知”と“呼象”だろな。」


意識的思考から情報を得られる呪いと、その事象を「呼ぶ」ことで自身の周囲に具現化される呪い。


と老人は続ける。


前者は、頭に情報があふれるアレだろう。後者は、『神罰刀 ギャラク』やら『アガネの守院』を呼び出したアレだ。


どうやらこの老人は、魔術処刑と先程からの戦闘の様子からこちらの呪いを的確に把握したらしい。


…なんて、言うとでも思っているのだろうか。


「さて、他に聞きたいことは…」


老人の言葉が途中で止まる。

それは無論、俺が『アガネの守院』を解き、老人に向けギャラクを構えたからだろう。


「…なんのつもりだね?

この程度、脅しにもならないと先の戦闘で十分に理解出来たはずだろうに。」


まあ、そうだろう。

あれだけの身体能力を持っているのだ。

この程度は脅しにもならない…その通りだ。


だが、この状況で尚、手に持つ刀の鞘を抜かないことに、少し苛立ち、ギャラクはそのままで老人に尋ねる。


「なあ、爺さん。

どうしてあんた、この場所が分かった?」


そう、初めからおかしかったのだ。

なんで、ここに、人がいる?

いや、むしろなんでそのこと(・・・・)に今の今まで気が付かなかった?


老人はこちらを見つめたまま、何も言わない。


センリは続ける。


「なんで俺が“禁忌”について知りたいとわかった?」


“禁忌に触れた大罪人”として俺は処刑されそうになっていたのに。


「なんで俺にかかっている“呪い”をそこまで的確に知っている?」


“不死”と“呼象”はまだしも“全知”など知る由もないはずなのに。


次々と疑問符が湧き上がってくる。

なんでこれまで不思議に思わなかったのか、それすら不思議な事に気がついていく。


ああ、思考にかかったモヤが晴れていくようだ。


そうだ、そもそも。

なんで俺はこんな得体の知れない老人(・・・・・・・・・)と和気あいあいと話し、その言葉を信頼している?


先程まであれほど恐ろしかったのに。


第三王都にいた時まであれほど復讐を心に誓っていたのに。

そうだ。理不尽な処刑を止めなかったこの国そのものにさえ殺意を持っていたのに。


なぜ?


その問いが自分の真ん中に落ち、やがてひとつの答えが浮かび上がる。


…警戒心が、老人がこちらに話しかけてきてからの警戒心が機能していなかった。


「なあ、あんた、俺に何をした?そもそもお前、何者だ?」


改めて、問う。


老人は何も答えなかった。

ただ、目を逸らし、口の形を歪め、ただ一度ため息でもつくかのように


「ふっ。」


と笑った。


そして、「薬も長くは持たなかったの」とボソリと呟き、こちらに向き直った。


そこに、もはや好々爺の面影などなかった。


あるのは歴戦の戦士たる近衛騎士団元団長としての、恐ろしく寡黙でそれでいて身体からフツフツと湧き上がるような怒りを堪えているような、そんな顔だった。


「まさか数時間とたたず抜け出すとは、なかなかのタイムじゃ。」


抜け抜けと老人は話す。

褒めているのに全く褒めていないような。

癇に障る話し方だった。


「何の話だ?」


「いや、なんでもない。こっちの話じゃよ。しかし…」


上目遣いでこちらの構えを見ると


「笑えるくらいに甘っちょろいのう。」と呟き、突如センリの視界は反転した。


(…は?)


一瞬遅れて息の詰まるような衝撃がやってくる。


「ぐぇっ」


たまらず声が出た。老人が上に跨り、ようやく自分が体術か何かで地面叩きつけられたのだと理解した。


老人は跨ったまま刀を抜き、センリに突きつける。


「それで?聞きたかったのはあれだけか?」


数秒遅れて、あれ(・・)というのが先程老人に尋ねた質問だと気づく。


「まあ、何を聞かれようと答える気は無いんじゃがな。

ただまあ一つ忠告するとすれば儂の話に嘘はない。

お前さんの呪いについても、な。」


刀を突きつけられながら言われても説得力がない。


「信用…できるかっ!」


地面に押し付けられた状態でなんとかそれだけ声にする。


「まあお前さんが信用しようがしまいが儂には別にどっちでも良い。」


「…俺を殺すから、か?」


そう呟くと、老人はまるで不思議な生き物を見たかのように目を丸くし、大笑いした。


「ほっほっほっ、面白いことを言うやつじゃな。儂はお前さんを殺す気は無い。」


…刀を突きつけられながら言われても説得力がない。


「なにせ、不死を持つお前さんは殺せんからな。」


…確かにその通りだ。

ダメだ。

自分の呪いに関して全く意識が回っていない。


「じゃがまあ、その事を知らん王国の奴らはお前さんをどうにかして殺そうとするだろうがな。」


一瞬、目の奥に青い炎が見えた気がした。


「…ちっ」


嫌なことを思い出させやがる。


「まあ、儂はただの傍観者じゃ。

故にこれは野次のようなもの。

信用の有無などどうでもいい。」


「…どういう意味だよ」


「知らんで良い。」


ばっさりとこちらの質問を切り捨てるとようやく俺の上から退いた。


「さて、あとお前さんに伝えねばならないのは三つだな。」


「…ああ?」


変な体勢で地面に押し付けられたせいで上手く立ち上がれずにいる俺に向かい、老人は言い放つ。


「この洞窟はしばらくは安全だ。落ち着いたら西の城塞都市に向かえ。同胞と師が見つかるはずだ。最後に、」


「なんでそんなこと…っ!

おい、こら…待て!」


洞窟の出口に向かいながら話す老人を呼び止める。

無論、老人の歩みなど止まりはしない。


「魔力の回復量の増やし方は、覚えておるかの?」


魔術師の優劣を決める、もう1つの要素。

魔力回復量。

…その、増やし方?


「…はあ?」


老人の消えた洞窟内に、俺の間抜けな声がこだました。

読んでいただきありがとうございます。

感想などありましたら是非コメントしてください。



最後少し無理矢理感が拭えなかった気がしますが、とりあえずこれにてプロローグは終了です。

次回間話を挟み、第一章へ入ります。


次話は明後日中には出したいと思いますので、またよろしくお願いします。

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