覚醒の儀とそれから①
目を開けるとそこは見覚えのある空間だった。
「はあ、久しぶり会うのに隠れたりすんなよ」
声をかけると何もなかった場所から全神が現れる。昔の俺ならまったくわからなかっただろう。
「あはは、やっぱりバレちゃったか」
「当たり前だろ、転生前の俺じゃないんだから」
「うんうん、君も成長したよね。偶に覗いてみてたけどあそこでの生活も楽しそうでなによりだよ」
全神と他愛ない話をしていると一人忘れていたことに気付く。
「そういえば剣神はいないのか?」
「僕はここだよ」
尋ねた直後、俺の後ろから剣神が現れる。
「久しぶりだな」
「かなり気配察知も上手くなったけどまだまだだね」
「いや、さすがに神と人間じゃ差がありすぎるだろ」
「ん……?あぁ、そっか、そうだね」
なんかその反応気になるんだが……。
「いや、気にしないでいいよ」
「そう言われてもな……」
「そんなことよりさ、君も転生してから本気で戦ったりしてないだろ?君の成長を見せてくれよ」
追求しようとすると話を逸らしてくる。これ以上聞いても答えそうにはないな。それならお言葉に甘えて今の俺の実力を確かめさせてもらおう。
剣はすでに空気となっている全神が用意してくれているのでお互いにそれを持って離れる。俺達は剣を構えて向かい合った。
最初に動いたのは俺だった。俺は瞬歩を使って剣神に迫る。そこから繰り出すのは刺突。最短距離を真っ直ぐ進み剣神の胸元へ突き刺さる……ことはなく、剣の腹で受け止められてしまう。だがそうなることはわかっていた。俺は踏み込んだ足を更に踏み込み、相手の剣を貫く勢いで受け止められている剣で再度刺突を繰り出す。
これは連槍という技で最初の刺突と万が一最初の刺突を受けられた際に保険としてある二度目の刺突の二段構えになっている。予期していなければ避けられないはずのこの攻撃を剣神は難なく躱す。
「なかなかやるじゃないか」
「あっさり躱しといて何言ってんだよ!」
こんな軽口を叩いている間にも攻防は続いている。俺の連槍を躱した剣神はそのまま回転し、首を斬りにかかってくる。俺はそれを受け流すことによって回避する。受け流す際、剣神の剣を大きく上に弾いたので次の攻撃は防げないだろう。
流撃、この技は回転しながら相手を斬る技で、その連撃に終わりはない。止めるには受け止めるか俺が止めるかのどちらかだけだ。それに対し剣神は片手で俺の剣を掴んで止めてくる。俺は即座に剣を捻って距離をとり、剣を鞘にしまう。次に俺が繰り出すのは今使える技の中で最速の技、瞬光。身体の力を抜いた状態から一気に力を入れて斬る居合い切りだ。これは瞬歩よりも圧倒的に速く、もしかしたら光の速さにも届くかもしれない。
しかし、そんな技も剣神には躱されてしまい、剣神の服を少し斬る程度だった。だが剣神はそれに満足したようで構えを解き剣を鞘にしまった。それから俺に声を掛けてくる。
「うんうん、本当に強くなったね」
「全然当たらなかったけどな」
「逆に剣神である僕に一撃入れかけたんだから喜びなよ」
「入れかけただけじゃん」
「あのー……そろそろ空気辞めていいかな?退屈なんだよ」
剣神との会話に若干不機嫌な全神が混ざってくる。
「あ、全神いたのか」
「君全然変わってないな!?少しは僕に対する態度が変わるかと思えば……」
「そういえばお前、転生する直前に俺の性格が変わるかもとか言ってたよな」
「あーそうだよ。自覚は無いかもしれないけどねー」
不貞腐れたまま全神がそう言ってくる。こうなったらしばらくはあのままだ。しかし俺はこれをすぐに元に戻す方法を知っている。だがなんとなく嫌なので放置することにして、剣神に話を振る。
「なあ剣神。俺を此処に呼んだのは成長を見るだけじゃないだろ?」
「その通りだよ。だがそれについては彼から話してもらいたいんだが……」
そう言ってチラッと全神を見てから小さくため息を溢す。
「まあほっとけばそのうち寂しくなって自分から来るからそれまで待っていようか」
「寂しくなんてならないよ!君は僕をなんだと思っているのさ!それにラウルも納得したような顔するなよ!僕は見た目は子供だけど年齢は一億歳はいってるんだぞ!」
剣神の発言に腕を振り上げて怒りを表す全神を見て子供っぽいと思うがそれは言わないでおこう。
「わかったから、そんなに怒るなよ」
「君はお母さんのお腹の中に敬意とか感謝とかの気持ちを置いてきたんじゃないかな……」
「そんなことは無いぞ。一応お前にも感謝はしているし」
「ああそうかい。もうさっさと本題に入るよ。君と話していると脱線してしょうがない」
それ俺だけのせいじゃない気がするが……。
「君を再び此処に呼んだのは君に自分の魔法属性を選んでもらうためなんだ。あの時聞き忘れちゃってね。自由に選んでいいよ。ただし一つだけだし適正は1しかあげられないよ」
「いや、別に魔法なんて使わなくていいんだが」
俺は剣士になりたいのであって魔法剣士にはならなくていいんだよな。適正も1しかないなら役に立たないし。それに俺は魔力の強化も戦闘中はしてなかったし。
「それもそういうわけにはいかないんだよ。ディスティアでは獣人以外の全ての種族が何かしら魔法の適正があるのが当たり前なんだ」
「えぇ……そうだっけ」
「なんだよその面倒くさそうな顔は!面倒くさいのはこっちだよ!わざわざ君をここまで呼んでさあ!結構疲れるんだよ!」
いや、それなら前なんて数万年分くらいいたけど平気そうだっただろ。
「あの時は君は魂だけだったからね。でも今は生身の身体があるから勝手が違うんだよ。だから早く決めてくれ」
「じゃあ雷でいいよ。なんとなく使えそうだし」
「なんかありがちだけどまあいいよ。雷でいいんだね。あと、君のガールフレンドだけど魔法の適正10あるんだけどそれバレると騒がしくなるだろ?だから本人と特別に恋人である君以外には認めた人以外見えなくしておくからそこんとこよろしく〜。じゃ〜ねぇ〜」
「は?おい、ちょっ!そういうの先に言えって!」
突然の情報に動揺してしまうがその間にも容赦なく意識は遠のいていく。次会ったらあのにこやかに手を振っている奴をしばくことを誓ったところで俺の視界が白から黒へ変わる。
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ラウルが消えた後、全神が一言溢す。
「彼も変わったねえ。やっぱり彼女のおかげかな」
その言葉に剣神は「そうだね」と返し続けて全神に尋ねる。
「でも良かったのかい?あの|«··»ことを教えなくて」
「うん、彼は優しいからね。今教えたら絶対無理をする」
その言葉に剣神は少し驚いたような声を出す。
「君がそこまで肩入れするなんて珍しいこともあるもんだ」
「それをいうなら君もさ。あんなに熱心に教えるところなんて初めて見たよ。もしかしたら今の時点でも彼とまともに戦える者はディスティアでは数人くらいしかいないかもね」
全神がそう言うと剣神は思い出したように先程ラウルにつけられた傷を見せる。
「そうだ!見てくれよ!彼、僕に傷をつけたんだ!」
剣神の発した言葉に驚愕の表情を見せながら彼の指差す箇所を見てみる。
「そんなバカな……」
全神は信じられないようで剣神の服を確認するが、確かに傷はついている。
「僕もびっくりしたよ。やっぱり彼はただの人間ではなくなってしまったかもね」
剣神がそう考えるのにも理由がある。神というのはそのままその姿で生まれるものである。つまり全神や剣神が着ている服も彼らの身体の一部のようなものなのだ。そして神を傷つけられるのは同じ神かそれに近しい存在しかいない。つまりラウルは神に近い存在になりつつあるということだ。
しかし全神にもなぜラウルがそうなったのかもわからない。全神は何が原因か、それによって何が起こるのか微かに恐れつつも興味を抱いていた。そして全神は先程まで彼のいた場所を見つめながら小さくつぶやく。
「君はいったいどこまで行くんだろうね」
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