突撃野郎
「―戦場のほとんどは森林だ。常にまわりを確認しながら進行する。燃やすのも一つの手であるが、位置が特定されるかもしれないので、基本的に火は使わないことにする。」
と言ったのは、俺が配属された分隊の隊長である。名前は、共に生き残ったら教えるとだけ言われたので、今は知らない。
本陣はマベロ領の最果てにあり、敵の本陣との間にレナト森林がある。
先程隊長が言ったように、戦場のほとんどは森林に覆われている。
そして、俺達も出陣するときが来た。
隊長の合図とともに自陣の門から駆け出した。
―数分ほど走ると、レナト森林の入り口に着いた。
ここから先は、いつ死んでもおかしくない領域だ。
周りの兵は一切の躊躇もせず、中に入って行ったので俺も入ろうとした。
「待て!」
後方から声をかけられた。後ろを振り向くと隊長と同じ隊のメンバーがいた。
「あいつらは突撃兵だ。お前まで突っ込んでどうする」
「すいませんでした」
「―まあいい…」
早速失態を犯したが、そんな事を気にする余裕は無かった。
少しの間沈黙が通り過ぎていく…
「―うわぁァァァァァァ!!」
森林の中から悲鳴が聞こえてきた。
それを聞いてすぐ、
「あっちだ!行くぞ」
と隊長が合図した。
「アルク、お前は木々の上から移動をし周りに敵がいないか確認しろ。トゥルス、お前は………」
隊長は個人個人に命令をしていく。
「―おい!突撃野郎!お前は分隊の護衛をしろ」
突撃野郎は多分俺のことだ。
俺の任務は隊の護衛か。まあ敵地に突っ込むよりは安全かもしれない。
いや、戦場に安全な場所なんてなかったな。
「―了解」
俺は少し声を引き締め、そう返事をした。
悲鳴をあげた兵士らしき死体がそこには転がっていた。
「やっぱり死んでたか…。 しかし敵は近くにいない」
同じ隊の男が兵士の脈が無いことを確認し、そう言った。
「アルクからの報告はまだ来ていないな…」
隊長達が話をしている中、俺は必死に索敵をしていた。こんな短時間で遠くに離れるのは不可能に近い…。
と思った刹那―
50mほど離れた草むらの茂みに敵兵のヘルメットらしき物が見えた。
俺は静かにベガッタを構えた。この距離でハンドガンはかなり厳しい。だが敵の数がまだ完全に把握していない以上、接近するのはマズい。まあレイピアを使えばいけるかもしれないが。
「―どうした?突撃野郎…」
俺が銃を構えている事に気づいた隊長が声をかけてきた。
「敵です。撃っても?」
俺は静かに答えた。
「―あれか…?いいぞ」
隊長が許可を出した瞬間、俺は引き金を引いた。
バンッとハンドガンの銃声が3回なり、弾は一発目は頭に、二発目は首辺りで、三発目は当たったか確認できなかった。
「―突撃野郎…。様子を見てこい」
隊長の指示に従い、俺は銃を収めてレイピアを抜刀した。
隊長に合図をし、先程倒した兵士の近くまでダッシュで接近した。
―敵兵が死んでいるのを確認し、隊長に身振りで合図をした。
周りの気配を感じるため、集中する…。
後ろに3人いる…。
そう気づいた時には既に敵兵はアサルトライフル、あれはM16?をこちらに向けていた。
俺は変則的にダッシュをし、時折こちらに飛んでくる弾をレイピアに当てて軌道をズラした。
「速すぎるぅ…!」
敵兵の1人が驚きのあまりに声を漏らした。
「残念だったな…」
そして俺は3人の敵兵を斬った。
皆、断末魔のような叫びを上げた。まだ聞き慣れている訳では無いので、かなり心に残った。
「…危なかった」
気配はもう殆ど感じなかったので、近くにはいないだろう…。
隊長の所へ合流し、報告した。
「おお!やるじゃないか」
まさか、入隊して間もない新米が戦果をあげるとは思っていなかったのか、隊長は半分驚愕、もう半分は喜んでいる表情だった。
「つい先程、アルクから報告が入った。南に300m先に、敵が400人の隊を作っていたそうだ。」
「400か…」
この隊の人数では厳しい。でも俺達は精鋭部隊だ。精鋭には精鋭なりの戦果が必要だと俺は思う。
俺はレイピアの血を刃物用布巾で拭き取りながらこう言った。
「行きましょう!」