2話 殺意の源泉 ①
長くなりそうだったので、二分割して先に投稿します。
(ああああああああぁぁぁ!!)
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
全身が、痛い。熱い。熱い?
その途端、全身の感覚が覚醒する。
「ぎゃあああああああああああぁぁぁ!!!」
炎で口の札が燃やされ、声が出るようになったらしい。
知るか。そんなこと。
「痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!」
肌が焼けて、全身に痛みが走る。
目の水分が蒸発して、気が狂いそうな痛みがつんざく。
熱せられた空気が肺に入り、焼けるような痛みが内側から体を突き破る。
「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
地獄だった。痛かった熱かった苦しかった辛かった悲しかった。
そして、訳が分からなかった。
猛烈な苦痛の中でも、理解できる。
これはおかしい。
(どうして…まだ…死…んで…ない?)
全身にはまだ痛みが走っている。
それでも、思考を続ける。
そうでもなければ、この地獄の苦痛でおかしくなってしまいそうだから。
ガシャンッ!
括りつけられた板が消し炭になり、魔封鎖が外れる。
(体…は…?)
痛い。痛いが、腕は動く。
足も動く。
痛む目を体に向ける。
肌が焼け焦げているのが見えて、吐いた。
焼けた喉が悲鳴を上げる。
涙が溢れる感覚がして、それもすぐに乾く。
「や"…め"ろ"…」
掠れた、声とも言えない声が出る。
当然、誰にも届くはずのない声が。
…ああ、ダメだ。
激痛で意識が霞む。
(…ようやく、死ぬのか。)
この痛みを味わい続けるのなら、その方がマシだった。
黒く塗りつぶされていく意識は、今の俺にはもはや救いになり得た。
だが、意識が完全に消えるその前に、青い炎の方が消えてしまった。
「ぐっ…あ"。」
黒塗りの意識が鮮明さを取り戻していく。
…生きている。
(良かった…)
死ななくて。
何も知らずに終わらなくて、良かった。
安堵感が、胸に広がる。
この時は、助かったのだと思っていた。
偶然と、奇跡と、運命の悪戯で、神様のような存在が俺を生かしてくれたのだと。
…そんなはずがなかった。
「あああっ!!」
近くで、声がした。
俺を焼いた魔術師の一人が、俺を見て、その生存を知り、叫び声をあげていた。
「い、生きてるぞ!!大罪人が!まだ生きている…!!」
魔術師の叫び声を聞いた大司教が半狂乱になって大声で喚きだした。
「や、やはり、やつは悪魔だ…!!
焼け!獄炎だ!もう一度、やつを焼け!
殺せぇぇ!!!!」
その声で魔術師たちがバタバタと動き、再び持ち場に着く。
俺の下にまた魔法陣が展開される。
それだけで、あの痛み、あの地獄を思い出し、俺の目に涙があふれる。
「やめろ…やめて……くれ……」
焼けてボロボロの喉の痛みを堪えながら、何とか声を出す。
だけど。
もちろん、俺の声など届かない。
「やれぇぇぇ!」
大司教の声を合図に、魔法陣が、赤く光る。
再び、青い炎が俺を包む。
「ぎゃあああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!」
また、地獄の痛みが俺を襲う。
絶え間なく、徹底的に。
「ああああああああぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あまりの痛さにのたうち回る。
なのに、まだ、死なない。
意識がある。体も動く。
「ふっ、ぐっ…っっっ!」
体を丸め、息を止め、必死に痛みに耐え、熱さに堪え、それが不可能だと何百回も悟った頃。
ようやく、2度目の青い炎が消える。
「っ!…ぐっ、はぁ、はぁはぁ…」
止めていた息を吐き出し、必死に酸素を吸う。
吸った酸素が素直に肺を満たす。
そこで、ようやく、俺は気づいた。
(か、身体が…)
再生されている。
青い炎により負った喉の火傷の痛みがない。
身体中の、肉がただれ骨が見えるかと思えるような深い火傷が、今にも消えそうだ。
「あ、ああああああああ!」
それを理解した途端、とてつもない不快感が俺を襲った。
自分の体なのに自分のものでないような、なにか別の、知らない何かに変わってしまったような、そんな感覚。
──きもちわるい。
また、吐いた。
ついさっきにも吐いたせいで、ほとんど何も出なかったが、口の中にツンとした酸っぱさが広がった。
「まだだ!まだ生きている!!」
涙の滲む視界の中でまた大司教の叫んでいた。
「もう一度だ!!今度は氷だ!焼いて死なぬのなら氷漬けにしてしまえ!!」
「や、やめろ…」
必死に、声を出そうとする。
直前に吐いたせいで、上手く喋れない。
それでも、必死に願う。
届かないことくらいわかっているのに。
まるで神様にでも縋るように、必死に願う。
「やめて…やめて…くださ…い…お…ねがい…します」
もうあの痛みを味わいたくはなかった。
あんな、生きていることを後悔するような苦しみはもう嫌だった。
それにさっきは、一度味わった青い炎だったからまだ耐えられたのだ。
氷など、耐えられるはずもない。
それに氷漬けでは、終わらない。
氷の中で、死の苦しみ味わい、それでも死ねずに再生され、ただただ地獄のような苦痛を何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も…
「あ、あああ…」
涙があふれる。
声にならない叫びが頭にこだまする。
俺が、一体、なにをした?
なんでこんな目に遭わなくちゃいけない…?
(たすけて…)
何度目かも分からない懇願の心の声。
答えてくれる者が居ないことなど、とうに知っている。
分かっている。
(「目を覚ませ。」)
そうだ。
なら、こんな懇願は、無意味だ。
いつまで現実逃避をしているつもりだ。
苦痛でおかしくなったんじゃないか?
いや、なりそうだったのか。
まずやるべきは、逃走。
誰も助けてくれないのなら、自分で、どうにかするしかない。
(…生き延びる。しっかりしろ!!)
パンッ!!
両頬を思いっきり叩く。
当たり前に、痛い。
でも、それは、さっきまでの苦しく、虚しく、どうしようもない痛みじゃない。
この痛みは、決意だ。
未だに訳は分からない。
どうして俺が大罪人で、処刑されなければならないのか、理由はわからない。
それでも、俺は、生き延びる。
あんな苦しみはもういい。
それに…
(「理不尽に、挑め。怒れ」)
…この痛みを与えてくれたお礼はしっかりしなければならない。
地獄の苦しみは、相応の報いと共に返させてもらう。
二度殺されかけたのを考えれば、一度しか殺せないのは残念極まりないが、まあ、そこは妥協しよう。
仕方がない。
これはどうでもいい私欲なのだ。
それでも、俺は、それを、やる。
わがままで何が悪い。
…あの魔術師共を、大司教を、そしてこのふざけた処刑を俺に科した奴を、ぶっ殺す。
(「お前はただ望めばいい」
「それだけでお前の手には全て揃う。」)
曖昧な記憶のなかで、誰かの声が語りかけた。
思い出したのではない。
これは、本能だ。
身のうちから湧いて出るこの止めどない殺意に答えるには、奴らを殺す術がいる。
そのために必要な記憶を、本能が、呼び覚ましたのだ。
表面的な記憶の混濁など意味をなさないほどの殺意を糧にして。
(武器がいる。奴らを殺せるだけの、武器が。)
(なんでもいい。武器が必要だ!)
「があああぁぁ!」
気持ち悪い。
頭が割れそうだ。
知りもしない情報が脳に溢れる。
この世界の、殺傷能力を持つあらゆる武器の知識が、溢れる。
(「さあ、選べ」
「何をどう選ぼうが、お前の自由だ!」)
(なんでもいいって…言ってんだろ!!)
適当に、思い浮かんだ物の中から武器を選ぶ。
瞬間。
ゾワァァ。
右手の辺りで言い様のない魔力の動きを感じる。
それこそ、背筋に悪寒が走るほど不気味な魔力。
光る粒子となって人の目に写るほど濃厚にあつまったそれは、やがて一つの形を成し、俺の手に収まる。
光り輝く美しき魔剣。
稀代の名工と謳われたアバニ・シェルトが友人の大英雄がために打ったと言われる名刀。
その名を『神罰刀 ギャラク』
なぜ知っているか。
無論、俺がそれを選んだからだ。
「…あああ、ああ、あれが、あれこそが禁忌だ!!呪われし力の一端だ!!!」
震えながら、大司教が喚き散らす。
「魔術師共!
あの禁忌の体現者を破壊しろ!殺せぇぇ!!」
杖を振り回し、涙目になりながら魔術師に指示を飛ばす。
…あんなのに殺されかけたのか。俺は。
(「殺せ」)
まずは、アレからだ。
罪なきを罰すこの世界へ。
さあ、始めよう。
──復讐だ。
読んで下さりありがとうございます。
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三話は明日の9時に投稿予定です。