1000文字で終わる異世界転生
気が付くと僕は雲の上に立っていて、目の前には白い布をまとった老人が椅子に腰掛けていた。
「ようやく目を覚ましたね」
「あの、これは一体…?」
「時間が無いから簡潔に話させてもらうよ。君は死んだ。そしてこれから異世界へ転生してもらう」
老人は椅子から立ち上がると僕に手をかざす。すると僕の体は強い光に包まれた。
「いま君のステータスをすべて最大に調整した。これで大抵のことはなんとかなるだろう」
「ま、待ってください! ちょっと話が急すぎませんか? 僕はまだ自分が死んだっていうことも信じられないんですけど」
「細かいことを気にしている暇はないんだ。今から異世界へ転生する。そして君はあと1000文字以内にエンディングにたどり着くんだ」
「は…?」
「君には異世界で暴れている魔王を倒してもらう。だが無理やりステータスを上げたせいで1000文字以内に攻略できないと体が爆発四散する。頑張ってくれ」
老人が再び僕に手をかざすと、僕の体はさらに光を帯び、やがて目を開けていられないほどになった。
「うぅ…」
光が弱まったのでようやく目を開けてみると、そこにはRPGゲームのような街が広がっていた。
「これは現実なのか…?」
「そこの人ー! どいてどいてー!」
声のする方を向くとドレス姿の少女と目があった。と思った刹那、視界が暗転する。どうやらぶつかったらしい。
「ごめんなさい、悪党共に追われてて」
遠くから武装した巨漢の集団がこちらへ駆けて来ていた。
僕は試しに彼らを指差し、心の中で“消えろ”と唱えてみる。
すると僕を取り巻くように青白い光が現れ、人差し指に集まると光は彼らへ飛び出し、街もろともすべてを消し飛ばした。
「はは、ちょっと威力出過ぎじゃないか、これ」
「街がなくなっちゃった…」
震えている少女を無理やり立たせると、僕は彼女の首に人差し指を突きつけながら言った。
「時間がないんだ。魔王の居場所を教えてくれるかな」
「ま、魔王ならここから北へ向かい山を超えて海を渡った先にある城にいると思います…」
「空を飛べばすぐに行けるか」
心の中で“飛べ”と念じる。背中に翼の生えた僕は大急ぎで北へ向かう。
「くそ、もうあと100文字も無いじゃないか!」
僕は魔王城の最上階の窓を突き破って部屋へ侵入した。
「き、貴様は何者だ!?」
「お前が魔王だな! ここで死んでもらう!」
再び指先に光を溜め、魔王に放つ。光は魔王とその後ろすべてを消し飛ばした。
「勝った!完!」