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2/6

彼女と、また少しだけ話しをしました。


「あれ、いたんだ〜?」


 昼休み終了5分前のチャイム。

 それを聞いて立ち上がった彼女は、こちらを見上げて今日もふんわりと笑った。


「いたよ」


 同じ音を聞いて、寝そべっていた非常階段の二階にある踊り場から身を起こしていたので、彼女に向かって軽く手を振ってみせる。


「いつも見かけなかったのは、寝てたの〜?」

「そうだよ」


 ーーーまぁウソだけどな。


 ここで横になったのは、今日が初めてだ。

 昨日みたいな不意打ちでなければ、彼女がこちらを見上げるようなタイミングで隠れていただけである。


 しかし別にそんなことを伝える必要はないよな、と思った。


 一人の時間が好きなら、話しかけて邪魔をされたくもないだろうし、変にからんで彼女がこの場所に来なくなっても、それはそれで困るような気がしないでもない。


「そこ、気に入ったの〜?」

「誰も来ないし、静かだからなぁ。……イヤなら、別のとこ探すけど?」


 ちょっと探りを入れるつもりで、そう口にしてみた。

 姿が見えなくてもそこにいられるだけでイヤだ、と言われたら、多分けっこうショックではあるのだけども。


「ん〜?」


 問いかけに、彼女は人差し指の先を軽く唇の下に当てた。

 今日は茶色の髪を白いシュシュで後ろにまとめており、少し清楚に見える。


 ーーーやっぱ仕草が綺麗なんだよなぁ。


 軽く眉をハの字にして、少し上目遣いに考えている顔も可愛い。

 いつもならつい見とれてしまうけど、今は返事に対する緊張のほうが優っていた。


 少しして、彼女がまたのんびりと口を開く。


「イヤ、ではない、かなぁ〜?」

「なんで疑問形なんだ……」

「よく分かんないけど、そこにいて欲しくな〜い! とかは思わないし……もしイヤでも、私が言うことでもない気がするから〜」


 ますます首をかしげる彼女に、少しモヤモヤしながらもホッとした。


 まぁ、言われてみれば許可を取るのもおかしな話ではあるのだろう……勝手に彼女を先客だと思っているのは自分のほうだし、彼女の部屋の中にいる、というわけでもないのだ。


「それにさ〜」

「な、何?」


 まだ何かを続けようとする彼女に、思わず聞き返した。

 少し食い気味だったかな? と返事をしてから気づくが、彼女のほうは気にしていないようだ。


「気を使わないで自分勝手な人は、わざわざそんなこと、聞かないと思うから〜」


 後ろに手を組んで軽く前かがみになり、にっこりと笑う。

 暑いからか、第二ボタンまで開けているので上からだと白い胸元が見えそうになり、慌てて目線をそらした。


 ーーーわざとやってんのか?


 いや、それは自意識過剰すぎる気がする。

 普段のノリから言えば、指摘したら多分、彼女は赤くなるんじゃなかろうか。


 変態扱いされたら丸一日凹む自信があるから、絶対に言わないが。


「いや、それくらいは普通に聞くだろ?」

「え〜、聞かないと思うよ〜?」


 優しいね〜、と笑う彼女に、どう反応していいか分からなくなる。

 別にそういうつもりは微塵もなくて、単に迷惑だと思われていたら自分がイヤだから、聞いたってだけの話なのだ。


 ーーーでも、褒められた、のか?


 それに嬉しさを感じてしまったので、慌てて軽く頭を横に振って気持ちを追い払うと、照れ隠しに少し意地の悪い言い方で反論してみる。


「し、小説書いてんなら気が散るかと思ったんだよ。俺読書感想文とか書くの苦手だしな!」


 話しかけられなくても進まないのに、話しかけられたらますます進まないだろう。


「ふえ!?」


 俺の言葉に、彼女はめちゃくちゃ慌てた。

 即座に頬を赤くして目線をさまよわせた後、軽く頬を膨らませる。


「し、小説を書いてるんじゃなくて、読んでるだけだってゆったでしょ〜!?」

「へー。じゃあ今度オススメの小説とか教えてよ。俺でも読めそうなやつ」


 余裕こいたフリでニヤけてみせるが、少し早口になった。

 怒らせていたらどうしよう、と思ったからだ。


 が、あまりにも普段クラスメイトに求められるノリで話したせいで、この言葉自体も嫌味っぽいというか、バカにしたように聞こえただろうか。


 彼女の表情が、少しくもる。


 ーーーやべ。やっちまった?


 先ほどよりも強く、心臓が跳ねる。

 が、続いた彼女の言葉でホッと力が抜けた。


「読めそうなの……考えとく〜」

「あ、マジで?」

「どういうのが読みたいの〜?」

「えっと……」


 問いかけられて、普段小説なんか読まないせいで答えに詰まっていると……そこで、チャイムが鳴り響いた。


「やっべ!」

「あ〜! 授業始まっちゃう〜!」


 慌てて立ち上がる間に、彼女は先に駆け出していた。


「薄情だなオイ! どっちにしたって遅刻だろ!?」

「私のほうが足遅いも〜ん!」


 ワーワー言いながら教室に戻り、結局二人して注意され、ついでにクラスメイトに詮索された。


 一緒にいたわけじゃねぇ、と突っぱねたが。


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