死んでそれから
初投稿です!よろしくお願いします!
最終下校時刻の10分前を知らせるチャイムが学校中に響き渡る。
「では今日の練習は終わりだ。各自家で自己反省をしてくるように!」
それと同時に剣道部顧問の声が部活動の終わりを告げる。
「はー、やっと終わったぜ。悠人、お前はこの後普通に帰るだろ?」
更衣室で着替えながら俺に話しかけてきたのは杉山蒼汰。黒髪短髪で身長が180センチ以上あるイケメン君だ。こいつとは幼稚園の頃からの付き合いで、俺の数少ない友人の一人でもある。
「まあな、今日は疲れたし早く帰ろうぜ」
「おう!」
道場を出て真っ直ぐ校門へ向かう。既にほとんどの生徒は帰っているようで辺りには誰もいなかった。
俺と蒼汰は家が隣同士でクラスも部活も同じなので大抵一緒に帰っている。
「しっかしお前もよく続けるよなあ」
「何がだ?」
「剣道だよ。だってお前別に剣道がしたかったわけじゃないだろ?」
「お前よく覚えてるな……」
そう、俺は小さい頃にアニメで見た剣士に憧れた。そして剣道という名前から剣を使うものだと思った俺は親に頼んで剣道の道場に入門させてもらった。当然、入って初日で自分の勘違いに気づきやめようとした。しかし、俺の両親がそれを許さなかった。「一度始めたら最後までやり遂げろ」と言われ、無理矢理続けさせられていた。今ではもう俺の生活の一部になっているが、昔は泣きながらやったことを覚えている。
「でもまだ剣士になりたいとか思ってるんだろ?」
「悪かったな子供みたいで」
「ちょっとだけな」
「おい。そこは思ってないって言うとこだろ」
「ははっ、でも関心だってしてるんだぜ?やりたくないことをずっと続けるなんて俺には無理だ」
「だったらなんで剣道を続けてるんだ?お前だって好きでやってるわけじゃないだろ」
「へへっ、俺はお前といれば何してても楽しいからいーんだよ」
蒼汰は俺が剣道を始めてすぐに「俺もやる!」と言って同じ道場に来て、それからも俺が道場を辞めて部活に入ったときも一緒に入部してくれた。俺にとって唯一といえる親友だ。
「俺もお前とは何してても楽しいよ」
「えっ、ちょ、もう一回言ってくんね?」
「絶対嫌だ」
「なんでだよー!久しぶりに悠人がデレたとおもったのに!」
「やかましい!」
まったく……。あんま柄にないことするもんじゃないな。
そうして歩くこと数分、家まであと半分というところまで来た。
「なあ悠人、なんか聞こえねえか?」
突然蒼汰がそんなことを言ってきた。
「いや、なにも聞こえない……」
「これは……悲鳴だ!」
「悲鳴?」
「ああ、こっちだ!」
蒼汰の案内で悲鳴の聞こえた場所へ向かうが、蒼汰が圧倒的に速く俺はどんどん引き離されてしまう。しかし、ここまでくれば俺にも声が聞こえたのでそれを頼りに進んでいった。
「やめてください!」
「うるせえ!静かにしろ!」
どんどん声も聞こえるようになっていき、その声を目指して走っていく。そして角を曲がった先で見たものは……
「うるせえのはてめぇだ!」
と叫びながら蒼汰が犯人らしき者に剣道部らしからぬドロップキックをくらわせている光景だった。
不審者は「グェッ!」と言いながら吹っ飛んでいった。蒼汰のやつ女の子のほうに当ったらどうすんだよ。
不審者の方は蒼汰に任せ、襲われていた人に事情を聞こうと思ったところでその娘が見知った顔であることに気づいた。
「佐奈か?」
「え?ゆ、悠人君?」
驚いたな、襲われてたのってこいつだったのか。
彼女の名前は入間佐奈、髪は黒髪のロングで俺と蒼汰は大抵学校で彼女を含めた他数人と一緒にいる。
「てかこんなとこで何してんの?」
「夕飯の買い出しに行く途中でいきなりあの人に腕を掴まれて……」
「なるほど、事情はわかった。もう大丈夫だから安心しろ」
「う、うん、ありがとう」
「助けたのは蒼汰だから礼ならあいつに言えよ」
「つれないなあ悠人君は。お礼くらいちゃんと受け取ってよ」
「ほっとけ」
二人でそんな会話をしている間に不審者を撃退したらしく蒼汰が戻ってきた。
「君、大丈夫だったか……って佐奈じゃないか」
「うん、助けてくれてありがとう」
「気にすんなって困ってたら助けるのは当然だろ?」
この時、俺達は完全に気を抜いていた。そのせいで不審者の男がナイフを持って走ってくるのに気付けなかった。
「邪魔するんじゃねええええ!」
男の叫び声でそれに気付いたが、蒼汰も佐奈も反応できていない。俺は咄嗟に男と二人の間に割り込んだ。
男の持っていたナイフが腹に刺さり鋭い痛みが俺を襲う。俺は男を逃がすまいと腕を掴むが、力が入らず振りほどかれてしまった。男は俺の体からナイフを抜き、狂気に満ちた顔をしながら走り去っていく。
「悠人!」
「悠人君!」
男が走り去っていく頃、ようやく事態が呑み込めたのか二人が俺に駆け寄ってくる。
なんか、すごく眠い。腹から出てくる血が温かい。でも体は寒い。俺は死ぬのか……。まあ、こいつらを守って死ぬんなら別にいいかもな。
「早く救急車を!」
「わ、わかった!」
「クソっ!しっかりしろ悠人!死ぬんじゃねえぞ!」
蒼汰が何か言ってるな……。でもなにも聞こえない。瞼が重い……。もう痛みはない。やっぱり俺死ぬんだな。
もし来世なんてものがあるなら剣と魔法の世界とかに行ってみたいな。そしてもし異世界に行けたら、またこいつらみたいな奴らと一緒にいたいな。
こうして俺は死んだ。
「と思ったんだが……」
なんだここ。周りは真っ白で何も無いし、壁も見えない。ここはあの世なのか?
「なに一人でぶつぶつ言ってるんだい?」
「うおっ!びっくりした。誰だお前」
いつの間にか後ろに身長150センチ程度で白髪の子供が立っていた。
なんだこいつ。
「ひどいなあ、僕これでも結構偉い神様なのに」
「神様?」
「え?なんだって?」
「だからお前は神なのかって聞いてんだよ」
「とんでもない、僕は神様だ……うわっ!」
「チッ、避けたか」
「いきなり殴ってくるなんてひどいじゃないか」
「お前がくだらないことしてるからだろ」
ほんとになんなんだこいつ。さっきの言葉からこいつが神だっていうのはわかったが、いまいち神様らしくないというかなんというか。
「ほんとにひどいなあ。僕はどこからどう見たって神様じゃないか。見なよこの僕の神々しいオーラを」
「いや、何も見えないから」
「ご、ごほん!それはともかくそろそろ本題に入ってもいいかな?」
「ああ、さっさと入ってくれ」
「なんかイラッとくるけど許してあげるよ。それじゃ改めて、僕は神様だよ。神に名前とかはないから好きに呼んでくれていいからね。それで、君を此処に呼んだのは君も察していると思うけど君には異世界転生をしてもらおうと思ったからなんだ」
まあそうだろうな。逆にここまでザ・テンプレみたいな流れで来たのに違かったらびっくりだよ。
「やっぱり驚かないかあ。最近地球の人間達だけリアクションが薄くてつまらないんだよねえ」
「他の世界でも異世界に転生するやつとかがいるのか?」
「うん?そりゃいるさ。世界っていうのはいくつもあるんだから。まあ今の君には関係の無い事さ。話を続けてもいいかな?」
「あぁ」
「君が行くのはディスティアという世界だよ。君の思う通り剣と魔法の世界さ。そしてこれもお決まりみたいなものだけど君には君の望む能力をあげよう。理由もお決まりだから省かせてもらうよ」
なんかすごい適当な気がするが今は気にしないでおこう。
「話はわかったが、そのディスティアについての情報とかは無いのか?」
「それは後で教えてあげるよ」
「わかった。じゃあ俺がその世界に行って何をしなければいけないのかを教えてくれ」
「実はそれもあんまり詳しくは言えないんだけど……言うなれば君の友達の為にもなることだよ」
「どういう事だ?」
「悪いけどこれ以上は言えないよ。時期が来たら教えるからそれまでは待ってほしい」
「納得はできないが……わかった。今はそれでいい」
「ありがとう。じゃあ早速どんな能力にす「ちょっと待て」……なんだい?」
「最後にこれだけは教えてくれ。どうして俺なんだ。世の中に死んだ人はたくさんいるだろ。なのになぜ俺なんだ」
「まあ、それくらいなら教えても平気かもね。君が選ばれたのはいくつか理由があるんだ。一つは君が死んだときに負の感情が無かったことだ。」
「負の感情?」
「うん、人って死ぬときは大抵自分が死ぬ原因とかに激しい怒りや憎悪を抱いたり死ぬことに対して悲しみや恐怖を抱くものなんだ。でも君にはそれが全く無かった。それが理由さ」
「なぜ負の感情が無いことが理由になるんだ?」
「え?それは僕がそっちのほうが良いなって思ったからだけど」
「そんだけかよ!」
こいつさっき一つはって言ってたが、他の理由も今のみたいに変な理由じゃないだろうな。
「安心しなよ。他はちゃんとした理由があるから」
「おい、ナチュラルに人の心読んでんじゃねえよ」
「それで二つ目だけど」
「無視かよ」
「まあ聞いてよ。二つ目は異世界願望があることだよ。君は死ぬ間際に異世界に行きたいとか思わなかったかな?」
「たしかに思ったが……それってそんなに重要なことか?」
「そりゃここまで呼んで断られたら面倒だからさ」
それってちゃんとした理由になるのか?ただこいつの都合にしか思えないが……。
「それで三つ目なんだけどこれが一番重要なんだ。それは君の通っていた学校……つまり成山高校に友人、もしくは恋人など大切な人がいること、だよ」
「おい、やっぱりあいつらに何かあるんだろ。一体何が起こるんだよ。それは危険なことなのか」
「だからまだ言えないんだよ。本当にすまない」
「これでもしあいつらが傷ついたりしたら絶対に許さないからな」
「そこは君次第だね。傷ついてほしくなければ強くなることだ。そして強くなる為にも君がどうなりたいかを決めるんだ」
上等だよ、異世界で誰にも負けないくらい強くなってやる。そして俺がどうなりたいかなんてとっくに決まってる。おれは……
「俺は最強剣士になる」
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